4.6 龍の回想 薬師との出会い 《1》
最終話書き直す前にワンクッション。
本編のネタばれありです。
4.5は裏なのですが、ウェズがデロデロしすぎで悩み中。
大人の事情(これは一人称書きづらすぎる)により、途中から3人称…
シリアスから抜け出れてないし…
いつのまにやら多くの方に読んで頂けたようで、おっかなびっくりです。
尊敬する作者様からランクインしてるよ!と教えて頂き、のこのこ見に行って驚きました。
わざわざ活動報告を見られる方も少ないと思うので、この場を借りてお礼を申し上げます。
隣で死んだように眠るリーゼの髪を撫でながら、俺はこの上ない幸せを噛みしめていた。
彼女の真っ白な肌には、俺がつけた痣が全身に散っている。
まさか、全龍を統べる黒龍の王たる俺が人間と結ばれるとはな。
今後の面倒ごとを思い浮かべ、自然とゆるんでいた頬を引き締める。
3日前に意識を失った人間の娘を連れて俺が帰ってきたとき、龍の谷の者達が唖然としているのは分かっていた。
ろくに説明もせずリーゼと共に王殿の自室にこもった俺を、この3日皆はじりじりしながら待っていることだろう。
この上なく面倒なことは確かだが、1年谷をあけていたのだから釈明をするつもりはないし、一通りの文句は聞くつもりだ。
リーゼを伴侶にしたことに対するものを除けば。
「もう、むりぃ……。」
このえろがきぃ、と呟くリーゼに思わず微笑んで、その皺の寄った眉間に口づけを落とした。
本当はリーゼより100年ほど年上で、龍としても成人をすぎているのだが、その話は彼女が起きてからだ。
悪夢でないなら、それで良い。
シーツに散らばる長い銀髪を撫でながら、 彼女のなめらかな頬に手を滑らせた。
彼女の夢のほとんどが、決して平和なものではないと気づいたのは、半年ほど前のことだ。
珍しく無表情に質問をしてきたあの夜、怪訝に思って彼女の寝室に行った俺は、月の光に照らされ、眠りながら、誰かに謝り続けるリーゼを見た。
それから、彼女が時折夢の中で苦しげに魘されているのを知った。それも、押し殺したように小さな小さな声で。
起きているときは明るく天真爛漫に振る舞っている彼女に、悪夢のことはどうしても聞けなかったが。
だが、もうリーゼは俺の伴侶だ。
何ものも、貴女を傷つけさせたりしない。
彼女の素肌のままの腰を引き寄せ、俺の肌と密着させると、リーゼは眠ったままくすぐったそうに身をよじって吐息を漏らす。
疲れ果てたせいで、シンメノリーの過酷な世話に慣れた彼女も深く眠りについている。
まあ、3日もろくに寝ていないのだから当然か。
腕の中の温かな体温を感じながら彼女の銀髪に頬を寄せていると、その匂い立つ彼女自身の華のような香りが鼻腔をくすぐった。
自然とリーゼと最初に出会った時のことが脳裏によみがえってくる。
『運命なのよ、運命。えっらい神様が決めたの。諦めて治療されなさい。』
偉そうに憮然とした顔で俺をベッドに縛り付けた娘が、今は腕の中で生まれたままの姿で眠っている。
なあ、リーゼ。
貴女がこうしていることも、やはり運命なのだろうな。
深い満足感と共に胸の内でそう呟き、俺は迫り来る穏やかな眠りに身を任せた。
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「……もう1度言ってみろ。」
「だから、ベデルッテ国の王が緑龍の子を捕らえやがったんだって!」
龍王たるウェズの書斎に前触れも無しに侵入したラインは、怒りで顔を真っ赤にさせたまま叫んでいる。
希少種である龍同士の結束が強いのはもちろんのこと、緑龍の長たるラインにとって、緑龍の子は自分の子に等しい。
その子が人間ごときに攫われたのだ、ラインは許可を得次第、すぐにベデルッデに飛ぶつもりなのだろう。
ウェズは何も言わず、椅子にすわったまま腕組みをして目を閉じた。
それを見たラインは大きく舌を打ち、執務机をばん、と叩く。
机の上に乗っていた書類が何枚か宙を舞い、床に落ちた。
「なんでそんなに落ち着いていられるんだよ!龍の子が今頃人間に殺されそうになっているかもしれないんだぞ!」
龍の姿では大きすぎるため、王殿にある執務室にいる二人はもちろん人型である。
そのこともラインの神経を刺激し、頭に完全に血が上っていた。
ウェズはゆっくりと目を開き、その龍王の証である金の瞳でラインを見上げた。
「緑龍の長、私に、逆らうのか?」
一気に部屋の温度が下がる。
絶対強者の威圧。
ウェズがこの事件に対し腹が立っていないわけがなかった。
自分の族の子が攫われ、龍王である自分が馬鹿にされたも同然。
彼の金の目には子の安否を憂う思いと、烈しい怒りに満ちていた。
本能に訴えるそれに、ラインは顔を真っ青にして床に跪いた。
「も、申し訳…。」
「……良い。お前は友だが、私がここに座っている限り、龍王であることを忘れるな。」
ウェズは軽く椅子の肘置きを撫で、手を振ってラインを立ち上がらせると、机の中から数枚の書類を取り出し、ラインに差し出した。
ラインはそれを受け取ると、少しほっとした顔で見て目を瞠った。
「おい、これ…。」