犯人は、お前だッ!
犯人報われんわぁ(ry
俺は今日殺人をした。
今まで憎くて憎くて許せなかったある男を殺した。
そいつは俺の仕える男だった。俺はそいつに雇われていた。そいつは六十後半でどこぞやの世界有数企業の社長で、数億単位の億万長者。使用人を十数人もばかでかい自分の屋敷に住まわせ、生活をしていた。そしてその中の一人が俺だった。お金が無くて、この先行くところがなく途方に暮れていた俺を拾ってくれたのはそいつだった。そのことについてだけは感謝している。道の端で薄汚れて蹲っていた俺に、笑顔で家に来ないかい、と言ってくれたことは正直嬉しかった。この人ならついて行けると思った。
しかし世の中は、俺が考えているほど甘くなんてなかった。そいつは俺にあのとき見せた笑顔とは正反対の醜悪に満ちた顔で俺に事あるごとに怒鳴り散らしてきた。例えばここに埃が溜まっているではないかッ!とか、食事の準備が遅いだろうッ!とか理由はまちまち。俺はそいつにまるでゴミのように蹴り飛ばされ、怒鳴るその汚い言葉に耐える日々。周りの使用人達は助けてくれなかった。関わると自分たちもやられてしまうのではないかと怯え、見て見ぬふりをした。どうして俺なんだ・・・・。どうして俺ばかりこんな目に・・・・・。俺は歯を強く食いしばり、ひたすら耐えるしかない。ここを出て行ってしまったら、おそらく俺は生きていくことができない。どんなに辛かったとしても辛抱して生き抜く。
そんな時が半年過ぎたある日、ついに俺は耐えられなくなった。そいつを殺してしまおうと考えた。もう嫌だ。俺は綿密に計画を立て始める。それはとても楽しい事だった。そいつの殺し方、殺す場所、考えることすべてが楽しかった。もうじきそいつから解放されるんだと考えるだけで胸が躍った。
そして今日。
今日それを実行に移した。
つまりそいつは俺が数ヶ月かけて立てた計画に、まんまと嵌ったのだ。
内心俺は高笑いをしていた。まさかこんなにうまくいくとは!ほくそ微笑む。
今俺に残っている試練は、目の前にいる探偵から上手い具合に逃げ切ることだ。この屋敷一番の大広間に俺たち使用人全員が屋敷の主が死んだということで探偵に集められていた。たぶん事情聴取とかそんなのだろう。だが、俺はそれから逃れられる自信がある。今日に至るまでいくつもの策を練ったのだ。自分だとバレないように練りに練った計画。痕跡一つさえも残してなどいない。バレるはずがない。俺は素知らぬ顔で事情聴取を終える。特に質問という質問はされなかった。これなら大丈夫。逃げ切れる。そんな俺の心境になど気づくはずもなく、相方らしき人と話していた探偵は俺たちに体を向けた。
「犯人が分かりました」
そして俺たちに衝撃的な言葉を放った。俺は内心、大荒れだった。何故どうして・・・!?バレるわけがない!そんなこと起こりえるはずなんてないんだ・・・!探偵の次の言葉を待つ。探偵は探偵界で珍しい女だった。しかも顔を見た感じ新米のようで。完全に舐めていた相手だった。それなのに、何故!?どうして分かった!?その女は静かに伏せていた顔を上げ、俺の瞳をしっかりと見て指を指して言った。
「犯人は、お前だッ!」
「!?」
その言葉は確実に俺に向けて放たれた言葉だった。その探偵は俺から目を離さない。それは俺の心の中が透けて見られているようで。俺は恐怖で震え上がった。小さく口から声が洩れる。
「どうして、分かった・・・・・」
分かるはずなどない。痕跡は跡形もなく消し去った。殺害現場にも細工をした。それなのに知られていた。俺であるとバレていた。どうして・・・・。これではあまりにも悔しすぎる。せめて、どうして俺だと分かったのか訊いておかないと気が収まらない。そんな俺の言葉を聞いた探偵は、俺ににっこり笑って、言った。
「カマをかけてみました」
「・・・・・・・・・・・。」
一瞬で石化する俺に向かってさらにそいつは言葉を続ける。
「いやぁ~、まさかと思って言ってみたらそうだったとは。あなたが自爆してくれて助かりました。最後の最後に気を抜いたのが駄目だったのですよ。やるからには最後までやり遂げないと」
そいつは俺の肩にぽんと手を置いた。
「さぁ、刑務所に行きましょうか」