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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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長年帰ってこなかった最愛の夫が、骸骨になって戻ってきました

掲載日:2026/03/02

「あの人が帰ってきますように……」


 晴天の下、村の入り口で私は祈りを捧げる。

 ここ七年、これが日課だ。

 通りかかった人たちの会話が、耳に入ってくる。


「……アンネさん、また祈ってるな」

「健気でいい妻だよ。本当にガイのやつ、酷い男だぜ」

「そう言ってやるな。あいつだって一生懸命頑張った結果、命を落としたんだ」

 

 そう、村のみんなの中では夫は死んだことになっている。

 七年前、私と子供二人を残して夫は出ていった。

『想いのダンジョンってところに行ってくる! お宝を手に入れたら、アンネを楽させてやれる!』

 それが最後の言葉だった。

 冒険者である夫は、未踏のダンジョンに血が疼いたのかもしれない。

 みんなは無責任だと言うけれど、あの人なりに私たちのことを考えた結果だと思う。


「……あの人は、絶対に生きている」

 

 私のつぶやきが風に乗る。

 そんな簡単に死ぬ人じゃないんだから。

 踵を返し、村に戻ろうとしたときのことだ。

 ガシャン、ガシャン。

 

 なんだろう、この音?

 

 ガシャ、ガシャ、ガシャ——

 

「——おーい、アンネー! 元気にしてるかーっ!?」

 

 えっ!?

 私があの人の声を、聞き間違えるはずがない。

 急いで振り向く。

 すると、手を振りながら誰かがこっちに近づいてくるではないか。


「あなた! あなたーっ! 私はここ……」

 

 言葉が止まる。

 なにかおかしい。

 あの人って、あんなに白かったっけ……?

 ガシャガシャと音を立てながら近づいてきたそれを見た私は、絶叫した。


「きゃあああ——! アンデッドよ!?」

「ちっ、違っ!? 俺だよ、ガイだよ!」

「最近のアンデッドは喋るの!? しかもうちの夫を語るなんて!」

「本当にガイ・ステイブだって」

 

 ここで、私も少し冷静になる。

 さすがにフルネームまで言い当てるなんて芸当、魔物にできるだろうか?

 しっかりと目の前の骨を凝視する。

 顔は……ザ・骨。

 体は……二足歩行の骨。

 一応、人間であったことは読み取れる。


「……本当に、あなたなの? これは、どういうこと?」

「話すと長くなるんだけど、想いのダンジョンでこんな姿になってしまった」

「呪いってこと?」

「……記憶がほとんどないんだ。でも死にかけた記憶だけはある。薄れゆく意識の中、ここで死ねないと想い続けたら……こんな姿に」

 

 もう、どうしたらいいのだろう?

 声は確かにあの人。

 話し方も昔のままだ。

 でも骨だけで本人だと判断できる技術は私にはない。

 そこで、二人しか知らない質問をすることにした。


「あなたが、私にプロポーズしてくれた言葉は?」

 

 彼は恥ずかしそうに、骨の指で頬をかく。

 肉がなくても照れたときはその癖やるんだね!


「……アンネ、俺と一緒になって君が幸せになるかは怪しい。でも間違いなく、俺は幸せになれる。だから結婚してくれ」

 

 あぁ、間違いない。

 この人は百パーセント、私の夫の骸だ。

 たとえどんな姿であったとしても、あの人が帰ってきてくれた。

 その事実に感極まって、私は彼の胸に飛び込んだ。


「待っていたわ、あなたっ」

「あ、ちょ待っ——」

 

 ガシャガシャポキポキッ……

 私が抱きついた瞬間、骨が折れまくって彼の体が崩れて地面に落っこちる。


「ぎゃああああ!?」

「あー、そう驚かないで。よくあることなんだ」

「驚かずにいられないわ!? どうしたらいいの、死んじゃうの!?」

「時間はかかるけど治せるよ。組み立ててもらえる?」 

 

 頭骨が大したことなさそうに話す。

 慣れたものなんだろうか?

 不憫に思いつつも、私は一生懸命組み立てる。

 意外と接着性はあって、組み立ては難しくないようだ。


「……できた。あれ、なんか変ね」

「右と左の腕、逆じゃないかな」

「な、治すわ」

 

 ポキっと折って付け直す。

 今度こそ完璧だ。

 あれ、私は一体なにをしているのだろう?

 

「とにかく、一度うちに来て。じっくり話しましょう」

 

 家まで連れていく。

 幸い、昼食の時間で外に人がほとんどいなかったので助かる。

 玄関をくぐると、夫が感慨深そうに言う。


「うわぁ! 懐かしい我が家だ! レイテルとアーゼはいるかな」

「学校の行事で王都見学会にいっているわ。帰ってくるのは明後日よ」

「そっかー! 二人とも元気そうでよかった!」

 

 夫は懐かしそうに家の中を歩き回る。

 私は紅茶を淹れる。

 

「お、ありがとう。アンネの紅茶は最高だからな〜!」

 

 椅子に座った夫がカップに手を伸ばす。

 器用に、指を取っ手に引っかける。

 そのまま口に運んで、流し込む。


 ジョボジョボジョボ。

 肋骨から全部漏れてるーっ!?

 液体はそのまま床に直行だ。

 私は雑巾で床を拭きながら、話の続きを促す。


「ねえあなた。この七年間のことを教えて」

「……七年も経ってたのか。ダンジョンの下層でこの姿になって、脱出するだけで五年は使ってると思う」

 

 時系列を追って、夫が詳しく説明してくれる。

 下層で死にかけ、気づけば骨に。

 最初は体を動かすのも大変だったが、徐々に慣れていったらしい。

 這いつくばりながら上層へいき、脱出に成功。

 その後、猛獣や魔物に襲われながらも村にたどり着いた。


「想いのダンジョンってのが大きいのかな。俺はどうしてもアンネの元に戻りたいって願い続けた」

「ダンジョンが、願いを叶えてくれたってこと?」

「そうとしか思えないな〜。欲を言えば、肉も残して欲しかった!」

 

 そうだよね。

 けれど、こうやって会話できるだけでも恵まれているのかもしれない。

 

「私は、またあなたとお話できて、嬉しいよ

」


 そう伝えると、なぜか夫はしんみりとしてしまう。


「……アンネ、何年も待たせてごめんな。お宝も持ってこれないし、骨にもなっちまった」

「大丈夫よ。ここからまた始めればいいじゃない!」

「うぅ、うごぉおぉ……!」


 泣いているらしい。

 涙は出ないらしい。

 不思議なのは指の先あたりから、サラサラと骨が崩れ始めている。

 

「ねえ、あなたの体がおかしいわ!」

「……あ」

 

 夫も自分の体の異変に気づいた。

 でも全然慌てた様子はない。

 なにか納得したようですらある。


「そっか。多分、アンネに会いたいって俺の願いが叶ったから……」

「どういうこと? 消えちゃうってこと? そんなの嫌よ」

 

 私が彼に駆け寄ろうとすると、バンと家のドアが乱暴に開けられた。

 

「やはりいるぞ! アンデッドモンスターだ」

 

 若い男女三人が、武器を手に人の家の中に入ってくる。

 見たことない人たちだ。

 少なくとも村人ではない。

 身なりからして、おそらく冒険者だろう。


「さっき、このアンデッドが村に入っていくのを見かけてな。安心してくれ、俺たちがこいつは退治する」

 

 冒険者たちは完全に勘違いしており、私に笑顔を向けてくる。

 私はすかさずに、彼らと夫の間に割り込む。


「貴方たち、人の家に勝手に入ってこないで! この人は、私の夫なのよ!」

「……は? なに言ってるんだ? いいから、そこをどけ。斬り捨てる」

「ふざけないで! 人の旦那を斬り捨てるとか、不徳もいいところだわ!」

 

 らちがあかないので、私はキッチンにいってフライパンを持ってきて構える。


「出ていって! 人の家庭に入ってこないで!」

「なんなの、この人!? もしかしてこの女、ネクロマンサーじゃないの?」

 

 女冒険者が発した言葉に、他の二人の顔つきが厳しくなる。

 ネクロマンサーとはゾンビやアンデッドを操る邪悪な存在だと知られている。

 もちろん、私とは無縁の存在だ。


「そういうことなら、あんたごと斬り捨てるぞ」

 

 男の剣先が私に向いたところで、夫が立ち上がった。


「おい、やめろ。アンネがネクロマンサーなわけはないだろう」

「喋った!?」

「そうだ。俺は呪いでこうなっただけで、彼女の夫なんだ。頼むから、人の家庭を壊さないでくれ」

 

 彼らからしても異常の事態なのだろう。

 男が剣で夫を斬りそうな雰囲気出したので、すかさず私がフライパンで殴りかかる。


「人の夫に、なにしようとしてるの! 出ていって!」

「ちょ、やめろ! もうわかったから! 変な夫婦すぎるだろ!?」

 

 捨て台詞を吐きながら、三人は出ていった。

 ひとまず嵐は収まったかな……。

 けれど、さっきの問題が解決したわけじゃない。

 ガシャ——

 夫の足の骨が折れ、立っていられなくなった。

 夫の体は淡い光に包まれており、いまにも消えてしまいそうだ。


「ごめんアンネ、俺はここまでみたいだ」

「待ってよ! 勝手に浄化されないで!」

「……俺が消えたら、もう俺のことを忘れてくれ。君くらい魅力的な人なら、経済力のある男が好きになってくれるはずだ」

「なにを言ってるの?」

「……楽しかった。ありがとう、アンネ。俺の人生に花を添えてくれて」

 

 グッ、と親指を立ててこちらに向ける夫。

 ああ、ダメだ。

 この人の悪い癖の一つ——思い込んだら止まらない。

 もう自分は消え去ることが正義だと考え出した。

 ここで死ぬことで、私の未練もいずれ消えて、他の男と夫婦になればいいと。

 急に帰ってきて突然消えるとか……なんて自分勝手なの!

 絶対にこのまま浄化を許してはいけない。

 夫は、想いがすべて満たされたら消える……。

 もしそうなら、夫がまだここに残りたくなるようなことを伝えるしかない。

 私は深刻な様子で伝える。


「あなた、こんな状態の我が家を見捨てて、一人だけ天国にいってしまうのね……」

「……こんな状態?」

 

 ピク、と夫の反応が強くなった。

 いい。

 この方向で攻めよう。


「借金もあるし、なにより、あの子たちが……」

「レイテルとアーゼに、なにかあるのか!?」

「あの子たち学校で……。ううん、なんでもないわ。あとのことは全部、私に任せて」

「そんな……気になるだろ!? あの子たちになにが起きてるんだ!?」

 

 さっきまで浄化モードだったのに、夫は落ちている足の骨を取って、自分の足に装着する。

 それからパワフルに立ち上がった。


「アンネ、教えてくれよ。確かに俺は……あの子たちに父親らしいことをできていない。俺の顔だって、忘れているだろう。でも、それでも、俺は父親でありたいんだ!」

  

 浄化の光は消え、体が溶けていく現象もなくなった。

 やったわ……! 

 きっと、浄化を阻止できたんだ。


「浄化が、止まったみたいね」

「……あ。本当だ。俺、まだ生きられるらしい」

「そうよ。簡単に消えるなんて許さないんだから」

 

 私がムクれると、夫は私の頭を優しく撫でてくれた。

 当たり前だけど、骨張っていて少しゴツゴツしている。

 それでも、私はすごく嬉しかった。


「なあ、いまの俺に言う資格があるかわからないけど……俺は君を愛している。その気持ちは、七年前から変わらないよ」

「……私もよ。骨になっても、気持ちは何一つ変わらない」

 

 嘘じゃない。

 心からの言葉だ。

 それが伝わったみたいで、夫は興奮したように抱きついてきた。


「大好きだ、アンネ!」

 

 ガシャガシャポキン——

 抱きつく力が強すぎたようで自爆してしまった模様。


「アンネ……助けてぇ……」

「仕方ないわね」

 

 私は一本一本、愛を込めて体を組み立ててあげるのだった。



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― 新着の感想 ―
何故だろう、王都から帰ってきた子供達が骨になった父親を浄化しそうな予感が……(・・;)
骨に復元性も備わってますよね? 猛獣や魔獣に襲われて紛失したり、オヤツにされた骨もあるはずなのに、一応揃っているみたいなので。 家に帰る為に骨格が復元され、言葉を交わす為に声が復元されたのだとすれば、…
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