0098・開拓者登録と受付嬢
Side:イシス
俺達は開拓者の建物に入り、今は受付の前に居る。
そこいるグレイに話しかけるのだが、年齢も性別も本当に不明でサッパリだ。
服を着ているし、顔もほぼ同じ。更にはツルツルで髪も無い。
これでどうやって見分けろというのか、どう足掻いたって人間の俺には無理な事だ。
なのでそこは意識しないようにする。
気にはなるけど、考えたって仕方ないし。
「すみません。ここで開拓者に登録できるって聞いたんですけど、合ってますか?」
「はい、ここは開拓者ギルドなので合っていますよ。登録は一人100ルルですが、お金はありますか?」
「はい、100ルルですね」
俺は先程貰った小銀貨1枚を受付嬢の前に置く。
完全に声が女性なので、間違いなく目の前に居るのは受付嬢だろう。
性別を知る方法は声を聞く方法で可能なようだ。
言い換えれば声を聞くまで不明だけど。
「小銀貨1枚支払われましたので登録します。まずお名前と出身ですが……」
「イシスといいます。出身は東の開拓地ですね」
「ああ、あそこですか。次に得意な事などがありましたら、どうぞ」
「得意な事と言われましても、特に思いつきません」
「では、無しと……、それじゃお待ち下さい。すぐに登録証を作製します」
そう言って受付嬢は奥へと行った。
受付の後ろには奥に続く場所があり、暖簾みたいな物で隠されている。
チラッと見えたが、中がどうなっているかは分からなかった。
『聞いた事が名前と出身と得意な事、ですか……。基準がよく分かりませんね。得意な事を聞いているのは、おそらく何が出来るかの把握なのでしょうが』
『そんなの聞いてどうにかなる事なの? 剣が得意って本人が言っても、勝手に言ってるだけで下手だったらどうするのよ。聞く意味が無いと思うんだけど?』
『何かしらのアピールポイントってところなんだろうけど、確かに聞く意味があまり無いな。仮に真面目に聞かれても、俺は答えないが』
『そうなの?』
『ああ。そもそも自分の手札を晒すバカは居ないさ。特に【魔術】は言う訳にはいかない。便利扱いされても困るし、領主がしゃしゃり出てきても困る。ここの領主がマシかどうかは分からないしな』
『ですね。村や町に入るだけで税金が掛からないのは、そもそも普通の可能性もありますし、何よりその程度で良い領主だと言われても……。呆れてしまいます』
『まあな。領主としての手腕でなく、税が掛かるか否かだけだからな。それで良い領主かどうかは決まらんだろうに』
「お待たせしました、これが登録証です」
受付嬢が持って来て出したのは、木の板に何やら文字っぽいのが書かれた物だった。
俺はそれを受け取りポケットに仕舞うと、受付嬢から注意点を聞く。
「当たり前の事ですが、誰かを殺めてしまった場合は犯罪奴隷に落ちます。開拓者同士の殺し合いも御法度ですので注意して下さい。もし殺されそうになっても、相手を殺したら犯罪者ですよ」
「なら相手が殺しにきた場合はどうすればいいんでしょう? 流石に一方的に殺されるのはちょっと……」
「その場合は気絶させるに留めて下さい。もしくは捕縛でも構いません。殺してしまいますと、王国法で犯罪者となってしまいますので」
「すみません。根本的な話かもしれませんが、この国って何ていう名前の国なんですか?」
その言葉を聞いた受付嬢は目を大きく見開いたが、その顔はグレイに近いものだった。
まあ、あそこまで目が大きくはならないが、今までで一番グレイっぽかったな。
「開拓地では、確かに国名はどうでもいいですかね。この国はオムテス王国と言います。ちなみにこの辺りが東の最果てですよ。北にモルドン王国があり、南にヤンマ王国。そして西にゼンス王国があります」
「そうなんですか。成る程、初めて知りました。ありがとうございます」
「まあ、他の国に行く事は滅多に無いと思いますが、開拓者なら行く可能性もありますので気をつけて下さい。国名も知らないと田舎者扱いされ、最悪は酷い目に遭いますよ?」
「田舎者はともかく、酷い目……ですか」
「チームに誘うフリをして騙すとか、ダンジョンに行くのに勧誘して殺すとかはあり得ますから、田舎者だと思われるのは止めた方がいいです」
「はあ……分かりました。ですが、ダンジョンってなんですか?」
聞いた瞬間に驚いたが、これだけは絶対に聞いておいた方がいい。
もし俺が想像しているのと同じなら、この星では重点的にダンジョンに潜る必要が出てくる。
ゲームやラノベと同じなら、そこは無限に魔物が出続ける素材の宝庫だ。
特に<時空の狭間>がある俺達にとって、これほどありがたい場所は無い。
永遠に潜っていられるんだからな。
「ダンジョンというのは、何故できたかよく分かっていないものです。一説には神様が作ったとか言われてますね。そこは絶えず魔物が無限に湧いてくる場所で、何故か素材も復活するという不思議な場所と言えばいいでしょうか」
「魔物が無限に湧き、素材が復活する……ですか? ちょっと想像がつきませんね」
よし!よし!よし!よし!よーし!!!
間違いなく想像していたダンジョンそのものじゃないか。これなら素材を山ほどゲット出来るぞ。
別に提出する必要も無いだろうしな、全て<時空の狭間>に持って帰ってもいいぐらいだ。
もちろん怪しまれるから全部を持って帰るのは無理だが、売るもの以外は全て<物品作製装置>行きにしよう。
「ダンジョンは各国に一つずつあります。オムテス王国のダンジョンはここから西に行った場所で、王都の南にある迷宮都市の中にあるんですよ。私はそこの出身ですから」
「あれ? という事は、王都に近い都会の出身……。何で田舎へ来たんです?」
「王都とか迷宮都市って治安が悪いんですよ。それも驚くぐらいに悪くてですね、正直に言ってあそこで生きていたくない程なんです。性格が合ってるなら生きやすいんでしょうけど、私には合わない場所でしかありません」
「はあ、そんなに治安が悪いんですね。もしかして町中で殺し合いでも起きてるんですか?」
「………スラムの一角などでは毎日誰かが殺されていますし、町の者だって連れ込まれて殺されたら分かりません。私の子供の頃の友人は、いつの間にか居なくなっていました。それも一家ごと……」
「………そ、そうですか。行くかどうかは色々と考えてからにします」
「ええ。そうして下さい」
「そ、それじゃ。これで」
俺はそそくさと開拓者ギルドを出た。
普通の受付嬢だと思ってたら、何か猛烈な闇を抱えていたぞ?
何でそんな人物が田舎で受付嬢なんてやってるんだか。
そう言いたくなるが口には出さない。
口に出すと闇が追っかけてくるかもしれないし、こちらから関わり合いにはなりたくないからな。
とりあえず王都を目指して歩いて行こう。
ここから西に行けば王都に行けるらしいしな。
ま、その前にお金を稼がなきゃいけないんで、まずは村を出て魔物を狩ってくるか。
魔力を放射して調べれば、魔物の位置ぐらいすぐに分かるだろう。
俺達は村の入り口へと歩いていき、門番に開拓者の登録証を見せたら素通りできた。
この登録証は身分保障的な物として使えるみたいだな。門番も納得していたし。
となると、おそらくだが怪しい奴等とかは登録できないようになっている筈だ。
もちろんどうやって選別しているのかは知らないが、何かの方法があるんだろう。
俺達は村から出ると、適当に北の方へと歩きながら魔力を放射する。
近くに魔物が居てくれると助かるんだが、そうそう甘くはないか。




