0009・栄養剤と夜の訪れ
Side:イシス
どうも、夜も自然の中で過ごす事になったイシスです。冷静に色々と考えてみたんだけど、拠点である<時空の狭間>でしっかり寝て、こっちの夜は起きて過ごせば良いんじゃない? って事に気付きました。
つまり夜の間も何かしらの活動をしていれば良い訳で、それは後で考えるとしても、まずは一旦<時空の狭間>に戻ろう。
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「お帰りなさい、イシス。何かありましたか?」
「ただいまだ、ヌン。蛇の魔物が狩れたが、それよりもそろそろ向こうは夜になる。こっちだと時間が止まるのを忘れてた所為で、夜の準備を碌にしていない。まあ、こっちで寝て元気になったら向こうに行き、起きて過ごせば良いだけなんだが」
「そうですね。それも<時空の旅人>の強みの一つです。こちらでゆっくり休めば、幾らでも向こうで活動できますからね。見つかれば怪しまれますが、今のところイシスは人里にすら辿り着いていないので問題は無いでしょう」
「ああ、それもあるのか。人間かどうかは知らないが、人間の中で過ごすなら一日中起きているヤツは不自然だな」
「ですね。ただし盗賊とかも居るので、起きている事そのものは間違っていませんよ。もしくは野宿を多くするかです。そうすれば起きていても不自然ではないでしょう。凄腕の猛者と間違われるかもしれませんが」
「今のところ凄腕と勘違いされたら困るな、俺自身に大した力が無い。本当にビックリするほど無いから、指令は一旦棚上げにする。まずは実力を付けるのが先だ。そうじゃないと生き延びる事すら難しい」
「まあ、どういう道筋で指令を達成するかはイシス次第です。そこは好きにして問題ありません。大事なのは指令を達成する事ですので」
「それは分かってる。っと、着いたか」
俺は<物品作製装置>の部屋に移動していたんだが、着いたので手に入れた物を次々に放り込んでいく。と言っても、物を入れる箱の上に取り出していくだけだ。木や切り株に草が次々に入れられていき、最後に狼と蛇を入れる。
パネルを操作して起動、作れる物を確認していく。石の剣とか石の槍の他に、狼の牙の剣とかウサギの牙の槍とかも出ている。あいつらの牙って武器に使えるんだな。そんな中、俺が見つけたのは栄養剤だ。
木を使ったカップを作り、次に栄養剤をカップに入れる形で作製。出てきたカップの中には、強烈に毒々しい緑色の液体があった。あからさまに嫌な予感しかしないが、しかしこれこそが重要な栄養源だ。飲まない訳にはいかない。
「すげぇぜ……。この俺の手が震えてやがる……!」
どっかの漢くさい漫画のキャラクターのように喋っているが、実際には栄養剤にビビってるだけだ。だって凄い濃い植物の臭いがするし、猛烈に鼻に突き抜けるんだよ。
きっと青汁なんて目じゃない。むしろ青汁を50倍ぐらいに濃縮した感じだ。そう聞けば、この悪魔の飲み物が分かるだろう。一日に必要な栄養素の大半がこの一杯に凝縮してるんだ。並の物質じゃないだろう。
「………このまま見ていたって何の解決にもならない。男なら覚悟を決めよう。………いざ! 南無三!!!」
俺は鼻を摘んで無理矢理に飲み込んだ。そのまま鼻を摘んだまま飲みきり、安堵の息を吐く。鼻を摘んでいる指を離したいが、どう考えても嫌な予感しかしない。
しかしこのまま鼻を摘んでいたって解決しない為、俺は意を決して鼻を摘んでいる指を離す。
「………なーんだ。そこまで大したもヴォエェェェェェェェ!!?!?!」
急激に鼻に抜ける異常なまでの青臭さ。地獄のように濃縮されたそれは、森林の芳しい香りなど宇宙の彼方にブッ飛ぶレベルの悪臭だ。
「オェェェェェェェ!?!!? ………ゴホッ! ゲホッ! ヴォエェェェェェェ!?!?!!」
そう簡単に治まってくれない吐き気が何度も襲ってくるが、20分ほど経った頃だろうか? ようやく治まってきた。
「はー、はー、はー、はぁー…………。ああ、マジで気持ち悪かった。如何に素晴らしい栄養剤でも、味と香りが地獄じゃねえか。むしろどうやって作ったんだと聞きたいわ」
「<物品作製装置>が作りました」
「知ってる!!」
ヌンの冷静な一言に「イラッ」としつつも、俺は口直しのステーキを注文しようとして止まる。蛇の内臓を焼いた物があったからだ。単に<蛇の内臓焼き>と書いてあるだけだが、俺はそれが気になった。
「内臓って確か栄養価が高いんだよな。案外こういうのでも少しずつ魔力は増えたりしないもんかね?」
「増えますよ」
「増えるのかよ!!」
「<魔力増強薬>に比べれば微々たるものですが、旅先の惑星の原住民もそうやって増やしているのではないでしょうか? もちろん修行や特訓で増えたりもしますが」
「成る程、修行や特訓でも増えるのか。でも、それじゃ薬に比べて圧倒的に少ないと」
「そうですね。効率よく魔力を増やすには、やはり<魔力増強薬>と<生物修復装置>での最適化が一番です」
「そういえば最適化なんて事も言ってたな?」
「はい。最適化しないと肉体に定着せず、せっかく増えた魔力の総量も減少してしまいます。基本的にはその繰り返しで、少しずつ魔力の総量が増えていくのですよ。それを強制的に定着させる為の最適化となります」
「増えた魔力も定着しないと減るのか。自力だけで魔力の総量を上げている人達は大変だなぁ。とはいえ俺がそれに付き合う義理は無いが」
「ええ。イシスがわざわざ非効率な方法に付き合う必要はありません。そもそも<時空の旅人>に下される指令を熟すには、絶対的に力が必要です。それが無ければ話になりませんので」
「それが事実なんだよなー、一度殺されたからよく分かるわ。とりあえず<蛇の内臓焼き>を食ったら寝るか。夜に向けて体力とかを回復させておかないとな」
<物品作製装置>で<蛇の内臓焼き>を作った俺は、それをさっさと食べて寝室に向かう。蛇の内臓は美味しいものじゃなかったが、それは調味料が無いからだという事は分かっている。だからそんなものだろうとしか思わなかった。
何より栄養剤より100倍以上マシなのだから、俺には文句なんて無い。寝室まで戻った俺は、汚れを【クリーン】で落としたらベッドに寝転ぶ。汚れはヌンが<時空間の歪み>に捨てて消滅させてくれるので、特に気にする必要は無い。
俺が初めて起きた時にも、ここ<時空の狭間>は清潔だったからな。そこら辺りはヌンに任せている。
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十分に寝て回復した俺は、魔法陣から惑星へと降り立った。
夕方だが関係なく、俺は木を倒してアイテムバッグに収納していく。草だって土を柔らかくし、根っこから引き抜いてゲットだ。
クソ不味い栄養剤の為には必要だから沢山手に入れるしかない。味は思い出したくもないけどな。
魔力を放射して魔物が居ないかを確認しつつ、手に入れられるだけの木々を手に入れていく。アイテムバッグにどんどんと詰めていくが、そろそろ夜になるな。
日が暮れて夜になるのは普通だが、それは安全圏に居る時だけだろう。ここは自然の中であり、常に危険が付き纏う場所だ。町に行こうとしなかった俺が悪いんだが、どのみち実力が無ければ移動も儘ならないので仕方ない。
そもそも川下に行けば町があるなんて、俺の適当予想でしかないしな。知的生命体の居る集落があるかどうかも分かっていないんだ。ここで夜の生き方も学ぶしかない。
一人で居るものの、一人でしか学べない事もある。集落や町などに行けば、どうしたって他人の目を気にして出来ない事も増えていく。でも今ならまだ出来るんだ、なら今の内に出来る事をしよう。
そうやって納得させてないと、夜の森ってスゲー恐い。何か妙な鳴き声とか聞こえてくるし、マジでシャレにならんわ。




