0089・ゴブリンとオーガの戦い・その5
Side:イシス
ゴブリンに組み付かれている赤いオーガは何とか振り払おうとするも、ゴブリンの方は決して振り解かれまいとしがみ付いている。
その状態で噛み付いたり石で殴っているが、嫌がっているだけで効果があるようには思えない。
そんな中、一体のゴブリンがナイフのような物を出してオーガに向かって突進。
足を突き刺す事に成功した。
それによってバランスを崩して倒れるオーガ。
そこに群がるゴブリン。
ナイフを持っているゴブリンも参戦し、倒れているオーガを突き刺して傷を増やす。
すると、そこに指を突っ込んで肉を抉り出すゴブリン。
「ギャギッ!!」
「ガァァァァァァッ!!!」
「ギギギ、ギャーギャ!!」
「ギャーギャギャ!!」
オーガの肉が美味かったのか、ワラワラと集まってきては傷口に指を突っ込んで穿るゴブリン。
ナイフを持っているゴブリンはドン引きしているみたいだが、という事はアレは知恵のあるゴブリンか。
痛みで暴れるオーガに対し、お構いなしに傷口を抉って貪るケダモノゴブリン。
体中の傷を広げていくが如く、肉を貪っていく。
ナイフを持っているゴブリンも意を決してナイフで更なる傷を付けていき、そこを更に広げて血肉を貪っていく光景が続く。
流石にバステトもドン引きしているし、俺の顔も引き攣っているだろう。
正直に言って見たいものでは無い。
それでも決着がどうなるかは見ておかなければいけないので、目は逸らさないようにと強く思っている。
痛みで喚くオーガは散々に手足を振り回しているが、それでも餓鬼の如く貼りつくケダモノゴブリンは剥がれない。
最後には出血多量でオーガは息絶えた。
そんなオーガを殺して喜び、更に肉を貪るケダモノゴブリン。
本当に餓鬼というのがよく似合う姿だ。
『流石に醜すぎてなんとも言えないけど、アレこそがゴブリンなのよねえ。だからこそ私達の里でも容赦なくゴブリンを殺すのよ。あいつら異常過ぎるし、ケダモノ過ぎるもの』
『アレを見ていると蛇蝎の如く嫌われるのも分かる。オークはまだ肉が美味いから良いが、ゴブリンは駄目だ。そもそもゴブリンって素材を殆ど利用できないんだよな。食い物の所にも無いし』
『あいつらの肉は食えたものじゃないくらいに不味いのよ。<物品作製装置>ですら食べるようには出来なかったのね。それはそれで凄いと思うわ』
『そうだな。っと、青いオーガが動いたか』
大きなゴブリンを投げ飛ばした青いオーガが、突如としてオーガを食っているゴブリンどもの所に乱入。
ケダモノゴブリンを殴り殺し、蹴り殺し始めた。
怒りの形相をしているので、同胞を殺された怨みなんだろうな。
あっと言う間にケダモノゴブリンどもは殺され、残っているのは大きなゴブリンとナイフ持ちのゴブリン、そして青いオーガだけになった。
『後は貴様らを殺せば、この拠点は我らの物だ。ゴブリン程度では我らに勝つ事など出来まい。まだ拠点には仲間が残っているのだからな』
『くっ! しかし、ここでお前を倒せばいいだけだ。どうせ拠点に残っている者は多くあるまい。何故ならオーガは我らに比べて子が出来難い。そういう意味でも拠点に残っているのは雌ぐらいであろう。ならば殺す事は難しくないわ!』
『チッ! 貴様程度にやらせはせん! この世の頂点は我らオーガだ!!!』
『ふざけるな! 貴様をここで殺して、我らが覇権を握るのだ!!』
『ほう、その物言い、どうやらまだゴブリンどもは残っているようだな。ならば纏めて皆殺しにしてやろうぞ。死ぬがいい!!』
何か構図だけみたら両方が魔王っぽいなぁ。
ゴブリンとオーガだし、どっちも漫画やアニメだと魔王役になる事がある種族だからか? それっぽく見えるのは。
ゴブリンとオーガの戦いが目の前で繰り広げられているが、両者の戦いは一歩ずつオーガの方に傾いている。
理由はパワーとスタミナ、それと体の大きさだ。
やはり根本的な部分の差は埋めがたい。
『どうした、どうした、どうしたぁ!! 我をここで殺すのではなかったのか!! 随分と追い詰められているなぁ!!』
『ぐぅ!! 貴様はここで殺す! 必ず殺してくれるぞ!!』
『ハッ! やってみせるがいい! ゴブリン風情が我らオーガに勝てる事などあり得んのだ!! 貴様らはここで滅べ!!』
その時、ナイフを持ったゴブリンがオーガの背後をとり、ナイフを腰溜めに持って突進。
大きなゴブリンは剣を大振りして、ナイフゴブリンを援護する。
その剣を避けた瞬間、オーガの足に突き刺さるナイフ。
痛みを感じたオーガの左足は崩れ、仰向けに地面に倒れると同時に剣がオーガの胸に突き刺さる。
大きなゴブリンは剣を手放し、地面に尻を付いた後で大きく呼吸をしていた。
どうやら相当に疲れたらしい。
『長、大丈夫ですか!?』
『だ、大丈夫だ。それにしてもこのオーガは強かった。そなたが助けてくれねば勝てなかった程だぞ。ここまで強いオーガは青いこの者だけであろうがな』
大きく呼吸をしつつも笑顔で話す大きなゴブリンと、そのゴブリンに寄り添うナイフゴブリン。
このままハッピーエンドで終わったりはしないのだが、それをやるのは俺達ではないらしい。
『な、なんだ?』 『これは、いったい?』
胸に剣の突き刺さったオーガに黒いナニカが吸い込まれていく。
俺達はそれを見た瞬間、「またか」と思ってしまった。
あれから出てくる事も無かったから、もう出てこないと思ってたんだが……どうやら甘かったらしい。
黒いナニカを吸い込んだオーガは胸に剣を生やしたまま起き上がり、凄まじい咆哮を上げる。
「グルルォォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
その凄まじい咆哮はビリビリという衝撃を感じるほどの激しいもので、大きなゴブリンも動けず、ナイフゴブリンに至っては失神したらしい。
そして【黒の力】を纏う青いオーガは、目の前のゴブリンをターゲットに据える。
ドガァッ!!!
一足で接近したオーガが大きなゴブリンを蹴り飛ばし、大きなゴブリンはブッ飛ばされていった。
そしてオーガはナイフゴブリンの首を鷲掴みにすると持ち上げる。
何とか顔を上げた大きなゴブリンは、それを見て狂乱しながら叫ぶ。
「ギャギャッ!? ギャギャーギャギャ! ギャギャ!!! ギャギギャッギッギ!!!」
何を言っているのか分からないが、おそらく「止めろ!」と言っているのだろう。
必死に叫んでいる。
そんな大きなゴブリンを見ながら、【黒の力】を纏うオーガは鷲掴みにした首を握り潰した。
ナイフゴブリンの首が潰れ、胴と離れた頭が地面に落ちて転がる。
「ギャァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
「ゴォァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ナイフゴブリンが殺された事で立ち上がった大きなゴブリンは、一直線にオーガに走り近付く。
それを迎え撃ったオーガはゴブリンを殴りつけようとするも、ゴブリンはかわしてナイフゴブリンの死体へと接近。
そして手に持ったままだったナイフを死体から取って構える。
どうやら一部冷静な部分は残っているらしく、相手に勝つ為に必要な武器を手にするという事は考えられたようだ。
あそこまで絶叫を上げていたのにな。
【黒の力】を纏って佇むオーガと、それに対して憎しみの目を向けるゴブリン。
おそらくゴブリンには戦える体力も気力も殆ど残っていないだろう。
それでもチャンスは最大限に活かすつもりらしい。
俺とバステトは準備をし、自分達の出番が来るであろうタイミングを計るのだった。




