0088・ゴブリンとオーガの戦い・その4
Side:イシス
「ギギャッ!?!?!!」
「ブルゥッ!! ……ボリッ!」
「ギィィィィィィ!!?!?」
「グチュッ! グチャッ!」
生きながらオークに食われるゴブリンと、それを淡々と咀嚼するオーク。
正にオークにとっては食料でしかないのがよく分かる。
しかし、食われているゴブリンは小さいのが多いな。
もしかしたら子供か? だとしたら、ここは非戦闘員を逃がす為の場所だったのかもしれないな。
かと言って逃がす訳にもいかないんだが。
『どうやらゴブリンの子供などが食われているようね。それだけじゃなく普通のゴブリンも食われているみたいだけど、あれは雌かしら? となると、逃げようとしていたのね。危ない、危ない』
『ここで逃げられていたら、また何処かで増えるという事だからな。それは何処かの犬や猫が食われるという事でもある。食うか食われるか、それが自然の掟だ』
『本当にその通り。だからこそ、ここで死んでもらわなきゃ困るのよ、ゴブリンもオークもオーガも』
『ま、最終的にはそうするつもりだが、俺達の出番はまだだな。このままゴブリン達が食われるのを見守ってからか。それにしてもゴブリンだからか、食われているのを見ても気分が悪くもならないな』
『同族以外はそんなものよ。私は同族が食われるところも見すぎて慣れてしまったけど、他種族が食われているところを見ても、あまり何かを感じたりはしないわね。ましてそれがゴブリンじゃ……』
『完全に敵だもんな。とはいえそれはオークもオーガも変わらない訳だが』
『ええ。どいつもこいつも殺しておかないと危険な奴ばかり。ここで減ってくれるなら大歓迎よ。だからこそ殺しあっている間は手を出さないんだし』
『どうやら一部のゴブリンは奥に逃げたみたいだが、奥に何かあるのかな? もしかしたら居住区画が奥にあるのかもしれない。危なくなったから、住んでいる場所から逃げ出した。そしてそこにオークが来たって感じか』
『それって逃げ場は無くない? それで良いんだけど、何でそんな所に住む所を作ったのかしら?』
『住みやすかったとか色々とあるんじゃないか? 住んでないから状況はよく分からないしなぁ……っと、何か来たぞ?』
俺とバステトが見守っていると、何やら体の大きなゴブリンがやってきて剣を振り回し始め、オークを切り裂いて倒していく。
『おいおい、あのゴブリンは剣を持ってるぞ。あからさまに研究室か何処かから取ってきたもんだろ。しかもそれなりには扱えてるじゃないか』
『本当ね。あのゴブリンは上手く扱ってるんじゃない? 適当に振り回してる感じじゃないもの』
『この腐れオークと、腐れオーガどもめが!! 我がここで貴様らに引導を渡してくれる!! よくも我が子を食らいおったな!!!』
出てきた大きなゴブリンは知性を持っている者のうえ、あの話し方だと一番偉いヤツの可能性まであるな。
そいつが子供を食われたって言ってるって事は、おそらく長の家族が住んでいる区画だったんだろう。
『あのゴブリン、思っているより強いわね。次々とオークを殺しているわよ。それでも他のゴブリンはオークに食われるか、オーガに殴り殺されてるけど……』
『それは仕方がないだろ。他のゴブリンが助けに来ないって事は、逃げ出したか殺されたかだ。そもそもここには青いオーガも赤いオーガ二体も居ない』
『確かに向こうに行ったままね。となると、向こうでゴブリンは殺されてる? もしくはオーガの足止めをしているのかしら? って、言ってたら来たわね』
俺達が隠れている場所のすぐ近くで戦闘が繰り返されているが、そこに青いオーガが走って乱入してきた。
………赤いオーガ二体はどうしたんだ?
『ゴブリンどもめ、やってくれたな! 御蔭で同胞が二体も失われてしまったわ。しかしここで終わりだ! 貴様を殺して知恵を与える道具を奪う!』
『青いオーガだと!?』
『お前がゴブリンの長か! ここで死ぬがいい。知恵を付ける道具も含めて、我らオーガが貰い受ける!!』
『ふふふふ、あはははははは!!! これはお笑いだ! まさかオーガが我らと同じとはな。我らも知恵のある者達はどんどんと減っておる。何故ならニンゲンが居らぬからどうにもならんのだ!!』
『なに!?』
『くははははは、たとえ道具があろうとも使い方も何も分からん。それでは幾ら道具あろうと意味は無い。我らゴブリン族もケダモノばかりが生まれ、もはや賢き者も僅かしか生まれなくなったわ』
『そんな馬鹿な!? ……成る程、我らを謀るつもりだな! その手には乗らんぞ!!』
『謀る? そうであれば良かったのだがな。我らの祖先がニンゲンからこの地を奪い、どれだけ経ったか……。しかし我らに知恵を与えたはニンゲンなのだ! ニンゲンが居らねば知恵は手に入らん。貴様らとて同じであろう!』
『………』
『我らとて同じよ。しかし、だからと言って貴様らのやりようを許す事など無い! 我らが同胞を殺した罪、貴様らオーガを皆殺しにする事で贖ってくれるわ!!』
『ならば我は貴様を殺し、貴様の言う事が嘘であると証明してくれる!!!』
『長を助けるのです!! 全員決死の覚悟で戦いなさい!!』
「「「「「「「「「「ギャッ!!!」」」」」」」」」」
「ブルァッ!!!」
「「「ブルゥ!!」」」
「ガァッ!!!」
目の前で行われているのは最終決戦って感じだな。
未だ俺達は見ているだけだが、それでいいのは楽ではある。
それにしても知恵のあるヤツは思った通りに減ってるみたいだな。
そして困ってるのも同じと。
双方が人間に改造されて知恵を持ち、双方がその知恵を失う事を怖れている。
まあ、上の立場であれば当然の恐怖なんだろうな。
俺にはサッパリ分からんが、ケダモノというか普通のゴブリンやオーガは統制が難しいのは分かる。
投石の指揮をしていたヤツも苦労してたし、言い聞かせる事すら難しいのは見ていた。
そんな者達がどんどんと増え続けていけば、上に立つ者は追い詰められても仕方ないのかもしれない。
碌に言う事を聞かない連中ばかりになっていき、やがては好き勝手に生きていくようになるだろう。
そうなったら組織は崩壊だ。
そのタイムリミットが近付いてくるのは恐怖でしかない。
気持ちは分かるが、人間が生きていない以上はどうにもならない事だ。
おそらくだけど、あの青いオーガも理解したんだと思う。
それでもゴブリンの拠点を奪えば助かると思って来たんだ、今さらその希望は捨てられないんだろうな。
希望が無くなれば、おそらく崩壊の恐怖に耐えられない。
「ギャーーーーーーッ!!!」
「ガァーーーーーーッ!!!」
ゴブリンが剣を振るい、オーガが拳を振るう。
お互いの武器がぶつかって弾かれる両者。
しかしパワーは圧倒的にオーガの方が上だ。
とはいえ、パワーだけでは勝てないのが戦いというもの。
剣自体は弾かれたものの、ゴブリンの態勢は崩れていない。
弾かれても手放していない剣を前に出ながら引き付け、ゴブリンはその剣を青いオーガの足に振るう。
オーガは素早くかわしたものの、それでも浅く切られて青い血が流れる。
お互いが一進一退の戦いを繰り広げているものの、その傍らではゴブリンとオークとオーガの戦いが佳境を迎えていた。
「ギィッ!!」
「ガァッ!!」
「「「「ギャギャ!!」」」」
オーガ一体に対してゴブリン五体で戦っているが、噛みつきや石を持って殴るなど、とにかくオーガに絡みついて離れないように戦っている。
この戦い方をオーガが嫌っているので当然の戦法だろう。
流石に組み付かれては戦い難くて仕方ないだろうからな。




