0083・山のゴブリン
Side:???
東の山に陣取る腐れオーガどもめ。
オークの連中を嗾けてまで我らの山を奪おうと手を出してくる。
ここは我らが祖先が何度も敵を防いで守り抜いてきた地。
単細胞のオーガ如きに渡してなるものか。
必ずや父祖からの地を守らねばならぬというのに、愚か者どもが多すぎる。
父から伝え聞いた話では、我らの同胞には頭が良い者がもっと多かった筈だぞ。
気付けばまるでオークどもやオーガと変わらぬ野蛮さではないか。
何故こうなったのだ!?
『長、何か悩み事があるのでしたら、私がお聞きしますが……』
『ぬ。上に立つ者として出してはならぬ姿を見せてしまったようだな。………そのような顔をいたすな。年々我らが同胞に愚かな者しか生まれぬようになっておる。あれではオークどもと何も変わらぬし、このままでは我らは崩壊しかねん』
『それは……申し訳ございません』
『そなたや雌達の所為ではない。父の子も私以外はまるでケダモノと変わらなんだのだ、誰の所為でもないのであろう。このままでは何れ、我らは東のオーガに倒されてしまいかねぬ。故に賢くあらねば生き残れん』
『私達が賢き子を産んでいれば、左様な悩みは……』
『言うな。賢き子も数が少なければ如何様にもならぬ。長だけが賢くとも他が愚かであれば意味は無い。そのような者では満足に連携もとれぬのだからな。そなたと我の子も……』
『………』
何故このような事になったのであろうか?
年々ケダモノが増え、どんどんと賢き子が減っておる。
せめて己で何かを考えられればいいのだが、それすら出来ずに「ギャアギャア」騒ぐだけ。
更には料理もせずに生で齧りつくなど……。
アレが我が子かと愕然としたな。
かつては兄や弟をケダモノとして見ておったが、父は悲しそうに見ておった。
今ならその気持ちが痛いほどによく分かる。
出来るなら賢き子として生まれてきてほしかった、しかしそれは叶わなかったのだ。
しかも次代の担い手が未だ生まれてもおらぬ。
このままでは我が最後の長になってしまうぞ……。
しかしこればっかりは努力したとて生まれてきてくれるかは分からん。
何とか雌達と頑張ってみるが、上手くいく保障は何処にも無い。
『東のオーガが攻めて来たとしても、ここならば守りきれます。しかしこのまま同胞が減り続けていくと、この先どうなるかは……』
『まず間違いなく持たん。我が最後の長として戦い抜くしかない。そなたら雌は出来得る限り逃げろ、決して捕まってはならんぞ』
『長……しかし』
『例え先祖伝来の地を失ったとしても、我らの血は残さねばならんのだ。もしかしたら同胞を率いてこの地を取り戻す子孫が生まれてくるかもしれぬ。ならば血は何としても残さねばならん』
『………はい』
分かってくれたか。
例えここで死のうとも、我は祖先から続く勤めを果たすのみ。
この地は我らが祖が犠牲を多く払って手に入れた地なのだ。
古くに居たニンゲンとかいう者どもを始末し、我らが手に入れたのだからな。
我らの祖はケダモノと変わらなんだと聞く。
しかしニンゲンとやらが我らに知恵を与えて利用しようとしたらしいが、我らが祖は逆にその知恵でニンゲンを滅ぼしこの地を手に入れたのだ。
それからはずっと我らの地である以上、必ずや誰にも奪わせんぞ。
最悪は逃がさねばならんが、我の代でこの地を奪わせはせぬ。
必ずだ!!
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Side:イシス
地面に刺さっている罠を見ながら、魔力を放射しつつ調べる。
まるでスニーキングミッションの如く、なるべく音をさせないように歩く。
ちょっとテンションは上がっているが、上がると雑になるので落ち着こう。
バステトは猫なので、音をさせないように歩くのはお手の物だ。
むしろ二足歩行のゴブリンの方が音をさせている。
もちろんブーツを履いている俺も酷い。
っと、二体近付いてくるな。
『バステト。向こうから二体くるが、間違いなくゴブリンだろう。俺とバステトで一体ずつ殺るか? それとも俺だけで終わらせようか?』
『二人が同じゴブリンを狙うと失敗しそうだから頼みたいけど、イシスは二体同時にいけるの?』
『一体は【ヒートバレット】で、もう一体は短刀で首を斬る。それで大きな声は出せない筈だ。……来たぞ』
ザッザッザッザッザッと、規則正しい音で歩いてくるゴブリン。
まるで軍隊のようだなと思いながら、いきなり飛び出した俺は左のゴブリンの首に【ヒートバレット】を放ち、右のゴブリンの首を切り裂く。
魔力を通した短刀は容易くゴブリンの首を切り裂き、派手に血飛沫を撒き散らす。
左のゴブリンは喉をやられて声を出せず、右のゴブリンは大量出血で失神した。
後は放っておけば死ぬが、素早く殺す為に左のゴブリンの首を刎ねた。
元々体が大きくないゴブリンは首も人間ほど太くないので、短刀で十分に首を刎ねる事が出来る。
それに魔力を通した短刀は切れ味が鋭い。
ゴブリン如きは問題なく切り裂けるし刎ねられる。
『よし、上手くいった。殆ど音はしなかったが、代わりに結構な血が出てるな。今の内にアイテムバッグに仕舞っておかないと』
『そうね。音は問題ないけど、臭いで感付かれかねないわ。割と上手くいったと思うけど、イシス的にもそうなの?』
『そうだな。上手く他のゴブリンに知られずに殺す事が出来たし、成功と言って良いんじゃないかと思う。この山にどれだけのゴブリンが居るかは分からないが、一斉に向かってこられるのが一番困る。なので出来る限り知られずに暗殺して回りたい』
『限度はあるんだろうけど、確かに気付かれずに出来るだけ減らしたいわね。というよりそうしないと何回か殺される羽目に陥る可能性があるのか。流石に100体で一気に攻めてこられると、避けようも防ぎようも無いものね』
『そうなんだよ。数の暴力というのは厄介で、鉱山でも酷い目に遭ったろ? アレは大量のGが燃えてパニックになったから勝てたのであって、一気に襲い掛かられていたら勝ち目は無かった』
『ああ……アレは無理ね。普通に戦ってたら、絶対に殺されてる。火炎瓶の御蔭だったもの』
『本当に火炎瓶が無きゃ死んでたからなぁ。それを考えると、弱い相手でも数の暴力は舐めちゃいけない。っと、もしかしてまた来たのか?』
ドスドスドスドスドスという乱雑な音が鳴り、「ギャアギャア」という声で話しながらゴブリンがやってくる。
さっきの奴等は軍隊みたいだったのに、今回の奴らは普通のゴブリンって感じだな? どうなってるんだ?
『バステト。こいつらは一旦通過させる。それまでは黙って身を隠していてくれ。血の臭いでどういう行動をとるか分からないが、流石に六体は一気に倒せない』
『分かってる。流石にそれは無茶だし、一人では無理よ』
「ギャ?」
「ギャギャ!」 「ギャ~?」
「ギャギャッギャ」 「ギャッギャ!」
「ギャーギャ」
血の臭いのする場所を色々と探していたようだが、死体も何も無いからだろう、諦めてゴブリン達は進んで行く。
俺とバステトは隠れていた場所から音をさせずに出ると、ゴブリン六体を後ろから強襲。
【ヒートバレット】を三体ずつに放ち、全て頭に発射して脳を潰した。
後頭部から螺旋回転で入った【ヒートバレット】は、その回転で脳をズタズタにし、一撃でゴブリンを殺し頭の中に留まって消える。
血飛沫は噴出せず綺麗に倒せるので、やはり【ヒートバレット】で殺した方が良いな。
俺は素早くゴブリン六体の死体を回収し、「ホッ」と一息を吐くのだった。




