0082・石垣二段目の上へ
Side:イシス
石垣のある山の下にいる俺達は、石垣の向こうから石を投げてくるゴブリン八体を倒した。
とはいえ「ギャアギャア」喚いていた奴等なので増援が来るかもしれない。
その事もあって迂闊には進めない俺達。
「このまま動かない状態が続いても仕方ないし、やっぱりあの石垣は登るべきだろう。魔力の放射で確認していれば、ゴブリンが近くに居るかも分かるしな。接近に気付いたら逃げればいい」
『そうね。この山に八体しか居ないなんておかしいし、絶対にあり得ないわ。結構な高さをしている山だし、数百は居るんじゃない? 最悪は千に届くかも』
「だよなー。どれぐらいの高さかは分からないけど、少なくとも7~800メートルはある山だぞ。その先の山が更に高いからアレだけど、この山も十分に高い。間違いなく大昔は防御施設だった筈だ。今は遺構として残ってるんだろうけどな」
『人間が生きていた頃に作ったものかー。わざわざこんな物をと思うけど、これ思っている以上に厄介よね? だとしたら作った価値はあるのかしら?』
『こういうのはそれだけじゃない。中の道が入り組んでるだけじゃなく、更に上から奇襲が掛けられるようにしてあったり、見た目で迷うようにされている場合もあるんだ。敵の侵入を防ぐ為のものだからな』
『それは厄介ねえ。しかもゴブリンがそれを見つけて悪用してるって訳だし、本当に面倒な事をしてくれるわ』
「それでも建物が残っていないだけマシだ。石造りの建物の場合は残っている可能性があるんだよ。それを考えると、ここで使われていた建物は多分だけど木造だったんだろう。その場合は時間経過で朽ちるからな。残ってなくて良かったよ」
会話を続けてはいるが、俺達は石垣に近付いて魔力を放射する。
特に斜め上に向かって放射するも反応は無かったので、今のうちだと思い登り始める。
バステトを首に巻いた俺は【身体強化】を使いながら石垣を登り、さっさと先程のゴブリンどもの場所まで登りきった。
ここの石垣はキッチリ綺麗に隙間無く積んである物ではなく、荒く積まれているだけなので手や足を掛ける場所はある。
無いなら無いで【魔術】を使って無理矢理に作れば良いだけなのだから、大した手間も時間も掛からない。
俺は石垣の向こうに倒れていたゴブリンの死体をアイテムバッグに回収し、それが終わったら右手側に移動していく。
どちらに行っても良かったのだが、悩む必要も無いので適当に決めた。
それよりも一ヶ所で留まる方がマズい。
上からは見えやすいので発見される可能性が高いんだ。
何故かは分からないが、この辺りには碌に木々が無い。
石垣がある所為かとも思うが、今考える事でも無いので緊張感を持って移動する。
とはいえ、そういう時ほど何故かどうでもいい事を考えてしまうので、俺は周囲の警戒に集中する事にした。
ある程度を移動すると木があったので近付こうとしたが、何故かポツンとある木に嫌な予感がしたので離れる。
『あれ? 木があるのに近付かないの? 上から見られる可能性は減るのに……』
『あんな所にポツンとある木って逆に怪しくないか? 正直に言って俺は怪しいとしか思えない。もし俺なら確実にあの木の近くに罠を仕掛ける。侵入者にとって都合が良いし、防衛側には得が無いんだよ。あの木』
『確かに怪しいと言えば怪しいかな? まあ、罠の可能性があるなら近付かないのが無難ね。それより魔力反応が近付いてくるわ』
『隠れる所は無い。素早く敵を倒して騒がれないようにしよう。と言っても、最初に随分と騒がれたけどな』
俺とバステトは素早く走っていき、俺達を見つけて「ギャアギャア」騒ぐゴブリンに対して一気に襲い掛かる。
【ヒートバレット】を連続して発射し、確実に一撃で息の根を止めていく。
ヘッドショットの御蔭か七体ほど居たゴブリンは時間も掛からず始末できた。
俺はすぐに死体を回収し、痕跡をなるべく残さないようにする。
【ヒートバレット】は貫通しなければ撒き散らしたりしないので、上手く使えば臭いという痕跡を少なくする事が可能だ。
そして俺もバステトも貫通するほどの魔力を篭めたりはしていない。
脳髄を撒き散らしても良い事など一つも無いので、殺せない程ではない程度の魔力で戦っている。
もちろんそれが一番魔力の消費が少なくて済むからだ。
俺達は石垣を上がった所をグルッと回っているのだが、どうやらここには上がる場所が無いらしい。
一段目の石垣の上には、新たにもう一段石垣があるのだが、どうやらコレも登る必要があるようだ。
ゴブリン達も登っているのかもしれないが、普通は何処かに階段なんかがある筈なんだが……。
『どうしたのイシス? 石垣の方を見て』
『普通は内側の石垣を登る用に階段なんかが付いている筈なんだが、それが見当たらないなと思ってな。もしかしたら突破される事が前提で、最初から付いてないんだろうかとも考えてる』
『階段が無いって事は、またイシスが手を掛けて登るしかないって事? それしかないなら仕方ないけど、上から攻撃してこないのが不気味なのよねえ……』
『だよな。これだけの防御施設なんだから、かなりの数のゴブリンが居る筈だ。にも関わらず、今までに遭ったのは八体と七体。巡回している兵士がその程度と言われれば、納得はするが……』
『つまり向こうっていうか、ゴブリンどもの多くはまだ気付いていない? 特に上に居る奴等が気付いてないから、そこまで大きな事にはなっていない可能性があるのね。遠くから私達の事が見えていたのに、一番下の奴等は伝令すら出さなかったのかな?』
『そもそも伝令を出すというか、伝令を置くという発想があるのかどうかすら怪しいぞ? それぞれが役目を担うというより、強い奴が偉い。以上。って感じかもしれん』
『それは流石に、と言いたいところだけど、ゴブリンどもなら十分にありそうなのよね。偉いヤツは何もせずに、下っ端に全てを押し付けてるなら気付いてもいないでしょうね』
『仮に気付いていても、下っ端が何とかしろというぐらいにしか考えていないのかもな。あの建物のボスゴブリンもアレな奴だったし……』
『確かに……。犬達が騒いでから、やっと出てきたものね。それまで気付く事もなく、部屋に閉じ篭もってたし』
『そういえばそうだった、な! っと』
俺は2段目の石垣も登りきり、その上に立った。
流石にここから上は石垣のような物も無いのだが、本番はここからかもしれない。
一番下と一段目の石垣には何もなかったのだが、ここからは木々が生えているんだ。
身を隠す事は出来るが、同時にゴブリンも身を隠している可能性が高い。
ここからは厄介な地帯だが、俺達にとっても利がある以上は、ある意味で先程までよりは楽だと言える。
上から見られたら隠れる事が出来ないよりはな。
『隠れられるなら、まだやりようはあるものね。だからさっきよりはマシというのは分かるわ』
『上からだと完全にバレるからな。石垣に張り付いて体を隠そうとしても見つかる。むしろさっさと上がってきたのは正しいだろう。問題はここからは罠があっても分かり辛いという事だ。特に足下系の罠だな、分かり難いのは』
『ゴブリンが何処までの罠を使えるかは分からないけどね。それでもイシスやヌンが言っていた罠は危険だから慎重に進まないと』
『流石にブービートラップのような物は。ゴブリン達も知らないと思うぞ? 仕掛けるのに手間も掛かるし、物も色々と要る。だから!? ……仕掛けられていても、こんなもんだろうよ』
そこには地面から突き出た、斜めに切られた木の先端が地面に埋められていた。
踏んだらグサッと刺さる罠だが、この程度ならゴブリンでも仕掛けられるだろう。
間違えて踏むマヌケは居そうだが。
ちなみに俺はブーツの御蔭で助かっている。
が、バステトは慎重になる事を決意したらしい。
まあ、バステトは靴とか履いていないもんなぁ。
二足歩行じゃないから長靴は履けないし。




