0079・海と魚と猫と
Side:イシス
バステトに新しい首輪を着けた俺は、金属の糸で作った首輪が重たかったと愚痴を言うバステトを宥めつつ、魔法陣に乗って惑星へと移動する。
海の前へと出てきたバステトは、早速海に魔力を放出しながらも干渉を始める。
ここで重要なのは干渉をしているが、同時に干渉していないというギリギリをキープする事だ。
これに関しては補助する道具が無いとかなり厳しい。
だがそうしないと微細な抵抗を感知できないのと同時に、強いと魚が異変を感じて逃げてしまう。
最初に一度失敗したんだが、それは魔力での干渉が強くて逃げてしまったのだ。
おそらく惑星に下りてすぐの川でも魚に感知されたのは、水の方が空気よりも魔力を通しやすく、その所為で魚は微細な魔力にも気付いたんだと思う。
つまり、空気に干渉しただけなら、陸上の生き物も見つけられる可能性が高い。
この方法は陸や海に関わらず使えると思うが、遠くまでを調べようと思ったら相当の制御力を必要とするだろう。
なので近く限定になってしまう。
おまけに広い範囲をくまなく調べるので、魔力の消費はどうしても増える。
出来れば魔力消費を減らしたいが、それは薄く放出している魔力を更に薄くするしかない。
そうなると更なる制御力が必要とされると同時に、今の感知力もよりも鋭敏なものを身につけないと無理だ。
なので何処かで頭打ちになるだろう。
それでも魔石を持たない生き物を探せるだけマシだと思うしかないな。
今までは分からないままだったのだから、それから比べれば格段の進歩と言える。
おっと、バステトも球体にして飛ばしたな。
派手に魚が後ろに飛んでいってる。
『イシス。やり方はだいたい分かったから、後ろに居て魚をキャッチしてくれない? 今から飛ばすから』
「了解だが、殺してアイテムバッグに入れていくぞ? そうしないと砂が付いたままになるし、どうせアイテムバッグに入れて<時空の狭間>に持って帰るんだしな」
『それでいいわよ。何も綺麗にキャッチしてほしいとは思ってないし、それをしたところで何か意味がある訳でもないしね。ところで底の方にも何か居るんだけど……』
「それは分からんな。それこそナマコかもしれないしアサリかもしれない。小さい海老や蟹の可能性もあるから尚のこと分からないな。案外とカレイやヒラメだったりして」
『よく分からないけど、海にはそれなりに底の方で生きている生き物がいるのね。それならいいんだけど、変なのが居るのかと思ったわ。鉱山の中のアレとか』
「船着場には似たような感じのが居るけど、ここは砂浜だからなぁ……居ないと思う。俺も知識があるだけでしかないんで、本当に居ないかどうかは知らないけど」
『あの虫に近いのが海にも居るわけね。まあ、居ない方が不自然と言ったらそれまでかな。とはいえ、海の中に居るとは思えないし、そこは助かったと言えるところかしら?』
「海の中で呼吸する為の能力を持っていない限りは、溺れて死ぬだけだからな。フナムシが水中で呼吸できるかは知らないけど、おそらく無理じゃないか?」
『フナムシっていう虫なのは分かったけど、見た事が無いからどんなのか分からないわね。まあ、とにかく後ろに飛ばすから頼むわよ』
「分かった」
俺は後ろに飛ばすというバステトの言葉を受けて、波打ち際から離れる。
ある程度の距離を離れたら短刀を右手に持ち、いつでも魚の頭を落とせる準備をしておく。
ちなみに<物品作製装置>に入れれば自動的に解体されるので、死体を突っ込むだけで済む。
バステトが水球で飛ばしてくるものの、海水には当たりたくないので回避し、下に落ちた魚の頭を素早く落としてアイテムバッグに入れる。
次々に飛んでくるが、それだけ色々な魚を食べてみたいのだろう。
気持ちは分からないでもない。
飛んでくる魚の頭を落として回収するのを繰り返していると、突然大量の海水と10匹以上の魚が飛んできた。
どうやら群れが回遊してきたらしい。
それは良いんだが、一匹一匹は思っている以上にデカいんだよなー。
既に人間が居なくなって久しいからか、大量に海洋生物を捕獲する者が居なくなったのだろう。
この惑星の海の魚は全部大きい気がする。
そもそも最初に俺が飛ばした魚でさえ、体長は50~60センチぐらいはあった。
バステトもその程度の大きさは当たり前に飛ばしているし、今回の群れのヤツは70~80センチもの大きさだ。
このままなら簡単にメートル超えをしそうな気がするし、おそらく実際するだろう。
「バステト、ストップだ。ちょっと待ってくれ!」
俺はバステトを止めると、せっかく群れが来ていたのに止められたバステトが不服そうに振り返る。
俺はすぐに移動し、バステトの近くに<魔力操作補佐杖>を置く。
「地面に置いているだけでも使える筈だ。流石に群れが来たとなると数は多い。これを使わないと持ち上がらない可能性が高いから置いておく。魚人間が来るかもしれないんで注意してくれ」
『ありがとう。これがあれば楽になるだろうから助かるわ』
バステトは右前足で地面に置いた<魔力操作補佐杖>を踏むと、【魔術】を行使して魚を飛ばす。
俺はそれを走って追いかけつつ、地味に【身体強化】をしながら処理と回収をしていく。
なかなか大変だが、出来なくはないな。
上手く【身体強化】をする練習になるかもしれないし、効率よく使う方法を考えながら回収していくか。
…
……
………
気付けば朝日が昇ってきたので、そろそろ夜の漁は終わりだ。
バステトもやりきった感があるのか、朝日が昇っている水平線を感慨深げに見ている。
そんな映画のワンシーンみたいな情景だが、俺は三回も<時空の狭間>に帰る羽目になったんだぞ。
しかもアイテムバッグに入りきらなくなったから帰ったんだよ。
それだけじゃなく、途中から地味に【ストレージ】まで使っていた。
そちらに入れても限界で、残りの二回も帰らざるを得なかったんだ。
そのうえ現在もかなりの量の魚が入っている。
途中でイカとかタコとかも入ったが、海老とか蟹とかも回収した。
本当に根こそぎ獲ったんじゃないかと思うくらいだ。
実は二回目に戻った時、とある物が作れるようになっていたので急いで作った。
ちなみにそれは<魚醤>であり、俺はそれを見た時に飛び跳ねたいぐらい嬉しかった。
塩と魚だけで作れる調味料であり、<物品作製装置>だと一瞬で作れたのでビックリしたものの、既に作製済みだ。
ちなみに他には<肉醤>というのもあった。
おそらく肉類から醤油のような物が作れるのだろうが、これは大量の塩を得たからウィンドウに出たのだと思う。
味噌は無いが、先に醤油っぽい物は入手できた。
これで料理のレパートリーも多少は広がるだろう。
俺が作る訳じゃないので偉そうな事は言えないが、それでも調味料が増えればレパートリーが増えるのは必然だ。
当たり前の事であり、それ故に期待している。
「そこで格好つけているバステトさんよ。そろそろ疲れたんで<時空の狭間>に帰りたいんだが? いったいどれだけ魚を獲ったら気が済むんだよ。獲り尽くす気か」
『………何かこう、やりきった感が凄いのよね』
「そりゃそうかもしれんが、こっちは大変だったんだがな。首を落としては回収、首を落としては回収。たまに混ざっているイカとかタコは目の間とかを突き殺して回収。海老と蟹は頭を落とすのと、半分に切り裂いて回収した。殺し方が分からなかったんでな」
『まあ、回収できたら何でも良いわよ』
「それじゃ、本当に戻ろうか。流石に疲れた」
俺は地面に置いておいた<魔力操作補佐杖>を拾い上げ、バステトと一緒に<時空の狭間>に戻る。
ようやく地獄の夜が明けたが、同じ事は当分する気にならない。
それにあれだけ魚を獲ったんだから、当分は同じ事をするとは言わないだろう。
………多分。




