0077・海へ
Side:イシス
俺達は浄化道具を設置した場所から真っ直ぐ東へと進みつつ、草花をゲットして収納していく。
魔物の姿は全く感知できず、オーク以外の魔物も全く居ない。
とはいえ完全に居なくなったとは言い難く、まだ何処かに居る筈だ。
かなりの数を俺達が殺したとはいえ、完全に居なくなったとは言えない。
何故なら町の連中を追いかけた奴等があれで全部とは思えないからだ。
鉱山の方向へ逃げた連中が居るなら、十分に生き残っている可能性が高い。
向こうでゴブリンなどを食っていて生き延びていれば、やがて町の方に行く危険性は高いと思う。
『私もそう思うわ。正直に言って、あれで全て居なくなったと考えるのは時期尚早よ。ハッキリ言えば危機感が足りないんじゃない? 私なら警戒するけど………あの猫達は気付いているのかしら?』
『まあ、無理じゃないか? 俺達が作った墓すら邪魔だと言わんばかりだったしな。あのバカ猫もそうだが、今ごろは自分達の天下だとでも言っていると思うぞ?』
『町の者の数が減ってるんだから、天下どころじゃないと思うんだけどねー。でも、ああいうバカはそう考えそう。その結果、途方に暮れるんじゃないかしら。仮に犬族が帰ってきたら、間違いなく主導権争いが勃発するだろうし』
『そうだな。あそこは犬の長と猫の長、そしてその上に長老が居るという形だった。とはいえ町が崩壊した以上、前と同じ状態には戻れない。主導権をどちらが取るかで骨肉の争いをするだろう』
『かつてそれで揉めて長老を置く事にしたんでしょうにね。また昔と同じ過ちをするんでしょうよ、ああいう連中は。………とはいえ、今度揉めたら終わりでしょうけど』
『俺もそう思う。唯でさえ数が減っている状態で、仲間割れなんぞしたら終わりだろうよ。狩りをするにしても数が要るし、そうでなければ食料は得られない。猫は犬ほど嗅覚が鋭くないからなぁ』
『反面、夜でも割と見えるんだけどね。とはいえ犬のように鋭い嗅覚は確かに無いのよ。犬と猫が協力していたから町の規模を維持できたんでしょうに、協力が出来ないなら集落単位で生きるしかないわね』
『町だから偉そうにしていたのに、集落単位まで落ちたら周囲は助けてくれるのかねえ……? 俺は無理だと思うがな。あの狩りが得意な犬達は西の集落の一員になってるし、町の方に戻る事は無いだろう』
『余計に苦しいわよねえ、狩猟班の多数がオークとの戦闘で亡くなってるんだもの。これから本当にどうするのかしら。狩りって簡単じゃないんだけど』
『まあ、それもこれも、全部まとめて連中が何とかする事だ。俺達が関わる事でもない。俺達は新たに瘴気の集まる場所を見つけて設置していくだけだ』
『まあ、そうね。っと、森をようやく出たけど、海って何処にあるのかしら?』
『地図では南だったから………おそらくこっちじゃないか?』
俺は何となくで南であろう方角に移動していき、遠くから「ザザン、ザザーン」という音が聞こえだしてきた。
この音が聞こえるという事は海が近い筈なので、俺の決めた方向は間違っていなかったと言える。
『何だか妙な臭いがするんだけど、これって何の臭い?』
『おそらくは潮の匂いじゃないか? 臭いかそうでないかはそれぞれによるな。良い匂いだという者も居れば、臭いと言う者も居る。とはいえ海の匂いとはこういうもんだ』
『ふーん……』
バステトは臭いとは思っていないみたいだが、嗅いだ事の無い匂いに驚いているだけだろう。
そのうち気にならなくなる筈だ。
っと、夜だから気付かなかったが、前が完全に海じゃないか。
砂浜だったから分かり難かったが、岩場とかなら分かりやすかったのにな。
とはいえ逆に岩場なら危険すぎて、朝になってからでしか入らないけど。
流石に滑って転んで頭を打つ可能性が高いし、危険だ。
岩場っていうか磯ってさ、思ってる以上に滑るんだよ。
ゴツゴツしてるから大丈夫だと思ったら大きな間違いであり、夜は特に危険で近付いちゃいけない。
そういう知識が俺の中にある。
「砂浜だから危険は無いと思うが、何処かに魔物が居るかもしれないから注意してくれよ? 海には海の魔物が居るだろうし」
『それは分かってるわよ。周りには見えないけど、何が居るかは分かったもんじゃないからね。急に海ってヤツから、上がってきた、り!?』
俺達は素早くバックステップをして、海から距離をとる。
バステトが驚くのも無理は無い、目の前の海から魚人間が上がってきたんだからな。
いわゆる<マーマン>とか<サハギン>と言われる連中に似ていると思う。
ただしゲームなどに出てくる連中だが。
アレも色々な姿があって判然としないが、とにかく鱗のある魚人間みたいな見た目だ。
そいつは何を語るという事も無く、いきなり背後の海水を球体にして撃ち込んできた。
魔法陣が出ていたので魔法だと思うのだが、となるとコイツは魔物だという事になる。
俺は慌てて魔力を放射してみたが、周辺で魔力反応があるのはコイツだけだ。
そう思っていると、バステトが【ヒートバレット】を頭に撃ち込む。
魚人間の額に当たったものの、相手の頭が少し後ろに動いたくらいで大した傷にはならなかった。
おそらくだが鱗で防がれているんだろう、なかなかに厄介な事だ。
俺は<魔力操作補佐杖>を魚人間に向け、結構な魔力を篭めた【ヒートバレット】を発射。
それは魚人間の額を貫通して背後へと貫いていった。
その一撃を受けた魚人間は後ろへ倒れたものの、その後に起き上がろうと動く。
「ニャアッ!?」
「こいつ、魚だからか弱点が頭じゃないのか? それとも傷が小さくて足りない?」
「ニャ!!!」
バステトが結構な魔力を篭めた大きめの【ヒートバレット】を魚人間の額に撃ち込んだ。
それは額から上を弾けさせ、再び倒れた魚人間は動く事が無かった。
「………ふぅ、俺の攻撃は範囲が足りなかっただけか。それなら良いんだが、頭を潰しても死なない怪物だったら困ってたぞ」
「ニャ」
「魚だから頭にあんまり何も詰まってないのか? どのみち小さな範囲じゃ倒せないという事と、半端な威力だと鱗で防がれる事は分かった。そこを踏まえた戦いをするしかないな」
「ニャー」
「この惑星の海は初めてだから仕方ないが、思っている以上に危険な魔物が出てくるな。ある程度の緊張感は持って作業をするか」
俺はそう言いつつ海に近付き、まずはアイテムバッグから一斗缶を取り出す。
中に入っている骨を海に撒き、全てを海に流したら黙祷。
そして一斗缶をアイテムバッグに仕舞った。
その後、アイテムバッグを開けて左手で持ち、海に近付いて海水に右手で触れる。
凄い速さで海水を収納していくが、途中で限界になったのか止まった。
なので俺は<時空の狭間>に帰還する。
バステトと共に<物品作製装置>の部屋に行き、箱の中に魚人間や草花、そして海水を全部入れていく。
その後、木箱を作成すると、その中を指定してミネラルを含んだ塩を作製。
出来上がった塩を木箱ごと<物品作製装置>の箱の中へ。
再び塩を作製してを繰り返す。
完全に塩が作れなくなったら次に<にがり>を作成。
それも終わったら木箱を作り、作製物が出てくる所に木箱を置く。
そして水を指定して作製。
木箱の中に大量の水が注がれるが、俺はそれを全てアイテムバッグへと収納していく。
塩やミネラルが無くなった分だけ減った水を全て収納し、俺達は魔法陣から再び惑星へ。
海の前でアイテムバッグから水を出し、海に返していく。
逆さにしたアイテムバッグから大量の水が「ザバーーー」っと出ていくが、なかなか全てが出終わらない。
回収した海水も多かったから仕方がないが、これは地味に時間の掛かる作業だな。
海水を回収するより水を捨てる方が大変だ。




