0068・森にて
Side:町の犬(狩人)
『いいか! 貴様らは明日からオークの集落に行って、オークを狩ってこい! 猫どもより少しでも多く狩ってくるのだぞ、分かっておるな!!!』
『しかし、狩りの優秀な者達が帰って来ておりません。お孫様方だけではなく、素行が悪いものの優秀だった者達までです。いったいどうなっておるのでしょうか?』
『そんな事は知らん!! それよりも猫どもをこれ以上増長させる訳にはいかんのだ!! 明日はオークの集落まで行って、大量に狩ってこい!!』
『そのような事、無理に決まったおります。そもそもお孫様も居らず、狩猟班の数が少なくなっておるのです。そこから更にオークを狩る者を出せと言われても無理な事。食べる物をどうするつもりですか?』
『五月蝿いわ!! ワシに指図するな!! 貴様は黙って従っておればよいのだ!!』
『明日と明後日だけ、そうしてくれんか? 流石に猫の者達に偉そうな顔をさせる訳にはいかん。このままでは次期長老が危うくなってしまう』
『しかし……』
『狩りの者ごときが調子に乗るな!! 貴様の家族も纏めて放逐してやるぞ!! それでもいいのか!!!』
『………分かりました』
『ならば、さっさと伝えてこい! この役立たずが!!』
役立たずは貴様だろうが、この老害が。
こいつの孫は優秀だったが、こんな老害が祖父なら逃げ出して当然だ。
あれらの狩りの腕なら何処でも受け入れてもらえるだろう。
それに比べてこの老害は、若い頃から狩りなどした事がなかったという。
今の長老を押し上げる為に様々な事をやっていたと聞くが、果たして本当か?
狩りもした事が無い奴に、いったい何が分かるというのか。
それに子供達だって狩りの真似事や、大人の狩りについていくのだ。
あの老害はそれすらした事が無いと聞くし、それを自慢にしていると聞く。
むしろ話にならんのだが、アレの中では誇る事らしい。
頭が悪過ぎるし、愚かに過ぎる。
食い物を持ってくる者が優秀なのであり、口先だけの者にいったい何の価値があるというのか。
アレを側近中の側近にしている時点で、今の長老も果たして何処まで信じてよいやら?
不敬ではあるが、そんな疑問すら出てくる。
まあ、やれと言われた以上はやるしかないか。
恨みと憎しみは全てアレに背負ってもらおう。
押し付けてきたのはアレなのだからな。
…
……
………
オークの集落近くに来たのはいいが、一体だけで居る者などほぼ居らんではないか。
二体同時となると途端に危険性が跳ね上がってしまうし……困ったな。どうしていいかが分からん。
『リーダー、どうしますか? このままでは食料も碌に狩れないうえ、オークも狩る事が出来ません。場合によっては、食料事情が悪化するかも……』
『悪化するのは分かっている。いつも食料を狩ってきている我々が、現在こんな所で手を拱いているだけなのだからな。この時間が無駄にしか思えんが、かといって二体のオークに手を出す訳にはいかん』
『それはそうですが、このまま成果無しでは……。あの老害が怒って我々の家族を追い出しに掛かるかもしれませんよ?』
『分かっている。分かっているが、二体のオークに手を出すのは危険だ。場合によっては増援を呼ばれかねん。そんな事になったら大量のオークに襲われるぞ? 町まで逃げたら壊滅、逃げなければ死だ』
『それはそうですが、成果が無ければ家族が路頭に迷う恐れが……』
『それも分かっている。だいたい私がこんな事を言い出したのではないのだ。言い出したのは老害であり、その老害に頭の上がらぬ奴等が後押しをした。私は言われただけでしかない』
『………もうオークを狩るより、老害や犬長を狩った方が良いのでは? そちらの方がよっぽどマシだと思います』
『滅多な事を言うな。老害はともかく犬長はそこまで愚かではないが、あの老害の権勢に勝てぬだけだ。アレに阿る阿呆が多すぎる。その所為で犬長は身動きがとれんのだ。動けば犬長を引き摺り下ろされかねん』
『その時点でもう色々と駄目な気がす「ブルォォォォォォォォ!!!!」るんですけどね』
『何だ? どうした!? いったい何があった!!』
先程のは間違いなくオークの咆哮だ。
それも味方を呼ぶタイプの咆哮だぞ! もしかして二体で組んでいるオークに手を出したのではあるまいな?
もしそうであればマズいぞ! 場合によってはそいつらを見捨てて撤退せねばならん。
碌でもない事をしてくれたと思うが、部下ですら家族の事を考えて逸っておったのだ。
更に下っ端なら仕方ないのかもしれん。
『どうした? 何処の誰が下らん事をしでかしたのだ。よもや新人などではなかろうな? 血気に逸る者などは連れてくるなと言っておいた筈だぞ』
『分かりません! それよりもオークの咆哮を受けた者が逃げ出しています! どうしますか!?』
『どうするも、こうす「ブルルルル……」るも……。クソッ! 他のオークも来る! 我々は少しでも数を減らすぞ!!』
『正気ですか!? 我々ではオークの数を減らせませんよ!』
『誰か町に行って、町の者を逃がせ!! 我らは森を出て魔法で穴を掘る! それで少しは進行方向を変えられる筈だ!!』
『分かりました! すぐに下の者に行かせます!』
『頼むぞ!』
クソッ! それにしても誰だ、二体で組んでいるオークに手を出した阿呆は。
その所為でオークが大量に森から出てくるぞ! このままでは総力戦になりかねないが、そんな事になったら絶対に負ける。
なんとしても町を守らねば……。
『伝令! オークに手を出したのは、かつてアンデッドオークの時に見捨てられて亡くなった者の孫です。そいつがオーク憎しでやらかしたと!!』
『何だと!? なんでそんなヤツを今回のメンバーに入れた!? 何かやらかすに決まってるだろう!!』
『しかし狩りの腕は優秀なヤツですので……』
『ああ、クッソ!! それでソイツはどうした! 何処へ行った!?』
『はい! ソイツも町に行くのはマズいと持ったのか、オークに追いかけられながらも西へと走って行ったと!』
『西……町には行かんかもしれんが、西の犬の集落が襲われるぞ!! このままでは我らが西の犬の里にオークを嗾けたと言われるではないか! さっさと追いかけるぞ!!』
『えっ……あっ、ハイ!!』
マズい!マズい!マズい!マズい!マズい!
このままでは本当に我らが犬の里を壊滅させた悪党になってしまう!
そうなれば町の威信は地に落ちるぞ!!
何でこんな事になったのだ!? 何故我らがこんな事に巻き込まれている!?
勝手にオークに攻撃を仕掛けたヤツも悪いが、元を辿ればあの老害の所為ではないか!!
いつまであの老害の所為で我らは迷惑を被らねばならんのだ!
いつになったら老害の呪縛は解けるのだ!
アレが死なねば解けんのか? ならばこれが終わったら殺すべきであろう。
そうでなければ呪縛は解けんのだからな!!
最初からそうしていれば良かった。
誰もせんなら私が殺る! 必ずや息の根を止めてやるぞ!
それで皆を解放するのだ。
はっ!? 今は目的を見失ってはいかん。
まずは確実に町を守り、そして西の犬の集落も守らねば。
もし町の威信が落ちれば、近くの集落から見放されてしまう。
町と集落の関係は、良くも悪くも持ちつ持たれつなのだ。
信用と信頼を失えば、内部から町が崩壊しかねん。
それだけは、あってはならんのだ。
もしそうなれば、我らを含めて家族が必ずや追放される。
そうなれば生きていけぬ。




