0006・魔術というものの使い方
Side:イシス
狼はこちらに対して唸りを上げるものの、近付いてはこない。俺は槍の穂先を狼に向けつつ思案する。先程のウサギよりも体重が重く体が大きいのが狼だ。大型犬ぐらいのサイズがある以上、圧し掛かられたら抗うのは難しい。
なのでこちらに近付いてくる一瞬が勝負の分かれ目……いや、違う。ヌンに言われたろう、俺は【魔術】が使えるから有利だと! 狼の足下は何だ? 小石じゃないか。俺に近づく為には小石の地面まで来るしかないんだ。
俺は足下から魔力を伸ばし、俺の近くにある小石に干渉する。よし、動かせるのを感覚で確認した。狼の顔から目を逸らさずに確認しなければいけなかったので少し苦労したが、問題ない事はもう分かった。
後はいつ狼が俺を襲ってくるかだが、それは見ていれば分かる。狼は唸るのを止め、ゆっくりと俺に近付いてくる。この辺りはウサギと一緒だな。魔物というのも野生動物と然程は変わらないんだろう。
狼が突然右に動き出したので、俺は体を動かさずに【スロー】を放つ。干渉して待機していた小石が手で投げたように狼の顔へと迫る。いきなり顔に飛んできた小石に驚いた狼は右に動き出してすぐに止まってしまう。
飛んでいった小石は狼の顔面にぶつかり、反射的に狼は目を瞑ってしまっている。それはさっきの俺の失敗だ。悪いがもらった!。
俺は槍を狼に向かって突き出し、槍は見事に狼の口の中へと入り込んだ。確実に突き刺さる感触がしたので、これで噛み付く事は出来ない。俺は地面に押し付けるように押し込むが、狼はウサギとは比較にならない程の力で暴れる。
俺はそれでも槍を抜かないように必死に押し込んで地面に縫い付けようとし、それに対抗して暴れる狼。口の中を突き刺されただけだからか、未だ元気に暴れ回る狼。どうしたものかと思いつつ対抗していると、良い事を思いつく。
【魔術】とは形が定まっておらず自由であり、それが特徴とも言える。俺はあくまでも自分で使いやすいように名前を付けて固定しただけで、【魔術】本来は凄く自由なものだ。だったら武器だって動かせるんじゃないか?。
そう思い剣帯のナイフに干渉しようとしたが、何故か上手くいかない。もしかしたら狼との戦いで集中できていないからだろうか? 仕方なく諦めて、足下にある小石に干渉。すると問題なく干渉できた。
何故かは横に置いておくとして、俺は干渉した石を狼の口の中へと放り込んでいく。狼は暴れながらも口が閉じられない為、次々と口の中へと小石が入れられていく。やがて口の中いっぱいに小石を詰めてやった狼は、口が閉じられなくなり急速に動きが鈍る。
もしかしたら気道を塞いだのかもしれないけど、これで槍を抜いても大丈夫な筈だ。俺は一気に槍を引き抜き。暴れない狼の喉元を突き刺した。しかし「ガキッ」と音が鳴って途中で止まってしまう。おそらくは喉に石が詰まってるんだろう。
俺は槍を放して様子を見るも、狼は動く事が無かった。どうやら俺の勝ちらしいが、ウサギにも狼にもなんだが、泥臭い勝ち方しか出来ないのは何なんだろう。とりあえず一度戻ってヌンに聞こう。
俺は狼を持ち上げて、<時空の狭間>へと帰還する事を願うと、俺の目の前の景色は歪んでいく。これには慣れないが、仕方がないと諦めよう。
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「お帰りなさい、イシス。今度は狼ですか?」
「そうなんだが、ヌン、聞きたい事がある」
「何でしょう?」
「もしかしてだが、素材によって魔力を流しやすいとか、流し難いとかがあるのか?」
「ありますよ。特に鉄は流し難い物の一つですが、それがどうかしましたか?」
「ナイフを【魔術】で操って止めを刺そうと思ったんだが、鉄のナイフに干渉できなかった」
「全く干渉できないという事は無い筈ですが、鉄に干渉するには鉄に魔力を通さなければいけません。が、それは止めた方が良いでしょう。やったところで無駄に魔力を消費するだけです」
「だよなー。仕方ない、ちょっと石で武器を作ってくる。<物品作製装置>にあったのを覚えてるんだ」
俺は狼をアイテムバッグに入れると、<物品作製装置>のある部屋まで移動する。中に入ってウサギと狼を取り出し、蓋が無い箱のような場所に放り込む。何故か中が真っ黒で底が見えないんだよなー、コレ。
俺はパネルを触りワインドウを表示。ちなみにパネルにはオンとオフのボタンしか付いていない。後はウィンドウを操作するだけだ。
作製可能な物のリストをスクロールしていくと、その中に杭という物を発見した。俺はそれの材料に石を指定し、作製ボタンを押して開始させる。するとあっと言う間に完成したのか排出されてきた。
更に剣帯を外して中に入れ、剣帯の改造にも着手。単に杭が4本差せるようにしただけだ。場所は体の右前に来る場所だ、そこなら空いてるし。
これもすぐ出来るのか、作製ボタンを押したらすぐに出てきた。どうやら簡単な物ならさっさと出来るんだろう。まあ、どこまでが〝簡単〟なのかは知らないが。こんな装置は知識に無いしな。
俺は剣帯をアイテムバッグに仕舞うと、<物品作製装置>で死体から塩を抽出し、それを箱の中に入れて木の皿と石のフォークとナイフを作製して木皿を箱に放り込む。
それが終わったら、最後にステーキをウサギの肉で作った。木皿を指定して作り始めると、木皿の上に焼かれたステーキが出てきたが、これもあっと言う間だ。焼く為の時間が何処に行ったかは考えない方が良いんだろうな。
俺はとりあえず食事にし、肉しかないもののあっさりと平らげた。肉の味はアレだが、多分だけど最高の焼き加減で出されている。メッチャ柔らかい。
次に狼の肉のステーキも頼んだが、こちらは硬かった。とはいえ食べられない硬さではないので噛み千切って食い、満足したら<生物修復装置>に向かう。
一応【魔術】が使えると言っても、明らかに俺は弱い。このままではマズいので、出来るだけ戦闘に関わる知識を入れる設定にしておく。一度に覚えられる量には限度があるので、今は基礎から順に学んでいこう。
それじゃ、おやすみ。
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起きた時にはスッキリしていたが、眠った最大の理由は魔力を結構消耗していたからだ。流石に生命線とも言える【魔術】が使えないのはマズい。たった2戦でこれって事は、当然のように町に行くなど不可能という事だ。
今は地道に戦闘に慣れるのと、魔物を狩って<魔力増強薬>を作る必要がある。とにかく強くならないと、魔王なんて夢のまた夢だ。そもそも誰かは知らないが、魔王を倒せる誰かを助ける事も出来やしない。
気持ちを新たにした俺は、アイテムバッグを持って魔法陣部屋に行き、魔法陣に乗って出発する。アイテムバッグの中の武具は全て魔法陣部屋に置いてきた。
惑星に降り立った俺は早速とばかりに足元の小石を入れていき、ある程度の数を入れたら鉄の斧を取り出す。如何にも木が伐れますと言わんばかりの斧を振り上げ、俺は近くの木を伐り始めた。
ドッ! ドッ! と何度も打ちつけ、ある程度伐れたら今度は反対側からも切る。何度も何度も【身体強化】をしつつ振り下ろした御蔭で、木は伐れて倒れた。俺は気にしてなかったが、倒れる方向を決められる伐り方をしないとマズいな。
危険な事もそうだが、大きな音で魔物が寄ってくる可能性が高い。今はまだ近くに居ないようなので、木をアイテムバッグに入れたら一度川の近くまで退こう。
森からいきなり魔物が出てきて襲われたら、おそらくまた殺されるだろう。早急に魔物の魔力を感知できるようにならないと危険だ。




