0059・離れる犬と理解する猫
Side:長老の側近の孫(犬)
オレ達はさっさと森を抜けようと走るが、やはり森の中は面倒で厄介だった。
それでも出てくる魔物の中で楽に勝てる魔物は殺し、休憩と共に肉を食う。
血も飲んで少しは腹の足しにしたオレ達は、町の奴等にバレないように移動をしていく。
あのバカどもを放置して魔物に食わせた事は見つかる筈だ。
運が良ければオークモドキとやらの所為に出来るだろうが……まあ、無理だろう。
オークモドキとやらが否定するだろうし、アイツが命令を適当に変えてオレ達の所為だと言い張るだろうしな。
ま、あの町を出て行くんだから、オレ達にとってはどうでもいい。
あそこの奴等がどうなろうが知った事か。
今は森を出る事が大事だし、他の犬の里に行くのが大事だ。
おそらく頭を下げて受け入れを頼めば大丈夫だろう。
それにどんな扱いでも町よりはマシだ、それだけは間違い無い。
…
……
………
ふぅ。
とりあえず受け入れてもらえて良かったぜ。
当たり前だが、まだまだ心の中は受け入れられたとは言えない。
それでも中で寝泊りしていいって事は表面的には受け入れられたって言えるだろう。
後はオレ達の実力を見せれば済むだけだし、それはオレ達が一番得意な事だ。
あんな目で見てくる町よりも今の方が遥かにマシな時点で、やっぱあの町は終わってるとしか思えないぜ。
仲間達の顔も明るいし……やれやれ、本当に良かった。
オレなんかと一緒に居る所為で色々とあったからなぁ。
本っ当に良かった。
…
……
………
受け入れられて数日。
オレ達は狩りをして獲物を持ち帰るんだが、その度に感謝をされる。
この里じゃなかなか狩りが成功しなくて大変だったらしい。
だから狩りの成功率が高いオレ達は助かるんだと言われた。
……コレだよ、コレ! あの町じゃ獲物を沢山持って帰っても感謝の一つもされなかったんだ。
それがここじゃ感謝してくれるんだから、こっちに来て良かったぜ! 本当に良かった。
狩りってそんな簡単なもんじゃねえんだ。
オレ達を崇めろなんて言わねえ、だが感謝の一言ぐらいあってもいいだろうってんだ。
それが無かったあそこの奴らはクズ過ぎるだろ。マジで碌なもんじゃねえ。
ここならオレ達はまともに生きていける。
これからは感謝してくれるヤツだけ助けりゃいい。
そうすりゃ、あんな嫌な思いはせずに済む。
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Side:オーク狩りを命じられた猫
猫長の側近からオーク狩りを命じられたが、成果は芳しくない。
何と言っても上手くいかない原因は、何故かオークが二体で行動しているからだ。
唯でさえオークは強いのに、それが二体で組んでるんじゃ手を出せない。
そもそもこの辺りに来るだけでも危険が多いのに、そのうえオークを倒さなきゃいけないって大変どころじゃないぞ。
確かにオークの肉は美味しいが、それとこれとは完全に別だろう。
あの最低な犬の孫はオークを狩ってきていたが、あんなのは出来るヤツが珍しいのであって、普通は簡単にはいかない。
むしろオークの狩り方を教えてほしいぐらいだ。
今も息を潜めて見送ったが、またもやオークが二体で組んでいる。
いったい何があったのか知らないが、何故組んでいないオークが居ないんだ?
少なくとも一体だけのヤツぐらい居る筈だろう?
『どうしますか、隊長? このままじゃ一体もオークを狩れないなんて事になりかねませんよ? 猫長は無理をするなと言っておられたそうですが、流石に一体も倒せなかったとなると……』
『分かってる! だが考えてもみろ、二体で組んでいるオークなど危険度が高いのだ。運が悪ければ誰かが死ぬぞ? そんな戦いをしたいのか、お前達は?』
『いえ、そうは言いませんが……。しかし、「このまま一体も狩れませんでした」と報告も出来ません。どうしましょうか?』
『そんな事をオレに聞くんじゃない。オレだってどうしたらいいか聞きたいくらいなんだ。無理はするなと言われたが、狩れなければ怒られるのは目に見えている。だから狩れませんでしたとは言えんだろう』
『ですが、二体で組んでいるオークを襲うのは……』
『危険だし、部下を死なせかねん。それは慎まねばならんし、仲間が死んだら我々が糾弾されるぞ。それこそ、あのクソ犬の孫のようにされかねん。それで納得できるか?』
『無理です。あんな扱いを誰が望むっていうんですか、あり得ませんよ。あれ程までに報われない事をさせられるって、自分なら町を出ます。そもそも狩りの腕も良いんですから、西の方の里で力を見せれば受け入れられるでしょう』
『そうなんだよなー。猫長は分かっておられるようだが、犬の奴等は……。あいつらが居なければ食べるものがどれだけ減るか分からない。場合によっては、多くの者で狩りをしなきゃいけないようになるかもしれん』
『そこまで優秀な奴等を、何であんな扱いにするんですかね? 犬の領分には入らない事になってるんで、あんまり言えませんけど』
『そうなんだが……っと、またオークが来たぞ』
我々は草葉に隠れてジッとオークが通り過ぎるのを待つ。
やはり足音は二つだし、足も四本見える。
どう考えても二体一組で動いているが、何故こんなにも組んでいるオークばっかりなんだ? 今までは違っていただろうに。
まさか人間というのが来たから……というのは流石に無いか。
人間とやらが来たからといって、オークが急に賢くなるなどあり得ん。
もしそうなるなら、もっと前から賢い筈だ。
『………ふぅ。やっと通り過ぎていきましたね。それにしても何であんなにオークが組んでいるのやら? もしかして人間というのが来たからでは?』
『それはあり得んだろう。もしそうなら、もっと前から賢い方がまだ分かる。人間とやらが来たら急にオークが賢くなるなど、どういう事をやればそうなるんだ?』
『人間とやらがオークに知恵を与えたのでは?』
『どうやってだ? 人間とやらは我が町に来た後、すぐに北に向かっているんだぞ。どうやってオークに知恵を与えたというんだ。下手な事を言うと長老に睨まれるぞ』
『それはそうかもしれませんがね、幾らなんでも急にオークが組んで動いてるとなれば、怪しんで当然でしょう』
『言いたい事は分かるんだが、我々だってオークがどういう動きをするかなんて知らないだろ。本当に知ってるのは、クソ犬の孫達だけだぞ。奴等がオークの一体だけを狙ってると言っていたんだ。オークは一体で常に動き回ってるとは聞いた事が無い。そうだろう?』
『そりゃそうですが……』
『文句を言っても始まらん。もしかしたら奴等だって、こうやってジッと待っていたのかもしれないんだ。今日一日やってみてから文句を言うしかあるまい。まだ朝なんだから、文句を言うのも間違えている』
『そうですけど………あんまり、ここに居たくないんですよ。危険だし、オークにいつ見つかるか分かりませんし。……なあ?』
『えっと、はい……』
『圧力をかけながら聞くなよ。部下を脅してどうするんだ、まったく……』
しかし一体だけのオークが居ないな。
どうなってるのか分からないが、本当に一体だけのオークは少ないのかもしれない。
クソ犬の孫達が毎回こんな事をしていたのなら、とんでもなく大変な事をさせていた事になる。
誰も知ろうとしなかったが、あいつらはもしかしたら相当に優秀なのかもしれん。
町に帰ったら声でも掛けておこう。
我々は猫だから向こうのやり方に口は出せんが、それでも声を掛けていれば多少は変わるだろう。
あいつらが出て行くなんて事があったらマズい。
それだけは今、身に沁みて分かった。




