0058・尾行していた犬達は……
Side:長老の側近の孫(犬)
『さて、あんな穴の中に入って行った奴等の事なんて、追いかけたところで何の得もねえ。さっさとズラかるぞ。ここで奴等を追いかけるほど、オレ達はバカじゃねえからな』
『おう。流石にアレの中に入るなんて正気を疑うぜ。そんなマヌケは訳の分からねえ奴等で十分だっての。あんなトコに入ったところで、何か良い物があるとは到底思えねえよ』
『オレだって同じだぜ。流石にあんなトコには入りたくもねえし、何が居るか分かりゃしねえ。正直に言って、入ったはいいが出てこれるのかよ? 何かそのまま出てこれなくなって死ぬんじゃねえのか?』
『言いたい事は分かるぜ。なんだか闇が口を開けて待ってるみてえじゃねえか? そうとしか見えねえよ。バカほど突っ込むんだろうが、戦いを知ってりゃ突っ込んだりしねえっての』
まったくだな。
よく分からない奴らは突っ込んだみたいだが、そういうヤツから死んでいくってのをオレ達はあの戦いで知った。
命のやりとりをしている場では、マヌケから死んでいくんだよ。
アイツが言い出した事だが、アンデッドのオーク相手に犠牲者は絶対に必要だ。
じゃないと全員が死んじまう。
だったら生贄出して、その隙に倒しちまうしかねえ。
味方を見殺しにしてでも、戦って勝たなきゃいけねえんだ。
『おい! そこに居る奴等出て来い! てめぇらの臭いがこっちにまで来てるぜ?』
『なに? 何か居やがるのか!?』
『もしかしたらオレ達をつけてきやがったのか!?』
『クソが! オレ達すら監視してやがったか!! やっぱり碌でもねえヤツだ!!』
オレ達が警戒しているからだろう。
そいつらは遂に姿を現しやがったが……狩猟班のメンツじゃねえか。
しかも腕は良いが性格の悪いコイツらが、オレ達をつけてきていたとはな。
『チッ! まさか風向きが変わるとは思ってなかったぜ、ツいてねえ。とはいえ、お前らに気付かれようがオレ達には関係ねえがな』
『そうそう。お前らは早くその穴の中に入れや。入らなかったらどうなるか分かってんだろうな?』
ニヤニヤとこっちを見下しやがって……オレ達の倍の数だからって随分と舐めてくれてるじゃねえか。
オレ達はお前らみたいな頭の悪い奴等とは違うんだって事を教えてやるぜ!
『お前らいくぞ! あんなチンケなザコどもに負けて堪るかってんだ。町の者どもも含めて容赦しねえ。まずはてめえらをココで始末してやるぜ!』
『ギャハハハハハハ! 数も数えられなくなったか、この味方を見殺しにするマヌケどもはよ! ならここで屍を晒、グバァ!?!!?』
いちいち調子に乗ってるバカに先制の【土魔法】で攻撃してやった。
あのバカならアレで怯むだろうし、顔が土塗れになるからアレで十分だ。
その間に仲間達も【土魔法】を撃っている。
こいつらオレ達が仲間を犠牲にしないと何も出来ないとでも思ってたのか?
狩猟班の中では実力がある筈だが、どうやら厄介な魔物とは戦った経験が殆ど無いようだな。
だったらこんなもんか、よ!!
『うぎゃあ!! 足が! 足がぁ!!』
『足の一本や二本が食い千切られたからってどうした! もっと根性見せてみろや!! 戦いを舐めてんのか、てめえら!!』
周りを見ると他の仲間達も順調に足を噛み千切ってるな。
オークもそうだが、とりあえず足さえ潰しちまったらこっちのもんだ。
逆に言えば、オレ達は必ず足を守らなきゃいけねえ。
それだけは駄目で、敵にやられたら終わりだ。
オレは後ろ足を一本噛み千切ったヤツは捨て、他のヤツへと襲い掛かる。
町の中じゃ魔法を使えるヤツは居るが、オレ達のように実戦で魔法が使えるヤツは多くねえ。
戦闘が出来るって事と、そこで魔法が使えるって事は別だ。
普通のヤツは集中しないと魔法は使えねえからな。
そうなると必然的に立ち止まる。
そして戦いの場で立ち止まってるヤツなんざ、殺されたって文句は言えねえんだよ!!
『ギャァ!!!』
『ハッ! 戦場で立ち止まるなんざ、余程に殺されたいみてえだな。まずはてめえから死ね!!』
オレは魔法を使おうと立ち止まっていたヤツの後ろから忍び寄り、後ろ足に噛みついて食い千切ってやった。
この時点でまともに戦える力なんて残ってない。
足が一本無いだけで、動きも極端に悪くなる。
オレ達はあの戦いで、そんな姿の奴等を見てきたんだよ。
てめえらみたいに実際の殺し合いを知らないバカどもと一緒にすんじゃねえ!
『お前ら傷は負ってないだろうな?』
『ハッ! 誰に言ってんだ、傷なんて負ったら終わりだろうが。そんな下手な事をするヤツは仲間に居ねえっての!』
『そうだぜ。そりゃあ流石にオレ達をバカにし過ぎってもんだ。このバカどもは戦いの事を分かってなかったみてえだが、オレ達は散々戦ったんだ。コイツらみたいに簡単に勝てると思い込むマヌケじゃねえよ』
『まったくだな。そんなマヌケなら、あの戦いで生き残ってねえっての。それよりどうだ? 足を食い千切られた気分はよう。ここから町に帰るのも難しそうだな?』
『こいつら戦いってものを何も理解してねえからな。だから正面からの攻撃ばかりだったぜ。戦いっていうのはそういうもんじゃねえんだよ、分かったか? ……ま、もう遅いだろうがな』
オレ達が挑発すると、相手のリーダーだったヤツがこっちを物凄い形相で睨んできやがった。
そこまで怒りに塗れてるって事は、よっぽど戦いに自信があったんだろうな。
……アレで。
『卑怯者どもが!! 正々堂々と勝負も出来ない奴らが偉そうな口を叩くんじゃねえ!!』
『おうおう、言うじゃねえか。わざわざオレ達をつけてきて、倍の数を用意してた奴等がよう! お前ら自分達が何をしてたのかすら忘れたのか?』
『ふん! お前らと違って卑怯な事などしていない!!』
『ま、弱いヤツほど、そうやって喚くんだよ。オレ達はこれ以上バカに付き合ってられねえから、さっさと消えさせてもらうぜ? お前らみたいに血の臭いを出してると殺されっちまうからよ?』
『そうそう。後ろ足を噛み千切られたら戦えねえんだが、お前ら随分と後ろからの攻撃を警戒してなかったな? 実戦の事を何も知らないから、そんな隙だらけなんだぜ?』
『オレ達は実戦で嫌というほど見てきたんだよ! 後ろ足が駄目になって逃げられもせず、魔物に食われるしかなかった奴等をなあ!』
『という事で、じゃあな? ここで食われて死んでくれや。オレ達はその間に逃げ切るからよ』
『な!? お前ら、最初からそのつもりで!!』
『ま、待て! オレ達を助けてくれ! オレ達だって命令されただけなんだ!』
『知らねえよ、バカどもが。オレ達がやられてたら、お前らは助けたってのか? あり得ない事を言うんじゃねえ!』
『おい、そろそろ本格的にマズいぞ。さっさとズラからねえと、オレ達まで狙われる!』
『よし。それじゃ、さっさとズラかるぞ。急げ!!』
オレ達はさっさと穴蔵から離れて、魔物の臭いの無い方へと逃げる。
後ろからクソどもの罵声が聞こえるが、あんなものを気にする程オレ達はバカじゃない。
さっさと離れないとオレ達まで襲われかねないからな。
おっと。
背後から悲鳴が聞こえてきたが、どうでもいい。
むしろ奴等が囮になる事で、オレ達は安全に逃げられる。
それにこっちの命を狙ってきた奴等を助ける義理は無い。
それにしても、オレ達の命を狙ってくるとはな。
命じたのは間違いなくアイツだろうが……。
おそらくオレ達が逃げるなら殺せって命じたんだろ。
碌なヤツじゃねえって改めて分かるぜ。
アレがオレの祖父だってんだから、世の中は終わってるとしか思えねえな。




