0053・町の者達は? その2
Side:長老の側近(猫長)
まーた、あのアホ犬が碌でもない事を始めたみたいだ。
まあ、あのアホのする事なんて簡単に分かる。
あの孫達を使って後をつけさせたんだろう。
碌な事をしないし考えないヤツだからすぐに分かる。
問題はそれを邪魔しても得が無い事か。
あの人間とやらには申し訳ないが、助けたところでこっちに得が無い以上は、無理して助けてやる義理も無い。
アレが長老の探していた者でも、我らにとってはどうでもいい。
もちろんアホ犬とは違って、それを横取りしようとか掠め取ろうという気は無い。
そんな事は恥でしかないし、アホ犬ぐらいしか考えない事だ。
我らの場合は、むしろ武勇を見せるべきだろう。
そちらの方が町の中で確固たる地位を築ける。
あのアホ犬を排除できない理由こそ、ヤツが若い頃に長老を必死に支えたからだ。
今の長老が勝者となって長老になった以上、それを最も支えたアイツが偉そうな顔をするのも道理。
もしヤツを潰すなら正当な理由が必要なうえ、その理由で長老に許可を願わねばならん。
あの愚か者が命じた事は味方を犠牲にして敵を討った事だ。
勝利できた以上、その事でヤツを排除するのは不可能。
そもそもアンデッドのオークどもに負けていれば大きな損害どころでは済まなかったのだ、そう考えればヤツを排除は出来ん。
……それを命じられた孫は今でも不遇だがな。
ヤツは本当に自分さえ良ければそれで良いというクズでしかない。
あの孫とその仲間は狩人の中でも優秀な部類に入るというのに、もし孫達が一斉に町を出たらどうする気なのか聞いてみたいところだ。
孫達の狩りの実績も非常に高いのだぞ。誰の御蔭で食料が潤沢か、理解もしておらんとはな。
『参りましたが、何か思案中でしたか?』
『すまんな。まあ、考えていたのはアホ犬の事と、その孫達に関してだ』
『ああ、あの愚か者と孫ですか。愚か者に関しては救いようが無いですが、その救いようの無い愚か者の所為で孫とその仲間が捻くれましたからな。あれらは狩りの成功率も高い優秀な狩人なのですが……』
『うむ。本来なら良き雌を宛がって血を残さねばならんのだが……。あの愚か者に近付きたくない者が多すぎて、孫とその仲間がとばっちりを喰っておる。アレはあまりにも不幸に過ぎるわ』
『そして愚か者だけがそれを理解していない。ですがアレは長老を押し上げた側近中の側近、それだけの権勢を誇るので排除したくても出来ませんからな。本当に碌でもない愚か者です』
『冷酷な判断は間違っておらぬ、皆が生き残る為に犠牲は仕方なかった。あの当時はアレが最善だったし、それ以外に道が無かったのは今でも変わらん。しかし、死んで当たり前の者など居らんのだ』
『にも関わらず、ヤツは見殺しにした罪を孫に押し付けましたからな。あそこでは見殺しにせざるを得なかった、その責を自らとると言えば満点でしたが……』
『ヤツはよりにもよって見殺しの罪を、その隙に戦って敵を倒した孫達に押し付けおった。アレで責任をとらないどころか、孫さえ平気で利用して切り捨てるヤツだと町中にバレたからな』
『本来ならば町を守った者なのですが、あの孫達は今でも追いやられております。アレでは何れ町を離れましょうな。ここに居ても良い生活は無理です』
『そうだな。………まあ、それは諦めるしかない。それはともかく、お前達には南の森のオークの数を減らしてもらいたいのだ。ただし集落には近付かぬようにな』
『それは構いませぬが、何故でしょう?』
『ここに来た人間だが、最後には南のオークを倒すつもりのようだ。何でも南の森のオークの集落付近は瘴気が集まる場所らしい。あの者達はそういう場所を探してこの辺りに来たと言っていた。なんでも浄化して綺麗にせんと【黒の力】が減らぬとか』
『【黒の力】………あの昔から伝わる怪しい話ですか?』
『そうだ。そして人間の仲間であった猫の里は、その【黒の力】の所為で壊滅したらしい。仮にそれが事実なら、南の森は【黒の力】の持ち主が生まれやすいという事になる。今まで見た事も無いのにな』
『ふむ……。とはいえ、戯言や虚言と決めるのは尚早では? まだ分かりませんし』
『それが本当かどうかはどうでもいい。大事なのは、アレらが戻ってくる前に我らがオークの数を減らしたという事だ。かつてのオークのアンデッドの時とは違い、我らが役に立つのだと示さねばなるまい?』
『成る程、それで南の森のオークを……。分かりました、無理はせずに狙っていきます』
『うむ。バレてこっちを襲ってきても面倒になるからな。理想は一体だけの者を確実に始末していく事だ。やがて二体一組で動き回るようになるかもしれんが、それまでは減らせるし我らの手柄に出来る』
『犬達が焦って数減らしに参戦してきたら、その時は犬達に丸投げすれば良いという事ですな?』
『そうよ。我らは安全に美味しいところを食べ、残った厄介なところは犬達に任せればよい。先読みが出来ねば生き残ってはいけぬ。あのアホもかつては優秀だったが、今は地位を守る事ばかり。相手にならん』
『では下の者に伝え、我らの地位を押し上げておきましょう』
『二代前は猫の長老だったというのに、先代と今代は連続して犬だ。次こそは我ら猫の長老を出さねばな』
『ハッ』
こういう地道な事が、やがて猫の長老を生む事になるのだ。
手を抜く訳にはいかんし、しっかりとやっておかねばな。
それにしても人間と一緒に居ったあの猫。
おそらく思っているよりも強い筈だ。
アレが我らの味方になってくれればいいのだが……。
おそらく無理であろうな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:町の猫(狩人)
『お前達にはこれより南のオークの数を減らしてもらう。ただし無茶をしろと言っている訳ではない、無理せず一体だけの者を狙っていけ。囮戦法を使えば一体だけならば勝てよう。奴等がこのまま増えていくのを、黙って見ておる訳にもいかんのだからな』
『そうは仰いますが、囮の者が危険です。もちろんそれで勝てるでしょうが、オークは鈍いですが代わりに力が強い。もし一撃でも受ければ……』
『場合によっては死にますし、捕まったら最後、喰われるだけです。かつてのアンデッドオークの時よりもマシでしょうが、それでもオークの力は侮り難く……』
『つべこべ言うな。次代の長老を我ら猫から出すには必要なのだ。ここで役に立つ事を町の皆に伝えておかねば、また犬どもに長老の立場を奪われるのだぞ。元々この町では犬も猫も両方から長を出していたのだ』
『でも対立した時に決められなくなったから、長の上に長老を置く事になったんですよね。何回も聞きました』
『分かっているなら行ってこい。無理をしろとは言っていないのだ、一体だけのヤツを狙って数を減らせと言っている。こちらが5か6も居れば十分に勝てるだろう。無理はしなくていい、確実に数を減らせ』
『分かりました』
仕方なく猫長の側近の下を去ったが、やれやれ……。
猫長も次こそは長老を同族から出したいというのは分かるのだが、明らかに無茶じゃないか。
オークの手足は長く、それを振り回すから回避はそこまで難しくは無い。
ただし、それは回避役に攻撃が集中している場合のみだ。
後ろに回ろうとして安易に動くと、奴はその長い腕で我らを掴むと噛み千切ってくる。
それで今までどれだけ狩人が殺されてきたと思っているんだ。
命じるだけで済むヤツは楽でいいが、こっちは現場で戦う奴等に伝えなきゃいけないんだぞ。
絶対に嫌がるに決まってるだろ。
はーーーっ………どうしたもんか。
いや、全部の責任を上に丸投げしよう。
私が恨まれるなんてゴメンだし、そんな義理も上には無い。




