0052・町の者達は?
Side:長老の側近(犬)
まったく、長老にも困ったものだ。
何故あんな見知らぬ者どもに、先祖から続く遺産を与えようとされるのか理解できん。
我らが何度お聞きしてもお答えにならなかった癖に、あの二本足の黄色い肌のオークモドキにはアッサリと教えてしまった。
我らを軽んじておられるのかと思うも、そうではないのは分かっておる。
とはいえ……何ゆえ我らが蔑ろにされねばならんのだ。
我らこそが遺産を手にし、<ムンガ>とやらを打ち倒せば良いだけであろう。
仕方がないのかもしれぬが、まずは使い勝手の良い奴等に任せるか。
先程のオークモドキと猫ごときに奪われては癪に触る。
我らこそが最も役に立ち、最も強いのだという事をお見せせねばな。
…
……
………
『お前達、先程のオークモドキと猫の後ろをつけろ。そして祖先の遺産があれば強奪してこい。なに、あの二匹なら死んでいても構わんであろう。分かったな』
『ふんっ! オレ達にわざわざそんな事を言いに来るとは、余程にそいつらが気に入らんらしいな。とはいえ、それでオレ達が動いてやる義理は無いんだが?』
『チッ! いちいち足下を見おって。もし上手く事が運べば、貴様らの事は町の者に伝えてやる。元々はみ出し者のお前達にとってはちょうど良かろう? 町の者に受け入れられるチャンスだ』
『………仕方ねえ、それで飲んでやる。とはいえ、別にオレ達は町の奴等全てに嫌われてる訳じゃねえんだがな? そこんところ勘違いしてんじゃねえのか?』
『ハッ! お前達が一番好かれたい雌どもには、とことんまでに嫌われているがな? まあ、かつてあんな事をしでかしていたら嫌われて当然としか言えん。当たり前の事だ』
『アンタの所為だろうが! ……チッ! おい、お前ら。行くぞ』
『きっちり始末してこい。息の根が止まった事も確認してくるのだぞ』
『分かってるっての。いちいち言わなくてもな!』
ふん! 使えない者には何度も言うしかあるまい。
上手く私の手の上で踊っていればよかったものを、下らぬ正義感を出した愚か者が。
私の孫でなければ、とっくに追放しておるわ!
アレでも使えるだろうと置いていたが駄目だな。あの調子では失敗しそうだ。
あの二匹を追いかけていって死ぬならまだ良いが、逃げ戻ってきて下らぬ事を言い始めたら面倒になる。
その時はアレに始末させるか。
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Side:命じられた犬(長老の側近の孫)
チッ! 自分は長老に媚び諂って地位を確保してるだけの癖に、いちいちオレに命令してくんじゃねえよ。
元は自分の為にオレ達を利用したんだろうが、その所為でオレ達はこのザマだ。
親父は謝ってくれたが、あの老害の所為でオレは雌どもから蛇蝎の如く嫌われてるんだぞ。
確かにオレ達は自分の意思でやる事を決めたが、元々の命令を出したのはアイツじゃねえか!
『クソッ! イラつくぜ! 元々の原因はあのクソヤロウの癖に、何でオレ達が苦しまなきゃいけねえんだ! 今もいちいち命令してきやがって。アイツが長老の側近な事が信じられねえぜ。奴等の目は節穴かよ!』
『まったくだぜ、本当によう! オレ達を使い捨てて切り捨てやがった癖に、今も都合よく使おうとしやがる! ……なあ、マジで相談してた通りにした方が良いんじゃねえか?』
『オレ達もそう思うぜ。あの腐れ外道を殺して、オレ達は西にあるっていう犬の里にお邪魔しようじゃねえか。そこならオレ達の事なんて知らねえ筈だ。なら大丈夫だろ』
『そうだ。オレ達の事を知らない奴等の所なら、下らない目で見てくる奴も居ねえって! そこでなら十二分にやり直せる。オレ達なら狩りの役にも立てるからな』
『ヘッ! 役に立てるどころか、クソどもの所為でオークと戦わされたりしてるからな。オレ達の力なら十分に何処でもやって行けるっての。なあ、もうあんなクソみたいな場所出ようぜ?』
『………そうだな。だが、先祖からの遺産ってヤツも気に掛かる。せめてそれを拝んでからにしねえか? 長老が何故か町に来た奴等にしか語らなかった物だ。すげえ物の可能性が高いだろ』
『おお、そりゃ確かにな! ならそれだけ拝んで……いや、奪えるなら奪って西へだな。だが無理をする必要もねえ、駄目なら拝むだけで十分だ』
そうだな。先祖から伝わってるのが何なのか、それを見るぐらいは許されるだろう。
それを見たら町から遠ざかって、別の場所で新しい暮らしを始めるか。
何処に行ったところで今よりはマシだ。今よりはな。
『チッ! 奴等ここで何かを殺したみてえだな。御蔭で血の臭いが濃いが……どうだ?』
『おそらくだが向こうだ。何が出てきたかは知らねえが、森の中では魔物が出てくるからな。そのこと自体は仕方がねえ。オレ達だって襲われるんだからな』
『そりゃ当然だが、メンドくせえもんはメンドくせえんだよ。……ん? もしかして血の臭いを辿れば奴等の動きを辿れるんじゃねえか?』
『お前の言う通りだろうよ。もちろん全ての魔物と戦ったりはしねえだろうがな。ただ、奴等の臭いも残ってる。コレを追いかけた方が迷わずに済むと思うぞ』
『よし! なら、それを追いかけて行くぞ。ただし無理すんな、オレ達が命を懸ける事はないんだ。駄目そうなら逃げる。いいな!』
『『『おう!』』』
…
……
………
奴等を追いかけて行ったのは構わねえ。
あのクソからの命令ってだけじゃなく、オレ達も遺産ってヤツを見てみたかったからだ。
ま、あわよくばオレ達が持って別の所へ逃げるって事も考えてたんだが……。
『何だ、ここ? こんな大きな穴の中に奴等は入って行ったのか?』
『臭いからして間違いない筈だ。……しかし、こんな所にか? こんな穴蔵の中に遺産が?』
『入って行った奴等は騙されてるんじゃねえか? あのクソもクソもなら、長老も長老だったってこったな。碌なもんじゃねえ。こんな所に誰が好き好んで入るってんだ! さっさとズラかろうぜ!』
『……そうだな。流石に心の底から愛想が尽きたぜ。オレ達を都合よく使うわ、こんな穴蔵が遺産だとか。正気じゃねえし、狂ってやがる』
町の奴等は全員纏めて最低だ。碌な奴等じゃねえ。
こんな穴蔵の中なんてゴメンだし、やってられるか!
仲間達となら狩りは十分できるから生きていけるし、町の奴等なんぞ必要ねえ。
こうなったらすぐに逃げるべきだな。
オレ達の事を見張ってる奴等も居るかもしれねえ。
森を利用して西に行こう。そうすりゃ、オレ達の事も追えないだろ。
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Side:長老の側近(犬長)
ヤツが孫に命じて人間の後を追わせたらしい。
嘆かわしい事だ、どうせ祖先からの遺産は自分の物だとでも思っているのであろう。
本当に愚か過ぎて溜息も出ん。
あの孫達も可哀想にな。
昔やらされた事で、今でも隔意を持たれておる。
あの者達は白い目を向けられておると思い込んでおるのだろうが、実際にはそんな事は無い。
ヤツの孫だから関わりたくないのだ。
孫にさえ冷酷な命令をするような者など、どう考えても碌な者ではない。
そんな者と関わりたくないからこそ遠巻きにされておる。
悲しいかな、関わりたくないので誰も教えん。
そう考えるとワシも同類か。
ヤツと関わりたくないからと、若者を助ける事も無かった。
あの若者達が帰ってきたら流石に教えてやらねばならんな。
お前達が悪い訳ではないと。
ただ、ヤツはそれ以外にも何ぞ企んでおるような節がある。
碌でもない事でなければいいのだがな……。




