0050・町での話し合い
Side:イシス
俺達は茶色の毛の犬を追いかけて走っている。
既に森を出ているんだが、今だ止まらずに走っているところを見るに、それなりに遠いのかなと思っていたら、前方に大きな土壁が見えてきた。
しかも結構な大きさというか広い範囲を覆っているようだ。
確かに町と言われても納得する程度には広い敷地を確保している。
猫の里や犬の里と比べても相当に広いのが分かるし、そこへと向かっているのも事実だ。
という事は少なくとも、あの大きな町に俺達を入れようと考える程度には上の立場の可能性があるな。
でないと余所者を町の中に入れようとはしない筈だ。
思っているよりも大物に会っている可能性も考えておこう。
もし本物だった場合、かなり面倒臭い事を頼まれる恐れもある。
わざわざ掛けなくてもいい声を掛けている訳だし、その辺りは警戒しておくべきだな。
オークが云々と言っていたが、本当にそうとは限ってない。
町の門というか入り口まで来た俺達は立ち止まり、茶色の犬が門番のような連中とやり取りをしているのを見る。
【念波】でやり取りをしているのを見るに、ここでは【念波】が使える奴等が多いみたいだ。
『君達、私についてきてくれ。このまま長の所まで行く』
『『了解』』
俺達は茶色の犬の先導に従って進んでいく。
周りには犬も猫も居て、こちらをやたらにジロジロと見てくる。
主に見られているのはバステトじゃなくて俺だ。
まあ、一人だけ人間だから目立つのは仕方ないんだろうけどな。
そんなジロジロ見られる中を通りすぎ、町の奥の方までやってきた。
町とは行っても犬や猫だ、当たり前ながら建物は全く無い。
なので人間的な町を想像していた俺にとって、ここは広い空き地にしか見えていない。
犬も猫も、そもそも建物を必要としないので、確かにこれで十分であり問題は無いのだろう。
俺としては町と呼ぶには抵抗があるが、それはあくまでも人間基準の町でしかない。
この惑星には人間が居ないんだから、考えても仕方がないんだけどさ。
俺達が連れて来られた場所には老犬が居て、その周りにはそれなりの歳の犬や猫が居る。
そんな中、茶色の犬が老犬に向かって挨拶を始めた。
俺達の方にも【念波】を出しているので、何を話しているのかは分かる。
『長老。ただいま戻りました。南の森の中で奇妙な者達に会ったのですが、片方が長老の言っていた者でしょうか?』
『おお、おお……。確かにそうじゃ。ワシが祖先から聞いた姿にそっくり、まさに目の前に居る者こそが人間じゃろう』
『やはりそうでしたか。私も長老から聞いていた通りの見た目だと思いまして、それで慌てて町の方に来てもらったんですよ』
『そこの者よ、そなたは間違いなく人間であろう?』
周りの連中も俺の方を見て驚愕したりしているのを見るに、人間を求めていたって事か?
何の為にか分からんが、嫌な予感がしてきたぞ?
とはいえ今は長老とかいうのの質問に答えるか。
『確かに俺は人間だが、それがどうかしたのか? 俺にとっては何故そんな事を聞いてくるのか、意味が分からないのだが……』
『おお、やはり人間であったか。実は人間であれば託さねばならん事があるのだ。ここから北に行った所にある洞窟。その昔は鉱山とか言っていたらしい。それと東の方に閉じられて入れぬ建物とやらがあるそうじゃ。とりあえず行ってみなされ』
『情報はありがたいんだが、何故それを俺達に伝えるんだ? 正直に言って訳が分からない。鉱山跡があるんだろうが、今さら鉱山に行って何かを掘り出せという事か?』
『それはワシにも分からん。しかし祖先からはゴブリンよりも大きく、手足がしっかりしておって理知的な者だと聞いておる。その人間に鉱山と建物の事を教えなければならんと伝わっておるのだ、ずっと前からな』
『ずっと前からね。いったい何の為かは伝わってないの? 流石にそれは無いんじゃない? いきなり言われたって疑問に思うし、警戒されるのは当然よ? たとえ本当の事であったとしても』
『残念ながらワシにも分からん。祖先から伝わっておるのは伝えねばならんという事だけだ。もし人間が居てくれれば、必ずや<ムンガ>をどうにかしてくださると……』
『『『<ムンガ>!!!』』』
俺とバステトだけじゃなく茶色の犬も驚いたので、長老と呼ばれた犬の周りに居た者たちが歯を剥き出しにして威嚇してきた。
どうやら驚かせすぎたらしい。
『これ、威嚇するのは止めるのじゃ。それよりも、もしかして<ムンガ>という言葉に心当たりがあるのかな?』
『<ムンガ>とは【黒の力】の大元よ。そいつは古い時代に人間によって作られ、そして人間を滅ぼした原因なの。何かの生き物を乗っ取って成り代わるとでも言えばいいかしら、それが<ムンガ>よ』
『【黒の力】を大量に吸収して真っ黒になると、<ムンガ>としての自我が出てくるんだ。それまでは乗っ取る最中の者を強くする【黒の力】でしかない。そして<ムンガ>は瘴気と呪いが混ざった存在だという事が分かっている』
『私達はこの世にあるという瘴気が集まる場所を探して来たのよ。そしてオーク達の大きな集落がある辺りが、ちょうどその瘴気が集まる場所なの。だから踏み込もうとしたら、止められたわけ』
『そもそも私は<ムンガ>というものも知らなかったし、まさか【黒の力】に大元があるなんていう事も知らなかった。そもそも【黒の力】なんて話に聞いた事があるくらいで、見た事なんて無い』
『私の里は【黒の力】を持ったゴブリンに攻められて、私以外は全員死んだわ。それどころじゃなく、その後にゴブリンの集落を滅ぼしに行ったら、再び【黒の力】を取り込んだゴブリンが生まれたのよ』
『そんな事がのう……。それで、その【黒の力】を持つゴブリンはどうなったのじゃ?』
『私とイシスで何とか浄化していたら、更に大量の【黒の力】を取り込んで真っ黒な見た目になったわ。で、そいつが自分の事を<ムンガ>と名乗ったのよ。だから私達は<ムンガ>の名前を知ってるってわけ』
『成る程のう。それで<ムンガ>の名を知っておった訳か。それにしても祖先が<ムンガ>を何とかしてくれると仰っておられた事といい、何か繋がっていると思えて仕方がないのう』
『とりあえず情報には感謝するんだが、俺達としてはオークの大きな集落に行く事は確実だ。止められたものの、<ムンガ>を滅ぼす為にはどうしても行く必要がある。この世の瘴気を減らさない限り、【黒の力】も<ムンガも無くならない』
『うむ………しかしオークの集落はのう』
『俺達だけで行くし、今日も一体は倒している。少しずつ確実に数を減らしていけば、どれだけ数が多くても勝てるだろう。それに俺の姿を見れば、ここの町の奴等だとは思わんさ。まあ、まずは北だけどな』
『鉱山かー。目当ては銀だけど、上手く銀が出る鉱山なのかしら?』
『さあな? それでも<浄銀>を作るしかない。瘴気の集まる場所がそんなに少ない筈は無いしな。沢山作らないと、それぞれの瘴気の集まる場所を浄化できない。だから鉱山は時間が掛かるだろうが、こればっかりは仕方がないな』
『とりあえず情報をありがとう。私達は私達で動かさせてもらうわ』
『俺とバステトだけの方が身軽だからな。それじゃ、そろそろ行くか』
俺達は感謝を述べたら、すぐにその場を後にした。
ついてくると言われても困るし、そんな事をされたら<時空の狭間>が使いにくくて仕方ない。
それにいちいち助けてやるのも面倒だ。
俺やバステトは<時空の狭間>に逃げられるからいいが、無闇に使わせる気なんて無いしバレると厄介な事になる。
地図02
C
B
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A:瘴気の森のオークの集落
B:猫と犬の共同町
C:鉱山
D:閉じられた建物




