0005・生き物を殺すという事
Side:イシス
俺が目覚めると、そこは魔法陣のある部屋だった。そこに戻ってきていた時点で、俺はあのウサギに殺されたんだという事を悟る。
「お帰りなさい、イシス。何かありましたか? いえ、裸という事は死亡したんですね?」
「死んだ……んだと思う。何だあのウサギ、メチャクチャ強いんだけど? そもそも動きが速いし、槍の穂先を合わせられなかった。もしかして槍で戦ったのが間違いなのか?」
「そんな事は無い筈なのですが、まずはどういう事になったのか教えてください」
俺は自分が死んだ情けない話だからしたくはなかったが、そんな事は言っていられないのでヌンに話す。話を全てすると、ヌンは呆れたように答え始めた。
「まず第一に魔力を使った【身体強化】をしていませんね? 目に使用していれば相手の動き出しが分かった筈です。第二に【魔術】が使えるのにも関わらず、全く使おうとすらしていない。貴方の名は<イシス・アセト>ではなかったのですか?」
「………面目無い。今の今まで気付かなかったというか、【魔術】なんて使えなかったから、頭からスッポリ抜け落ちてた。確かに【ウィンドボール】でも当てていれば態勢は崩せたんだ」
俺は訓練場で幾つかの魔法を練習している。一つ目は体の汚れを綺麗に取る【クリーン】。二つ目は光の球体を浮かべる【ライト】。三つ目は風の球体をぶつける【ウィンドボール】。四つ目は何かを持ち上げて投げつける【スロー】。
何故投げるのかと言うと、【魔術】というのは自在に現象を起こせるからだ。ただし、何も無い所から何かを生み出したりは出来ない。それさえ分かっていれば、かなり自由に色々な事が出来たんだが、今はそこまで強力な力は無理だった。
理由は魔力が足りないからであり、起こしたい現象の規模と複雑さで消費魔力は大きく変わる。なので風の球体は飛ばせても、竜巻は起こせない。その規模の現象を起こす魔力が無いからだ。
それに、火を飛ばしたり水を飛ばしたりも出来るんだが、火はともかく水は現物が要る。なので水は非常に使い難いし、火は火事を起こす危険がある。結局、一番使いやすい風の練習に力を入れた訳だ。
【身体強化】に関しては、魔力を体の特定箇所に集中させて活性化させる技術だ。これは練習すれば誰でも使えるのと、手っ取り早くという事で<生物修復装置>で覚えた。ヌンもそれを薦めてきたしな。
目を強化すればよく見えるので、動き出しの瞬間も分かると言われてたんだ。あまり体の各所を強化すると、魔力の消耗が激しいので気をつけなきゃいけないが、目だけならそこまででもない。
色々な事を教わっていたにも関わらず、何一つ使っていなかった俺はバカだ。しかもその所為で死んでるし、流石に頭が悪すぎるだろう。
「あまり後悔するのもよくありませんよ? 今まで居た<時空の旅人>の内、実に87パーセントが初戦闘で死亡しています。初戦闘で生存したのは13パーセントしか居ないので、イシスの死亡は普通の事だと言えますね」
「それはそれで凹むわ。とりあえず気を取り直してさっきの所へ戻ろう。服も何もかもを失ったからか、裸一貫でやり直しだ。早く服を取り戻さないと、原始人状態でどうにもならなくなるぞ」
「魔物さえ狩れれば<物品作製装置>で皮の服くらいは作れますよ。草や葉っぱを大量に集めれば繊維服ぐらいは作れますし」
「………いやいや、ホッとしちゃいけない。死んだ事そのものが駄目なんだから、今度こそは確実にあのウサギを殺す。とりあえず剣を持って行ってくる!」
俺はアイテムバッグの中から刃渡り40センチの鉄の剣を取り出し、それを持った俺は、真っ裸のまま魔法陣の中央に立つ。
「頑張って下さい。それでもイシスは【魔術】が使えるだけ、歴代の<時空の旅人>より恵まれてますからね」
「転移する最中に追い打ち!?」
魔法陣の上に俺が乗ってから言うの止めてくれない!? そう思った時には目の前の景色が歪み、俺は再び転送された。
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同じ魔法陣に乗ったからか、またもや同じ場所に立つ俺。小石で足が痛いものの、それを我慢して俺は殺された地点へ向かう。すると、その場所にウサギは居て、なにやら「モグモグ」していた。俺の肉を喰いやがって……!。
「ウサギ野郎、今度はブッ殺す!!」
その声でウサギはこっちに気付いたらしく、再び口を開けて牙を見せ付けてくる。俺は鞘を捨てて素早く剣を腰溜めに持つ。理由は突き刺す為だ。俺はそのままウサギににじり寄っていきながら、【ウィンドボール】の発射準備を終わらせた。
一定の距離を越えた瞬間ウサギは動き出したが、今度は目に【身体強化】を使っていたので対応は可能だ。ウサギが動き出した瞬間【ウィンドボール】を発射し、ウサギが後ろへ倒れた隙に剣を突き刺す。
体に剣を突き刺されたウサギは激しく抵抗するが、俺は押し込んだまま地面に縫い付ける。激しく暴れるウサギを動かなくなるまで押さえつけ、遂に俺は勝利を手にする事が出来た。本来なら死んだ時点で終わりの筈なんだが、<時空の旅人>様々だな。
とはいえ<時空の旅人>じゃなきゃ、こんな事をしなくてもいい筈なんだけど。
まあ、それは置いておくとして、とりあえず服を着ようと思うんだが、その前に止めを刺しておこう。死んだフリでまた殺されるとか嫌だからな。
俺は剣帯につけていたナイフを抜き、刺さったままの剣を左手で押し込んでから、右手のナイフでウサギの喉を突き刺す。すると再び猛烈に暴れ出したウサギ。こいつやっぱり死んだフリをしてやがった。何処まで知恵の回るウサギなんだよ!。
再び剣を両手で持ち、俺はウサギが完全に動かなくなるまで地面に縫い付けた。それが終わって一息吐くと、すぐに服などを全て持って<時空の狭間>へと戻った。あそこじゃ何に襲われるか分からない。
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「お帰りなさい、イシス。ウサギを持っているところを見るに勝利したようですね」
「何とか勝利したよ。まさか体を突き刺してるのに、死んだフリして生きているとは思わなかった。どんだけ生命力が強いのかと思うのと、どんだけ知恵が回るんだと思うわ。マジで」
「野生の魔物を舐めてはいけませんよ? そもそも人間の大人よりも強いのが魔物です。どんな見た目でも騙されてはいけません。もし見た目通りに大した事が無いのならば、そんな惑星に<時空の旅人>が派遣される事は無いのです」
「ああ、成る程」
俺は殺された時に無くした服などを着込んでブーツを履き、最後に剣帯を付ける。鉄の剣に【クリーン】を使って綺麗にしたら、そのままウサギと一緒にアイテムバッグに放り込む。
槍を持ったら再び魔法陣に行き、今度こそ出発だ。俺はまた魔法陣に乗ると、再び惑星へと転送されていく。
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再び森と川の境界に着いた俺は、まずこの近くからの探索を始める事にした。いきなり町に行こうとするから殺されるんだ。まずは地に足を付けて、周りを調べるのが先だろう。
森に入ったところで遭難するのがオチなので、森の中には入らない。川の方に近付いてみるも、そこまで危険は無さそうだった。そもそも魚も何も泳いでないし、水はとても綺麗で川底が透けて見えている
特に何も居ないなと思っていると、後ろから何かが来る気がしたので振り返る。ヌンは魔力を探れば魔物の位置は分かると言っていたが、そこは実戦で使えるようになるしかないとも言われた。
知識としてはあるのだが、訓練場では練習できなかったからなぁ。後ろを向いて槍を構えていると、森から出てきたのは狼だった。それも緑色の狼だ。
何故か一頭しか居ないが、一匹狼なんだろうか?。




