0049・茶色の犬
Side:イシス
『コイツがオークよ、間違い無い。私達の里の近くにも極稀に出てきていた魔物。オークは毛深いし体が太いんだけど、その反面手足が長くて動きは鈍重なの。だからゴブリンとは別の意味で楽なのよ』
「ゴブリンとは別の意味?」
俺はオークをアイテムバッグに入れつつバステトに聞き返す。
ゴブリンより強そうに見えるが、猫的にはゴブリンより楽なのか?
オークの方が強いし厄介そうだがな……?
『オークってね、群れる事は少ないのよ。遭遇しても一体、ないしは二体でしか居ないの。ゴブリンは違ってて三体や四体で居る事が多い。だから遭遇した場合にはゴブリンの方が厄介なのよ、あいつら素早いし』
「ゴブリンが素早い、ねえ……」
『オークは体が大きいけど手足が長いのよ。だから動きが大きくて、俊敏さはそこまで無いの。大雑把な動きが多いから避けるのは難しくないし、足下がお留守な事も多い。足の後ろを噛み千切ってやれば、碌な動きが出来なくなるわ』
「足の後ろ? ………ああ、アキレス腱か。そこを噛み千切られたら、そりゃまともには動けないだろう。それはともかく手足が長い……うん、確かに猿系の腕とか足をしてるもんなぁ。この手足じゃ、確かに大雑把な動きになるか」
何と言うか、手足が胴に比べて長すぎる気がする。
オークって本当に手足を真っ直ぐ伸ばしたら2メートルを遥かに超える身長をしてるだろう。
となると、大体は手足を曲げて生活をしている訳だ。
確かに大雑把というか、振り回すような感じで動くんだろうな。
そしてそれは猫からすれば遅いと。
しかも足下がお留守な事が多いから翻弄すれば簡単に後ろに回れるヤツが出てくる。
それとは違ってゴブリンは人間に近い二足歩行であり、あいつら思っているよりも器用なんだよ。そして小回りが効く。
猫にとったら大雑把ではなく、小回りが効くゴブリンの方が厄介って事か。
しかも群れてるし。
そんな話をしながら俺達が更に森の中へと踏み込もうとすると、近くから「ガサガサ」と聞こえてきた。
俺とバステトはすぐに魔力を放射し、敵に対しての態勢を整える。
すると、音の先から現れたのは茶色の犬だった。
俺達はどう考えていいか戸惑ったのだが、その犬からまさかの問いかけがあって驚く。
『お前達は何者だ? 特にそちらの大きいの、お前は見た事の無い生き物だ。………もしかして【念波】を知らないのか? ……困ったな。こちらの意思は分かる筈だが』
【念波】というのが分からないが、使い方は分かる。
魔力に意思を乗せて放出しているんだけど、魔力の紐を繋げる【念話】よりも簡単そうだな。
ついでに<ムンガ>が使っていたのもコレだろう。
俺とバステトは顔を見合わせ、【念波】の方法で会話をする事にした。
『いや、聞こえているし分かっている。そちらが考えた通り【念波】というものの使い方を知らなかっただけだ。これで使えていると思うがどうだ?』
『おお、使えている。大丈夫だ。で、この先はオークどもの大きな集落があるが、君達は何をしている?』
『私達は瘴気の集まる場所を探してここに来たのよ。そこを浄化するのが理由だけど、それは<ムンガ>をなるべく減らして復活させない為。できればヤツには永遠に復活しないでもらいたいからね』
『<ムンガ>?』
『<ムンガ>っていうのは、私達の里では【黒の力】と呼ばれていたもの。傷をつけてもすぐに回復するし、一気呵成に攻めないと倒せないと思われていたヤツ。その【黒の力】を大量に吸収して更に濃くなる事があったのよ』
『ゴブリンが大量に【黒の力】を吸収した結果、そいつは自分の事を<ムンガ>と名乗ってな。ゴブリンの癖に話が出来るうえ、人間を滅ぼしたとか言い出した。更には死んでも復活するだの、不滅の存在だとも言っていたよ』
『【黒の力】は知っているが、そんな事を言うようなヤツだったのか? 古くからの伝承みたいなものだが、そんな事は聞いた事が無いな』
『それは普通に【黒の力】を持っただけのヤツだ。そこから更に大量の【黒の力】を集めて吸収し、体が真っ黒になったら<ムンガ>になる。そこまで行くと、瘴気を含めて浄化しなければ勝てない』
『<ムンガ>こそが【黒の力】そのものなんだけど、ヤツは一定以上の濃さにならないと自我を取り戻せないみたい。だから【黒の力】を持つだけじゃ、<ムンガ>が出てきたりはしないわ』
『俺達はその<ムンガ>の発生原因が瘴気にあると掴んだ。この世には瘴気が集まりやすい場所がある。なので、そこに浄化する為の道具を設置しておけば、瘴気の量が減って<ムンガ>が復活しにくくなると考えた訳だ』
『そしてその為に森の奥に行こうとしていたのよ。私達の目的は<ムンガ>の復活阻止であり、それは瘴気の浄化という事ね』
『何と言うか、信じられない事ばかりで判断に迷うな。君達が悪い者ではないんだろうという事は分かった。とりあえず私についてきてくれ』
『どういう事?』
『この先には先程も言った通り、オークの大きな集落がある。我々としては、迂闊に彼らを刺激したくないんだ。暴れられるとかなり面倒な事になるのでね』
『つまり、余計な事をするなって事か』
『そこまでハッキリとは言わないけど、似たような事さ。我々の町も近くにあるんだよ。もし君達がオーク達に攻撃を加えた事で町が被害にあったら、多くの仲間達が困るからね』
『そういう事。という事は町に案内してくれるって事ね』
『そういう事さ。とりあえず分かったらついてきてくれ』
そう言って茶色の犬は俺達の前で反転し、前へと走って行く。
俺達も仕方なくついていくものの、そもそも近くに町があるなんて知らなかったぞ。
まあ、だからこそ俺達に教えたんだろうけどさ。
しかし本当に余計な事をするなって感じで困るな。
一応バステトに魔力の紐をくっつけて【念話】で話そう。
『バステト、どう思う? あの犬はともかくとして、アッサリと町の存在を教えたりとか奇妙な気がするんだがな。もしかしたら町の連中で俺達をどうにかする、という可能性も考えてはいる』
『可能性としては微妙なところね。オークの集落に手を出しそうだったから私達を止めたかった、というのは本当っぽいけど………町に連れて行くというのは引っ掛かるかな』
『町だと大量に居るだろうからな。その数で俺達をどうこうする可能性は否定できないし、最悪は<時空の狭間>に逃げるか』
『そうね、それが良いと思うわ。殺されたとしても復活は可能だけど、アイテムバッグとか色々が無くなるのは痛いわね。先に<時空の狭間>に持っていっておく?』
『そうだな。そうするか』
俺は<時空の狭間>への帰還を願い、一度戻っておく。
魔法陣部屋でヌンに問われたので現在の状況を答え、<魔力操作補佐杖>やアイテムナバッグを置いて薙刀を持つ。
剣帯にあるナイフ2つと短刀は仮に無くしたとしても作れるし、服や薙刀だって作り直せば済む。
材料的に困る物は何も身につけていない。
この状態なら死んだところで大した損害は無いから問題なし。
ま、死なない事が一番なんだが、油断させておいて……っていうパターンが無いとは言えない以上、用心するに越した事は無い。
心からそう思う。
さて、そろそろ惑星の方に戻るかな。
向こうにバステトを置いたままだし、止まってるから気にはしないだろうけど、俺だけ戻ってる事で五月蝿く言われる可能性がある。
それは面倒だと思いつつ、俺は魔法陣の上に乗り転送される。
そしてすぐさま走り出すのだった。




