0040・旅に出る前の準備
Side:バステト
イシスがそろそろ私達の里や、ゴブリンどもの集落があった場所から離れると言っている。
正しくは離れるというより、瘴気や<ムンガ>を探して移動をするという事だ。
いつまでも同じ場所に居ても仕方がないので、確かに移動しなければいけないのだが、次に何処へ行くのかという事が問題になる。
イシスは私が言った、東に居るという大きなゴブリンが気になるようだ。
「一応<瘴気発見器>と<ムンガ濃度測定器>を使いながらの移動になるだろうがな。それらの浄化をする必要があるんだが、問題は浄化する為の道具が今だ無いって事なんだよ。その所為で瘴気を集める事は出来ても浄化し続ける事が出来ない」
『<浄銀>っていうのがあるんじゃなかったの?』
「<浄銀>はあるんだが、作れても一つだけだし、それを作って効果があるかどうかが分からない。<ムンガ>自体が呪いも帯びているだろ? その所為で<浄銀>製の物じゃ足りない可能性があるんだよ。一応試すのは試すが……」
『確かにそうね。足りない可能性は十分に考えられるわ』
「そうなんだよ。<ムンガ>を作った研究所みたいな場所は他にも見つかれば色々と手に入るかもしれないが、そうでもない限りは難しいと言わざるを得ない。他にも浄化の為の素材はあるのかもしれないが、ちょっと分からないな」
『そういえば、<憑依兵器ムンガ・消去方法>には沢山のニンゲンを使う施設の情報が無かった? そこに沢山素材があると思うんだけど……』
「言いたい事は分かるし、俺も考えたんだが……。残念ながら場所が分からない。当時の地名で書かれているが、そこが何処かすら分からないんだよ。地図がある訳でもないし」
『何処にあるかは書いてあっても、それが何処なのかは分からないって訳ね。まあ、私に言われても分からないし、困ったわね……』
「それもあるが、それ以前の問題でもある。その場所がそもそも残っているのかという話だ。既に風化して無くなったのなら分かるが、何かの折に解体されて持っていかれている可能性もある」
『<ムンガ>を集めて倒せる施設なのに?』
「人間の救いようの無い部分でもあるがな、使えないなら俺が持っていっても良いだろうと考えるヤツは居るんだよ。だからその施設が残っているかどうかさえ不明なんだ」
『碌でもないわね。でも猫の中にも自分さえ良ければっていうのが居るから、ニンゲンの事だけを言えないのよねえ……』
「社会性のある生き物なら、だいたいそういうヤツが生まれてくる。こればっかりはどうしようも無いさ」
「他の猫や犬に聞いてみれば良いのではないですか? 交渉ぐらい出来るでしょうし、話を聞けばそれっぽい場所は見つかるかもしれませんよ。あくまでも可能性の話ですが」
「そうだな。ヌンの言う通り、色々な種族に聞いて回るか。そうすればいつかは見つかるだろ。そこで良い物が手に入るかは謎だが」
『なら、そろそろ行きましょうか。私もイシスも十分に休んだしさ。とはいえ中途半端な時間じゃない? 向こうは』
「そうだな。森の中に入って再び十分な草を採って栄養剤の材料も確保しなきゃならないし、2~3日はウロウロする事になるかもしれん。素材を十分に得たら出発するが、それまでは素材集めだな」
『うぇぇ~……あの栄養剤の為に集めるの? 必死に?』
「仕方ない。死ぬよりマシだし、病気は嫌だ。なるべく健康で過ごす事が重要な以上、草花は多く入手しておく必要がある。更には旅をし始めると食料が不足してくるだろうしな。それも考えておかなきゃいかん」
『ああ、確かに旅をするとなれば、食べる物が足りるかどうかは分からないわね。もちろん私達なら色々な所で集められるだろうけど、縄張りを荒らすと五月蝿いから』
「それもあるな。俺もそこまで考えて無かったが、確かに縄張りの中の魔物を勝手に獲る訳にもいかないか。なら本当に今の内に獲っておく必要があるな」
「食料もそうですが、魔物の素材も必要でしょう。中には魔力操作を向上させる素材になる者も居るでしょうしね。今は優秀な金属を手に入れたようですが、無機物よりも有機物ですよ」
「本当にするべき事が多いが、とにかくまずは今後の為の食料と栄養剤の確保だ。じゃあ、目標も決まったしそろそろ行くか。あの山の全ての素材を手に入れるが如く回収するぞ」
『了解』
…
……
………
あれから三日。
イシスは宣言通りに山の素材を全て回収するが如く、アイテムバッグに詰めては<時空の狭間>の<物品作製装置>に詰め込んでいった。
もちろん私も魔物を倒したりするのに貢献したけど、酷かったわね。
根こそぎ全てを持って行くと言わんばかりに毟り取っていく様は、悪鬼羅刹の如しって感じだったわ。
出てくる魔物も撃ち殺し続けたし、イシスは<魔力操作補佐杖>しか持ってなかった。
それで【ヒートバレット】や【アースバレット】でのヘッドショットを繰り返していたのよ。
まあ、私も同じ事をしていたんだけど……。
それと、この三日で私もイシスも二度<魔力増強薬>を飲んでいる。
そして二度目は多少しか効かなかったわ。つまり今の強化は三回で終わりという事。
それでも十分と思える程に魔力は増えた。
今ならあの<ムンガ>が出てきても、普通に勝てるんじゃないかって思うほど。
実際は難しいでしょうけど、そう思えるぐらいには増えた。
代わりに制御の練習は今も続ける羽目になってるけど。
増えた分だけ薄く放射するのは難しくなっているし、練習の際には魔力操作を補助する装備は外してる。
そうなると一気に難易度が上がるから、やはりそれだけの恩恵を受けているのよねえ。
それと、最近イシスが私の言葉使いが変わったと言っていた。
何でも最初はもっとキツい喋り方だった筈だと。
私には何を言っているかサッパリだったけど、答えはヌンが教えてくれたわ。
「バステトの言葉使いですか? それはおそらく野生だった時と、言葉を覚えた後との違いではないですか? かつては野生のままだったのです。雄と雌の違いはあったでしょうが、人間のように言葉使いを変える必要も無かったでしょう」
「その言い方だと、わざわざ人間は男言葉や女言葉に分けて使ってるって事になるんだが……。そういや言語と考えたら、わざわざ性別で分ける必要は無いのか」
「ええ。雄と雌で言葉使いを分ける必要など皆無です。言葉というものの本質は<思考と伝達>。自らが思考する為の指針でもあり、同時に他者へと自分の思考を伝達するツールと言えるでしょう」
『なら私は言葉を覚えるまで雄と変わらない思考をしていたという事? それはそれで嫌なんだけど』
「ええ。それでも構いませんし、別の何かでも構いません。重要なのは自分は雄である、ないしは雌である事を伝える為に、言葉が性別で分かれたという事ですね。そうすれば言葉使いを聞くだけで分かりますから」
「確かに性別の違いを伝達していると言えるな。なら俺が言葉をブチ込んだ所為で変わったという事か?」
「変わったと言えるでしょうが、悪い変わり方では無いでしょう。言葉使いが女言葉になったという事は、より自身が雌であるという事を自覚したというだけです。もちろん自覚そのものはあったでしょうが、今よりも曖昧だったのではありませんか?」
『曖昧っていうか、確かに気にはしてなかったと思う。群れの一員って感じ?』
「猫はそんな感じなのか、それともバステトがそうだったのかは分からないけどな」
そんな話をしたのよ。
自分が女言葉? っていうのになってる自覚も無かったけど、確かに考えてみると女言葉になってる気がするのよね。
おっと、そろそろ出発だわ。
これから旅に出るんだから、しっかりしないと。




