0004・魔法陣の話と初戦闘
Side:イシス
「ヌン、俺はとりあえず魔法陣の部屋に行く。何処に繋がってようが、行かなければ暮らしていけない。食料が無い以上は、動ける内に魔法陣の先へと進む必要がある」
「ええ、それが良いでしょう。少なくとも生き物は食べなければ死にますし、それはイシスも変わりません。水は<時空の狭間>の機能で幾らでも出せますが、食べる物に関しては不可能です」
「清潔な水が無限に出せる時点でメチャクチャではあるけどな。それはともかく、魔法陣の部屋に進むんだが、現在光ってる魔法陣は一つだけなんだよなぁ……」
俺は魔法陣の部屋に入ったが、ここ2日~3日で見たのと同じく、目の前では一番手前の魔法陣だけが虹色に輝いている。その後ろにもう一つ魔法陣があり、その後ろの左右にも魔法陣がある。
「魔法陣の部屋には全部で4つ魔法陣がありますが、あれで行く事が出来る惑星は一つだけです。残りの3つは別の用途に使うものです」
「え? 別の用途?」
「はい。一つはイシスが行った事のある惑星に再び行く為の物。つまりこれから巡る多くの惑星の情報を記録しておく為の物です。もう一つは時間指定魔法陣で、記録魔法陣の時間を調節する為の物です」
「んー……なんとなくだけど、言ってる事は分かる」
「例えばイシスが行った惑星の時間軸が、Aという惑星の1000年だとして、その惑星の指令を達成したら、時間魔法陣で時間を指定出来るという事です。1500年に飛ぶ事も、500年に飛ぶ事も可能です」
「それをしたところで、どうなるっていうんだ?」
「イシスが歴史を変える事が可能となります。もちろんですが、行うかどうかはイシス次第ですが」
「いや、流石にやんないよ、そんな事。歴史を変えてどうすんだ? それって結局は負け犬の論理じゃん。自分が気に入らないから変えようって事だろ? 幾らなんでも情けなさ過ぎるだろ。どれだけ納得出来なくても受け入れるべきだろうに」
「時間を遡って変えないと滅ぶ星というのもありますからね、その場合は使わなければいけない物です。それにイシスしか使えませんから、仲間が加わっても問題ありません」
「仲間……なぁ。前任者も仲間を嫁にしたらしいし、そういう事をする為の<生物修復装置>じゃないと思うぜ? 俺は」
「7代前の<時空の旅人>は、<時空の狭間>に50人以上の仲間と住んでいましたよ?」
「50人以上って、普通は体がもたないだろ。いったいどんな絶倫だよ。ヒゲボーボーでムサ苦しいオッサンだったのか?」
「いえ、綺麗な女性でした」
「女かい!! という事は旦那? それとも愛人が50人以上って事か? よくもまあ、そんな事をするもんだ」
「少年から老人まで幅広く取り揃えていましたね。それも最後には「飽きた」と言って、次の候補に任せて寿命のある一般生物になりましたが」
「やっぱり最後はそうなるんだなぁ……。まあ、いいや。アイテムバッグもあるし、色々な武器も持ってる。いや……アイテムバッグは置いて行こう。いきなり持っていって死んだら目も当てられん」
「そうですね。イシスは復活すると言っても、物品は復活しません。現地に置いたままになりますから、誰かに取られる可能性は高いでしょう」
「げっ!? それ聞いてない。マジかー……死にたくないけど、迂闊には死ねないな、こりゃ。ところで最後の魔法陣は?」
「それは帰還または死亡した場所用の記録魔法陣ですね。イシスが魔法陣で移動した惑星で死亡すると、その瞬間に<時空の狭間>へと戻されるのですが、その魔法陣を使えば死んだ瞬間の場所へと行く事が可能です。座標をズラして転移も可能ですよ」
「あー……そうしないと戻った瞬間また死亡とかになりかねないもんなぁ……。例えば火山なんかに落ちてそのままなら、魔法陣で転移した瞬間マグマで死ぬし」
「そういった事故死を防ぐ為の機能ですね。さて、そろそろ良いですか?」
「ああ。とりあえず向こうから帰るのは何時でも大丈夫なんだろう?」
「はい。<時空の旅人>には<時空の狭間>への帰還能力が絶対に付与されます。ちなみにイシスは魔術回路と魔力回路の際に付与しました」
「成る程、あの時に付与されてたのか。……よし、革鎧OK、剣帯OK,鉄の槍OK。装備はコレでバッチリ。後は度胸で魔法陣に乗るだけだ」
俺は少し躊躇ったものの、意を決して魔法陣の上に乗った。魔法陣は虹色の輝きを強く放ち、乗っている俺を中心にして上昇しながら回転する。
綺麗だと思って見ていたら、虹色の光が胸の辺りまで来た時、急に目の前の景色がグニャリと歪んだ。
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アレ? と思った時には遅く、目の前の景色の歪みが無くなった時には、俺は森と川の境界に立っていた。足下を見ると小石が沢山あり、右は森で左には小川が見える。やはりどう見ても森と川の境界だ。
なぜこんな場所なのか不思議に思っていると、頭の中で声がした。
『この惑星には魔王が存在する。その魔王を倒すか、誰かが倒すのに協力せよ。無事に倒せば指令は完了となる』
……魔王を倒せってか? ……それは勇者君に任せるべきじゃないかなー、とか思うんだけどな。俺は。
しかし、コレが指令だというのならば受け入れて従うしかないな。<時空の旅人>だから寿命が無いんだし、これからずっと生き続けられる訳だからなー。果たしてそれが良いか悪いかは知らないが。
さて、とりあえず後ろの山を背に、川の傍を下って行こう。真っ直ぐ前には山なんて見えてないが、後ろにはハッキリと山が見えてるんだよ。あっちに行ったって遭難するだけだ。流石に山登りなんてしない。
俺は川下の方へと下っていくも、何の変哲もないまま進んで行く。そもそもこの星には知的生命体が居る筈なんだ。何故なら魔王が居るって指令があったし、誰かが倒すって指令の中にあった。つまり確実に魔王に敵対する勢力があるって事になる。
それは多分だけど人間か、もしくは人間に近しい見た目の筈だ。初めての場所がモンスターだらけとか止めてくれよ。村人が全部クリーチャーとか、マジで耐えられそうもないしさ。
俺が嫌な想像をしながら戦々恐々としていると、森の方から何かが出てきた。それは白くて可愛いウサギだったのだが、口を開いた瞬間ビッシリと牙が生え揃っていて、口から血が滴っていた。どうやら何かを喰って間が無いらしい。
そして俺を見てどうやらロックオンしたのが分かる。つまり強制的に戦闘って訳だ。
俺はすぐに右足を後ろにした半身の構えで槍を構える。実際の戦闘は初めてでも、訓練はしてきてるんだ、このぐらいは出来る。そしてヌンは戦闘において有利性も教えてくれた。基本的に戦闘はリーチが長い方が有利だと。
俺はウサギに対して槍の穂先を向けつつ思案する。角は無いけど、牙の感じからも間違いなく突っ込んで噛み付くタイプだ。槍の穂先を素通りされたら、俺には攻撃手段がナイフしかない。
これは護身用にすらならない物なので、どうしても槍じゃ無理だとなった時用だ。それまでは鉄の槍で何とかするしかない。
俺はウサギを見据えて構え、少しでも隙を探して慎重に近付く。後一息で攻撃範囲という時にウサギは動き、一気に俺へと突っ込んで来る。それも槍の穂先を跳び越えて突っ込んできた。
俺は慌てて横っ飛びで逃げ、すぐに立ち上がってウサギを探す。その時にはすぐ下に居て、俺は太腿に噛み付かれた。
「ぐあっ!!!」
俺の太腿に噛み付いたウサギは、酷くあっさりと太腿の肉を噛み千切る。その激痛を受けて、俺はあまりの痛みに目を瞑りながら後ろに倒れこんでしまった。
そして目を開けて前を見た時には、ウサギは目の前に居らず行方不明。何処に行ったのかと視線を彷徨わせると、凄く近くから「ブチィッ!!」という音がして、俺は意識を完全に失った。




