0035・夜の森の魔物
Side:バステト
夜の狩りというのも難しいわね。
いえ、それ以前に夜に狩りなんて普通はしないものよ。
何故なら何処から襲われるか分からないし、昼間に比べて圧倒的に危険度が高い。
にも関わらず、余裕で魔物を処理してるのよ、イシスは。
あのナイフを飛ばすヤツが出来れば、確かに遠間から攻撃出来るでしょうし、魔物の位置さえ分かればそこを攻撃すればいいだけ。
私でさえ出来る事だけど、最大の問題として私にはナイフを持ち歩く事が出来ないという事がある。
それさえ出来れば私にも同じ事が可能なんだけど……。
まあ、地面に石がある時はそれを使えば良いだけなんだけどね。
とはいえ石じゃ尖ってないし、だからかそこまで威力が出ない。
しかも失敗したら音が大きいから逃げられてしまう。
そこを何とかしたいんだけど、難しいとしか言えないか。
魔力を放射すると木の上に反応があったので、その事をイシスに伝える。
するとイシスも魔力を放射して見つけたようだ。
すぐさまナイフを飛ばすも、今回のヤツは「ドスン!」と地面に落ちてきた。
ゲッ!? ニョロニョロじゃない!! コイツ音もなく奇襲してくる事があるから嫌いなのよね。
里の戦士達からも嫌われてたし、若い子が犠牲になる事もあった。
こういう厄介なヤツが居るから森には近付かないんだけど、こっちが先に見つければ簡単に倒せるわね。
ついでに私とイシスが交互に警戒しているから、そう簡単には奇襲なんてされないし。
現に森に入ってから一度も奇襲なんてされていない。
やはりきちんとした技術を持っていれば、森の中でも戦えるという事は間違い無いのよ。
問題はその魔力なんだけどね。
でも多くの戦士がそれぞれ使っていれば、そこまで大量の魔力を使う訳じゃない。
更に魔力の放射だけなら【魔術】じゃないから誰でも使える。
そういうのも知らなきゃ分からない。
何と言うか……って感じがしてくる。
これを知っていれば斥候としてもっと活躍出来たんだろうけど、今みたいに魔力は無いからそこまでか。
やっぱり魔力量の多さは大事ね。
イシスが今度は大きネズミを獲ったみたいだけど、どうもネズミは魔力の放射に気付いたみたい。
となると弱い魔物ほど魔力に敏感?
………魚が弱いとは思えないけど、間違ってない気もする。
ヌンは魔石が魔力を発しているって言ってたし、だからこそ弱いのは微弱な魔力を感知して逃げるのかも。
常に強いヤツの魔力を感じて逃げる事で生き延びているなら? それなら相当に鋭敏な感覚をしている筈。
それ以上の薄さってなると大変ね。
とはいえやるしかないし、ヌンの言い方だとおそらく可能なんだと思う。
ま、これからも練習し続けるしかないって事かな。
『バステト。何か大物っぽいヤツが向こうに居ないか? 結構魔力が強い気がする』
『………確かに魔力の反応が強いけど、こっちに気付いてないなら逃げてもいいと思うけど?』
『確かに無理に戦う必要なんて無いと思うんだが……うん? 動き出した?』
これはマズいわね。
まさか魔力の大きなヤツが居るとは思ってなかったし、況してやこっちに気付いて起きてくるなんて思わなかった。
私とイシスは少し下がりながらも、相手の位置を把握すべく魔力を薄く放射する。
やはりこっちに来ているけど、この夜の森の中で迷わずにこっちに来てる。
コイツ夜の闇が見えている?
私とイシスは仕方なく【ライト】の【魔術】を使い、明かりをを用意した。
夜でも見える奴等と違って、こっちは夜の森では見えないのよ。
流石に不利な以上、明かりはつけさせてもらわないとね。
「キシャーーーッ!! ギチギチギチ!!!」
「おいおい。何か大きいのが居るなって思ってたら蜘蛛の魔物かよ。それにしても大きいっつーか、横に5メートル程ってデカ過ぎないか? 高さも2メートルぐらいあるしさ。俺より高いぞ」
確かに高いけど、今はそんな事を言っている場合じゃないでしょ。
コイツを何とかしなきゃいけないし、多分だけどコイツ逃がしてくれないわよ?
私は先手必勝とばかりに【ヒートバレット】を撃ち込んだ。けど、それはあっさりとかわされる。
まさかあの長い足で上に跳び上がるとは思わなかった。
しかも木に足をかけていて、上から見下ろしてくる。
イシスは即座に相手に対して槍を構え、ナイフを浮かべた後で地面に落とした。
魔力の紐は繋がってるけど、いったいどういう事なのやら。
何か狙いがあるとは思うけど……。
私は下から再び【ヒートバレット】を発射。すると蜘蛛はすぐに後ろへ跳んで逃げた。
コイツ木に足をかけて止まったりと、妙に多彩な動きをするわね。
その所為で攻撃が当たらない。
イシスは槍を突き付けながら、何かを狙ってるみたいだし……。
そう思っていたら、イシスは落ちていた石を蜘蛛に向かって投げつける。
そんな攻撃でどうするのよ?
蜘蛛は投げられた石を避けたけど、その動き出しでイシスは【ヒートバレット】を撃ち込む。
すると、蜘蛛は逃げられず直撃。どうやら目をやったみたい。
「ギィーーーーッ!!?!?」
嫌な音で鳴くわねえ。
でもここには私も居るのよ? 忘れてもらっては困るわ。
私はイシスに続いて【ヒートバレット】を発射し、それも直撃。
蜘蛛の目は更に抉れて潰れたわ。
抉る威力と火傷の同時攻撃。存分に受けなさいな。
「ギシャーーーーッ!!!!」
怒った蜘蛛がいきなり私達の方へと走ってきた。
どうやら大きな体で押し潰す気らしい。
これは危ないし、早く逃げなきゃマズい。
そう思ったのも束の間、ちょうど蜘蛛が居た場所と私達の間くらいで、蜘蛛が止まって悲鳴を上げて跳び上がる。
「ギィィィィィッ!?!?! ギチギチギチギチュ!!」
何があったのかと思ったら、蜘蛛のお腹に何か光る物が……。
あれってもしかしてナイフ? いつの間に刺したんだろう、しかもお腹の下から。
「設置しておいたナイフには気が向かなかったようだな? 俺達の魔力に感付いていたから、地面に落として地面に沿って魔力を流してたんだよ。だから気づけなかったろ?」
「ギギギギギギ……!!」
成る程、それで地面に放置してたのね。
いつか上を通ったらブッ刺してやる気だったと。
そして当てられないなら、当てられるように仕向けるって訳ね。
蜘蛛は木の上に居て私達を見下ろしていたけど、流石に傷を受けすぎたのか、私達を強襲するように上から降ってきた。
私とイシスは素早く【身体強化】をしてその場から離れる。
ドスン!!
「ギュイィィィィィィィッ!?!?!?!」
またイシスが何かやったみたいだと思っていたら、蜘蛛のお腹から槍が突き抜けていた。
蜘蛛は体を地面に下ろして痙攣しながら弱っていくけど、どうやら足に力が入らないらしい。
『今度はいったい何をしたのよ?』
『蜘蛛が落ちてくる所に槍を立てて置いただけだよ。ナイフが操作できるなら、槍が操作できない理由が無い。そのうえ射出する訳でもなく、ただ立てて置いていただけだしな』
そこに蜘蛛が下りてくると分かっていて置いたんでしょうに。
つまり蜘蛛は槍が立っている所に自分から落ちてきた訳ね。
で、「グサッ!」と刺さったと。
いやぁ、自分じゃないからいいけど、それはキツい。
自分の体重で刺さったともなれば、ちょっと恐怖の感触よねえ。
ある意味で碌な事をしないと思うわ、本当。
イシスはまだ意識がある蜘蛛の頭を【ヒートバレット】で撃ち抜き、殺し終わったらさっさとアイテムバッグに収納した。
これでやっと終わりかと思うも、強い魔物ってどこにでも居るわね。




