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0030・黒の力とは?




 Side:イシス



 「ゴオァァァァァァァァァァァァァ!!!」



 【黒の力】に乗っ取られているゴブリンが腕を振るって殴りつけてくる。

 しかし俺はあっさりと回避。

 事故を起こす危険性のある普通のゴブリンは既に始末済みだ。

 つまりこの戦いにおいて事故が起きる確率は極めて低い。


 だからこそ、俺とバステトは相手の攻撃をかわしつつ、確実に【黒の力】そのものを削り取って潰していく。

 時間は掛かるものの、俺達にとって時間はむしろ味方だ。

 逃げられないならば確実に勝利できる。


 問題はコイツが逃げ始めた場合だが、その場合は即座に足を潰す。

 今の内に潰さないのは、おかしな行動をとらせない為だ。

 先に足を潰すと勝手に繋げて逃げたりする恐れがある。


 そもそもコイツは幾らでも回復するし、体力も無限にある。

 一度逃げられたら捕まえる事は難しい。

 だからこそ、ここで潰せるように、そして確実に始末できるように動く。


 こいつ自体は頭が悪い。

 しかも体が幾ら傷付いてもいいと思っているのか、回避や防御を碌にしない。

 なのでこっちを未だに舐めている節がある。

 あくまでも浄化で身の危険を感じているだけだ。


 それだけでしかなく、未だに余裕があると勘違いしているのだろう。

 だからこそ、その勘違いを続けて貰う必要がある。

 なので足を潰すのはギリギリになってからだ。



 「ギィオォォォォォォォォォォ!!!」


 「当たらなさ過ぎて頭がおかしくなったか? その程度のヤツに負けてやる訳にはいかねーなー」


 「ニャア~?」



 どうやらバステトも挑発しているらしい。

 俺の方に向かせたり、バステトの方に向かせたり。

 そうする事によって、真ん中の【黒の力】はその場でウロウロしているだけになっている。


 その間にも俺達から浄化を受けて、【黒の力】そのものがどんどんと減っていく。

 そうなると慌てるんだろう、更に行動が適当になりバラバラになっている。

 まるで手の動きと足の動きが合っていないようだ。


 そのような状態で俺達に攻撃を当てられる筈もなく、更に浄化されていく【黒の力】。

 俺達の有利はもはや揺るがず、このまま押し切れるかと思ったのだが、そうそう甘くは無いらしい。



 「ギギギギギギ………ギャァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」


 「おいおい、マジかよ。ここに来て更にパワーアップとか、お前反則にも程があるだろう」


 「ニャー……」



 【黒の力】を持つゴブリンの上から、黒いナニカが入り込んでいるのが分かる。

 というか、どんどんと吸収しているのか? せっかく浄化したのに、また最初からかよ。

 流石に<ふりだしに戻る>は反則じゃね?


 そんな事を思っていると、限界まで吸収したのか真っ黒な人型になり果てていた。

 光を全て吸収するかの如く真っ黒で、もはや黒い人型のナニカにしか見えない。

 なんだよ、コイツ?


 パワーアップでまた最初からかと思っていると、目の前のヤツが急に喋り出す。



 「グギャギャ、ギャギャ。ギャギャ、グ? ………『これで聞こえるか、下等生物よ』」


 「えっ? 喋った!? 【黒の力】ってのは単なる<負の想念>じゃなかったのかよ」


 『ほう、<負の想念>な。なかなか面白い例えをする。そこまで間違っている訳ではないぞ? 我が名は<ムンガ>。この星にて永遠を貪る者よ』


 「永遠を貪る者だと? ………その黒いナニカが、お前そのものだって事か。ならその黒いナニカを全て浄化すれば俺達の勝ちだな」


 『ハッハッハッハッハッ! 実に面白い事を言う下等生物だ。この星全てに散っている我をどうやって倒すというのだ? そんな事は不可能なのだよ。頭の悪い下等生物はこれだから困る』


 「さて、何処までならお前なのかな? 薄くなり過ぎればお前では無いようだしな。そうなればお前の意識は復帰しないんじゃないのか? だったら永遠に薄いままで居させればいい。そうすりゃ滅んだのと同じ事だ」


 『ククククククククク………。かつて居たニンゲンどもと同じ事を言っておるわ。結果として奴等は滅んだが、我は滅んでおらんぞ?』


 「仮に滅んでいなくとも、こんな生物しか居ない星で、チンケな連中相手に威張っているだけの無様な存在だがな。それすら分からないとは……、どうやら〝素晴らしい頭〟をお持ちのようで?」


 『………殺す』


 「反論できなくなったらソレか、随分と野蛮なヤツだ。頭が悪いのはどっちだよ、まったく。敢えてお前に言ってやろうか? 「ねえ、今どんな気持ち? どんな気持ちー?」」


 「ニャア………」



 バステトには呆れられたが、<ムンガ>とかいうヤツはプルプルしてる。

 足を「タンタン」する掲示板の煽りはメチャクチャ効くらしい。

 記憶にあるものを再現しただけだが、凄い効果だな。



 『シィィィィィィネェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!』


 「片言になってますやんか………。どんだけ図星だったんだよ、このボッチさんはさー」


 『シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!!!!!!!!!』


 「ニャー………」



 煽りが効き過ぎてバステトもドン引きしてるぞ?

 それでも何とか浄化してくれてるが、しかし魔力がそろそろ限界だな。

 一旦<時空の狭間>に帰るか。


 黒い人型の猛攻をかわしつつ待っていると、目の前の景色が歪み始めたので、ギリギリになって大きく後ろへ跳ぶ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「ふぅ……。何とか帰ってこれたか。それにしても、何だあの<ムンガ>とかいうヤツ。完全にこじらせたボッチじゃねえか」


 『どうしてああも怒らせられるのか、不思議で仕方がないんだけど? 完全に怒り狂ってたじゃない。流石にあれは気の毒よ』


 「お帰りなさい、イシス、バステト。黒の力との戦いは終わりましたか?」


 「ただいまだ、ヌン。「ニャー」終わるどころか、むしろ始まったって感じだな。【黒の力】を浄化してたら、結構減らした後に集めて吸収しやがってな。そしたら自我があって<ムンガ>と名乗ったよ」


 「ほう? つまり【黒の力】とは、<負の想念>でありながら誰かの意思であると。だから瘴気にまではなっていないのですね。これはなかなか面白い発見ですし、色々と研究してみたいですね」


 「いや、研究って……」 「ニャー……」


 「ゴホンッ! まあ、私の知的好奇心はともかくとして、その<ムンガ>とやらとの戦いは終わっていないのですね?」


 「まあな。向こうは復活して更にパワーアップした感じだ。せっかくもうちょっとで終わる筈だったのに、復活とパワーアップはズルいだろ。おかげで一度帰ってくる羽目になったわ。ちょっと飯食ってゆっくりする」


 「ニャ」



 バステトもちょっと疲れたらしく、俺達は二人で<物品作製装置>の部屋まで行き食事をとる。

 適当に食べたら寝室に行き、ベッドに横になって休む。

 眠れないが、目を閉じているだけでも回復するからな。


 バステトもベッドの上で丸くなってるし、本当に疲れたんだろう。

 まさか唯の暴走する力だと思ってたら、なにやら意思まで持ってるんだからな。

 どう考えてもアレが魔王だろ。オーガとか関係ない、あの<ムンガ>こそが魔王だ。


 しかも「かつて居たニンゲンども」とか言っていた。

 となると、あの惑星には人間が居たが、今はもう滅んだって事になる。


 そこはまあ、俺があの星に着く前の話だからどうでもいいとして、むしろ犬猫が未だに生きている事の方が驚きだ。

 しかも集落などを形成しているし、一応は堀とか土壁とかも作っていた。


 人間が居なくなったから、代わりに犬猫の社会が生まれたんだろうかな?

 それと、あの星にはかつて人間が住んでいた遺構などの痕跡が残っているかもしれない。

 有機物はともかく、無機物は残っている可能性が高い。


 <ムンガ>を倒すには魔力が必要だが、他の魔物に対しては役に立つ金属があるかもしれない。

 鉄や鋼は魔力を通し難いとヌンは言ったが、それ以外の金属については何も言っていない。


 それに別の惑星なんだ、ファンタジー金属が無いとは思えないんだよ。

 ヌンも自らがスタンダードだとは考えるなと言っていた。

 俺の知識にあるものが全てじゃない。

 言い換えれば、知らない物は山ほどある。


 ならばそういうものを探すべきだろう。

 ま、今は<ムンガ>とかいうヤツを倒さないと、移動も出来ないんだけど。


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