0028・囮と掃討
Side:イシス
「やっぱりかよ。お前さっき殺したヤツと一緒だな? となると【黒の力】ってのは唯の力じゃなくて、意思を持った力って事になる。お前というヤツは生き物を乗っ取って存在するんだろ?」
「グルァァァァァァァァァァ!!!」
俺が問い掛けるも返事は無し。まあ、ゴブリン語を話している訳でもないから分からないんだろ。とはいえ、コイツ自身に意思や意識は間違いなくある。
魔物ではあるものの、生き物の意識を乗っ取って暴虐の限りを尽くす。碌な存在じゃないと言うしかないな。
おっと、咆哮は止めて俺に向かってくるようだ。ここからは真面目に戦うかな。
「ゴアァァァァァァァァァァ!!!!」
走ってきての……ブン殴りって、おい。真面目に戦う気あんのか、コイツ?。
「おいおい。真面目に戦う気あんのか、お前? そんな、これから殴りますよーっていうテレフォンパンチが当たる訳ねーだろ。戦いを舐めてんのか? もしそうなら、また殺されるぞ? 真面目に戦えよ、ほら」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
おーおー、怒り心頭って感じだが、そんな怒りで戦いに勝てたら誰も苦労しないっての。腕をブンブン振り回したところで、当たらないものは当たらない。というか、マジで舐めてんのか?。
そもそも腕をどれだけ振り回したところで、腕が伸びる訳じゃないんだよ。その腕以上に離れれば絶対に当たらない。逃げるだけなら、そこまで難しくは無いんだ。逃げるだけならな。
コイツはそういう事も知らないらしいな。御蔭でバステトがザコを処理する時間が稼げる。しかし、ここは更なる挑発をして、出来る限り俺の方に引き付けておきたいところだ。
だからこそ、やるべき事は一つだろう。コイツに意識があるなら、徹底的にバカにする事だ。
俺は振り回している腕を近くでかわしつつ、左腕を振ってきて伸びきり、次の右腕を振るべく踏み込んできたタイミングで足に【身体強化】。一気に前に出て足を引っ掛ける。
当然ながら足を引っ掛けられた【黒の力】のゴブリンは派手に転倒。顔からダイブした。
「おいおい。パンチを当てられないどころか、顔からダイブするのかよ? ある意味で器用なヤツだなぁ、そこは褒めてやれるぜ。いやー、スゴイ、スゴイ」
「グギギギギギギギ………!! グルァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
どうやら俺の言っている事が何となく分かるらしく、ブチギレ状態になったようだ。これで当分の間は俺にしか攻撃が向かないだろう。バステトが何処まで……?。
『<時空の旅人>の仲間、バステトが<時空の狭間>への帰還を申請しています。許可しますか?』
『許可する』
どうやらバステトが一度帰るようだな。<時空の狭間>に戻るにも<時空の旅人>の許可が要る。何故なら全ての大元は<時空の旅人>が持つ時空間固定能力にあるからだ。
だからこそ、俺を通してしか拠点である<時空の狭間>には帰還できないし、俺を通してしか限定的な不死を得る事は出来ない。絶対に蘇るというのは、不死だと言ってもいいだろう。
ただし、それもこれも、あくまでも<時空の旅人>あってのものだ。そして<時空の旅人>になる為には、前任者から託されるしか方法が無い。勝手に成り代わる事は出来ない訳だ。
だからこそ<時空の旅人>の安全は担保されている。仲間となったヤツが裏切った場合、即座に付与した能力を全て外せばいいだけだ。そして<時空の旅人>は仲間を強制的に<時空の狭間>へと送れる。
あそこでしか能力の剥奪なんて出来ないんだが、それに纏わる色々はヌンから聞いている。かつての前任者達にも色々とあったらしく、生々しい裏切りの話とかは聞いた。いや、聞きたくないってくらいのも聞いたんだよ。
実際にあった事なんで聞くしか無かったし、な!!。
「おっと、危ない。そんなもん喰らうとでも思ってたのか、バカが。ほれ!」
ゴン!!
「ギャッ!!」
俺の後ろからコソッと狙っていたヤツが居たんだが、そもそもここはゴブリンの集落だ。俺が隙を見せる筈は無く、更に言えば定期的に魔力を放射してるに決まってるだろうが。
後ろから襲ってきたとしても気付くし、そんな奇襲攻撃を受けるほど俺はバカじゃないっての。それにしても当てが外れたからか、怒り狂ってるなー。
「ゴアァァァァァァァァァァァァ!!!」
「ギャァ!?!?!!」
「あーあー、仲間をブン殴るとか正気か? お前のパンチが当たらないのは、お前がザコだからだろうが。あらら、殴られたゴブリンがビクビク痙攣してるぞ? どんだけの力で殴ったんだよ、お前」
「グルォォォォォォォォォォォ!!!!」
「はいはい、御苦労さん。当たらないものは、当たりませんよーっと。もうちょっと真面目に戦ってくんねーかなー?」
俺が常に小バカにした態度を崩さないので怒り狂ってるが、普通に考えてもコイツ強くないな? 【黒の力】の不死性が非常に厄介なだけで、戦闘能力という意味では大した事は無い。それともゴブリンだからか?。
ま、とりあえずは今まで通りに回避していれば済むな。
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Side:バステト
私は少しでもイシスを楽にするべく、素早く着実にゴブリンどもの頭を撃ち抜いていく。使っているのは【アースバレット】で、土をギュっと固めて銃弾? というヤツの形にしている。
土ならそこら中にあるから使いたい放題だし、当たれば即死だから積極的に使っている。そもそも連中の攻撃なんて当たらないし、私達なら奇襲でも受けない限りは全く問題無い。
捕まった時は、前から来たヤツに気を取られて、後ろのヤツに気付かなかったのが敗因。でも魔力を放射して調べてるから、もう後ろから奇襲されたりなんてしない。
そう考えると、イシスの御蔭で明らかに強くなってる。感謝はしてるし頼りにしてるけど……あの挑発の仕方はどうなのかな? アレで怒ってるからいいけど、理解されなかったら首を傾げられるだけでしょうに。
「ギャギャーギャッ!!」
「ギャーギャッギャ!!」
こいつらはこいつらで、私という敵を目の前にしながら仲間割れ。「お前が行け」「いや、お前が行け」って感じで、相手に押し付けあってる。だから両方とも頭を撃ち抜かれて死ぬのよ。
それよりも、大分ゴブリンの数が減ってきたけど、もう一度休憩をしなきゃ駄目ね。イシスに頼んで帰還させてもらわなきゃ。
『<時空の旅人>に<時空の狭間>への帰還を申請。………許可されました。これより帰還を開始します』
イシスに許可を貰わなきゃ帰れないんだけど、つくづく<時空の旅人>って凄いと思う。本当に。
目の前の景色が歪み、気付けば魔法陣のある部屋に居た。私はすぐに横になって目を瞑る。
「二度目の帰還ですが、向こうはどうですか?」
「ニャーニャニャ。ニャニャーニャオ。(現在もイシスが【黒の力】相手に挑発して引き付けてる最中)」
「成る程。ゴブリンとやらの拠点だと言っていましたから、そう簡単には掃討は終わりませんか」
「ニャン、ニャニャア、ニャニャンニャ。(かなりの数を殺したけど、未だ残っている。それに、逃げたヤツが居る可能性が高い)」
「本当の意味で掃討するのは難しそうですね。ただ、逃げた者はおそらく森の魔物に殺されるでしょう。ならば放っておいて問題ありませんね。後は【黒の力】とやらを浄化するだけです」
「ニャ!」
「はいはい、魔力濃度ですね。早めにイシスを助けに行ってもらいたいので、構いませんよ」
本当にコイツはイシスが中心。ま、<時空の旅人>を助ける役割だから当然らしいんだけど……。本当にそれだけ?。




