0027・ゴブリンの集落
Side:イシス
「バステトが眠る前に集落に行って、一応の片付けをしてきた。集落のものの遺体は全てアイテムバッグの中に入ったままだ、猫達がどのように遺体を弔うかを俺は知らないからな。だからアイテムバッグに集めただけで済ませている」
『弔うという言葉の意味は何となく分かるが、そういう事を私達はした事が無い。集落の外に出すという事はあったがそれだけだ。もしかしてイシスは何かするのか?』
「人間の場合は火葬にしたりするんだよ。土葬と言って埋める事もあるけど、基本は火葬だな。何故なら死体は腐敗するし、その腐敗した死体は雑菌の温床だ。つまり病気を蔓延させる元でもある」
『病気か。今さらの気がするが、確かに里の者達が病気塗れというのも良くない。そうなると火葬とかいうものの方が良いのだろうな。しかし、結構な火の強さが要るようだが……』
「最悪は<物品作製装置>に入れるという方法も無い訳じゃないが、それは駄目だろう? もしくはヌンに頼んで<時空間の歪み>に送り込んでもらうかだ。そうすれば全て消滅するらしい」
『それもどうなんだろう? 残っているのは唯の死体ともいえるし、死んだ者達はそこで終わりだ。死んだ者達がとやかく言ったりはしないと思うがな……。言えないのだし』
「まあ、そうなんだけどな。じゃあ、火葬にするか? 俺達が二人掛かりで温度を上げれば、おそらく火葬するに足る温度まで上がると思う。そうすれば問題なく火葬にできる筈だ」
『では、そうするか……』
俺達は魔法陣で猫の里に行き、そこの中央に死体をアイテムバッグから出して積み重ねていく。最後に魔力の紐を伸ばし、バステトと協力して温度を上げていく。
どんどんと上げていき、燃える事は無いものの血が沸き立ち蒸発してきた。更に温度を上げ続けていくと、やがて火の着く温度を超えたのか燃え始める。しかしそこから更に俺達は温度を上げていく。
既に二度も<魔力増強薬>を飲んでいるからか、魔力そのものには余裕がある。それでも長い時間は続けられないだろうから、何とか早めに終わってほしいものだ。そう思いながらも更に熱量を上げていく。
燃え尽きた遺体が出てくると、上の遺体に押されて下に下がってくる。下にある骨は潰されていく音が聞こえてくるが、それでも俺達は温度を上げて燃やし続けていく。そうしなければ終わらないし、これは弔いでもある。
…
……
………
それからどれだけ時間が経っただろうか。もうそろそろ魔力の限界だと思った時には火葬は終わっていた。目の前には骨しか残っていない。俺達は互いに頷くと。最後に骨の下の土を横に掘り出すような形で穴を掘り、全ての骨を穴の中へと下ろす。
そして土を被せて埋めたら終了。ちょうど墓だと分かるように半円形にこんもりとした形になった。俺は最後に手を合わせで祈り、それが終わったらバステトと共に<時空の狭間>へと戻る。
そして食事と栄養剤の補給が終わったら、俺達はベッドで眠る。10分の1ではあるものの、バステトには栄養剤を飲ませた。激しく嫌がったものの、健康の為には諦めろと説明すると渋々納得して飲んでいた。
そして俺が飲むところも見張られたので、洗濯バサミを出す訳にもいかず、指で鼻を摘む事も出来ずに飲んだ。地獄ではあったものの、しかし飲まなければ仕方ない。バステトも鼻を押さえずに飲んだのだから、文句を言う事も出来ないしな。
その事は忘れるとして、起きた俺達は一番手前の魔法陣で惑星に下りる。今度はゴブリンの集落を滅ぼす為だ。ゴブリン絶対殺すウーマンになったバステトは、今度こそゴブリンを蹂躙する気らしい。
ちなみにバステトに情け容赦という思考は無い。何故ならゴブリン自体がそもそも犬猫を襲う害獣だからだ。放っておけば他の者達が迷惑する。それ故に根絶やしにするという訳だ。
恨みの相手であるゴブリンと言うだけじゃなく、犬や猫の側にもゴブリンを放置できない事情がある。生きるか死ぬかの生存競争である以上、敵を殺さねば自分達が殺されるだけであり、そこに甘っちょろいものなど存在しない。
いや、存在しないのではない、してはいけないのだ。甘っちょろい事を一度でも行えば、今度は他の所で誰かが犠牲になる。自分の甘い感情の所為で何処かの誰かが殺されるのだ。その現実が理解できれば、甘っちょろい妄想など吹き飛ぶ。
俺達はすぐに西へと移動し、森の中をどんどんと進んで行く。おそらくだが、あの時集落を見つけたのは西だったと思う。進む方角を間違った末に見つけたのだが、そもそも俺が迷っていなければバステトも助からなかったんだよなぁ。
『それはそれで何とも言えない微妙な話だな。森で迷うなど何をやっているのかと思うが、イシスが迷わなければ今ごろゴブリンの腹の中だったとは……』
「魔力の放射に反応は無しか。あの時もこうやって魔物の反応を調べつつ移動してたんだよ。そしたら森の切れ間が見つかって、その結果ゴブリンの集落を発見したって訳だ」
『成る程。私達はこんなに近くにゴブリンどもの巣があったのに、そんな事にすら気付いていなかった訳か。森の中に巣を作られていたとはいえ、明らかな怠慢だな。知っていれば対処は出来た筈だ』
「仕方がないとは「グォォォォォォォ!!!」思うが………!?」
俺はバステトと顔を見合わせ、すぐに声の方向へと向かう。すると森の切れ間から見えたのは、普通のゴブリンが黒いナニカを吸収している姿だった。
俺は素早く状況を確認すると、魔力の紐をバステトに繋いで指示をする。
『バステト。俺があのゴブリンを引き付けて時間を稼ぐ、その隙にお前は普通のゴブリンを殺して行ってくれ。魔力が無くなったら<時空の狭間>に戻って魔力の回復だ』
『私がアレの相手をする。だからイシスが周り『駄目だ』のゴブリンを……』
『おそらくあのゴブリンは猫の里で倒したヤツと同じだと思う。そうであるならば、ヤツを殺した俺を目の敵にしている筈だ。ここから見ていても分かる。おそらくアイツを倒すには浄化するしかない』
『だったら尚の事、私が囮を『違う』やった方が……』
『俺がヤツを倒すのは多分無理だ。そしてバステトだけでも駄目。おそらく俺達が力を合わせて浄化しない限り、ヤツを完全に浄化しきる事は出来ないだろう。それぐらいヤツの【黒の力】は大きいと思う』
『だからこその分担? 私がゴブリンを倒し、その間イシスがヤツを引き付ける。そういう事?』
『そうだ。猫の里の時とは真逆で、俺が囮でバステトが数減らし。二人が協力しないと勝ち目は無い。ここでゴブリンを殺しても、あの【黒の力】はまた抜けて何処かに行くだけだ。ここで【黒の力】を滅ぼす』
『成る程。ゴブリンじゃなくて、【黒の力】こそが私達の真の敵。なら、アレを滅ぼさない限り、皆の仇を討った事にはならない』
『すまないが、バステトはゴブリンどもを頼む。猫の里を攻めて来たヤツも同じだが、奴等はおそらく【黒の力】を持つヤツの手下となる。生かしておく理由が無い。申し訳ないが、【黒の力】ごとここで滅んでもらおう』
『申し訳なくない。奴等は私達の里を滅ぼした、なら自分達も滅ぼされる覚悟があるという事。私はそう見做す。やった事を、やり返されるだけ。連中に文句を言う権利は無い』
『それじゃあ、始めるぞ。俺が先に前に出て注意を引く。あのゴブリンの注意を上手く引けたら、見つからないように後ろに回って殲滅だ。命を大事にな』
『分かってる。これ以上無様に死ぬ気は無い』
『よし、それじゃあ開始!』
俺はゴブリンの集落へと一気に進み、まずは手始めに近くのゴブリンの首を穿つ。そして大きな声で、【黒の力】のゴブリンを挑発する。
「よう! さっきぶりだな!! 一度殺されたが、また殺される為に復活したのか? バカなヤツだなぁ、何回も殺されに蘇ってくるなんてさ!!」
「ガァァァァァァァァァァ!!!!!」
俺を射殺さんばかりに睨みつけている。間違い無い、コイツはさっき殺されたゴブリンと〝同じ〟だ。




