0026・浄化
Side:イシス
あのゴブリンを倒せたのは確実だ。何たってアイテムバッグに収納できたという事は、死体だという事だからな。それはいいのだが、何だかバステトがしんみりしているので話を聞くと、どうやら役に立てなかった事に納得がいかないらしい。
気持ちは分かる。自分の手で仇を討ちたかったのだろうが、あの【黒の力】とかいうよく分からないのが相手だったんだ。むしろ勝てた事に喜ぶべきだし、古い時代では多数の犠牲を出してやっと勝てたような力だったらしい。
あのゴブリンを倒しても指令の達成では無さそうなので、魔王はアイツではなかったようだ。オーガが魔王かもと思ったが、オーガがあんな力を持ってたらシャレにならないぞ。何とか対策を立てないと、勝てないという未来しか見えない。
とりあえずゴブリンに勝った俺たちは、一旦<時空の狭間>へ帰る事にした。ちょっとヌンにも聞きたいしな。
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「お帰りなさい、イシス、バステト」
「ヌン、ただいまだ。それはいいとして、ちょっとヌンに聞きたい事があるので、ここで取り出す」
「なんでしょう?」
俺はアイテムバッグから、あのゴブリンの死体を取り出す。そしてこのゴブリンが【黒の力】と呼ばれるものを持っており、傷を受けても簡単に治していた事、火傷の状態になると治りが悪かった事などを話す。
「成る程。そのような特殊な力を持った者であり、最後はその黒いナニカが抜けて死んだと。………それはおそらく<負の想念>でしょうね。ただし魔力などと密接に結びついた結果、そのような事になったのだと思います」
「<負の想念>?」 「ニャア?」
「おそらくですが、いわゆる瘴気に近いものでしょう。旅先の惑星では【黒の力】と言うのかもしれませんが、これよりも強く死体に多くが取り込まれるとアンデッドになりますね。その【黒の力】というのは絶妙に、そうなる前です」
「つまり、瘴気とやらの成り損ないの所為でこうなってると? 異様な程に治癒能力が向上するのは、既にアンデッドだからか?」
「いえ、そうではありませんね。見たところ瘴気の残滓と思われるものはありません。ただし、それに近しいものはあるので、旅先の惑星では変質している可能性が高いです。瘴気にならず【黒の力】とやらになってしまう星なんでしょう」
「つまり……アンデッドであってアンデッドじゃない?」
「アンデッド手前という方が正しいかもしれません。瘴気にまではなっていませんが、代わりに<負の想念>には乗っ取られているでしょうね。ですので元々の自我が残っているかは謎です。ただし回復能力については不明ですね」
「ニャー?」
「倒す方法ですか。それは瘴気を浄化するのと同じ方法を使えばいいだけです。イシスもバステトも【魔術】を使えるのですから、【魔術】を使って瘴気を浄化すれば回復能力は排除できるでしょう」
「という事は、回復阻害はできるけど、後は自力で戦えと。まあ、そんな簡単に敵を倒せたら誰も苦労はしないわな。それでもあの回復能力を阻害できるなら、勝つ道筋は増えるだろう。早速だけど、どうやればいいんだ?」
「その死体を使って練習をしましょう。といっても浄化は特に難しくはありません。魔力で瘴気に干渉し、それを消してしまえばいいだけです。とにかく練習してみて下さい」
「分かった」 「ニャー」
俺は魔力の紐を使って死体に触れてみた。すると何だか嫌な感じのモノが魔力の紐にくっ付く。おそらくこれが【黒の力】なんだろう。ここまでは簡単に出来る事なので良いのだが、問題はここからだ。
どうやれば浄化できるのかサッパリ分からない。ヌンは消してしまえばいいと言ったが、いったいどうやって消すんだよ。そう思いつつも魔力の紐で色々とやってみる。魔力を押し込んだりしてみたものの変化は無し。
バステトもどうしていいか分からないらしく、色々とやってみているようだ。それは良いんだが、本当にどうやったら消えるのかが分からない。アレか? 俺の魔力で瘴気を喰らう感じにすればいいのか?。
魔力の紐から魔力を流し、その魔力で嫌なモノを喰う感じで使ってみた。すると少しだが消えたような気がする。ただ、対消滅するように俺の魔力が減ったな? これ、相手の瘴気と俺の魔力でのガチンコ対決みたいになるぞ。
バステトが悩んでいるみたいなので、俺のやり方で正しいかは分からないものの教える。
「バステト。自分の魔力で瘴気を包む感じだ。そうすると自分の魔力と瘴気がお互いに潰し合って消える。そうやって消していくんだと思う」
「ニャー…………ニャア!!」
「上手くいったようですね。【魔術】は自由なだけに感覚に頼るところが大きいので、なかなか説明し辛いのですよ。更に、説明する事によって固定されてしまう恐れもありますからね」
「ま、とりあえずはやり方が分かったんで、こいつの瘴気は全部消すか。一応最後まできちんとやってしまおう」
俺達は頑張って瘴気を消し、全て終わったらゴブリンを<物品作製装置>の箱の中に放り込んだ。俺としては瘴気を消したんだから、何かの素材になってほしいという思いもある。アレだけ強かったんだしな。
そう思ったら、魔力が足りたのか<魔力増強薬>が作製可能になっていた。なので俺は作製し、<生物修復装置>まで行って中にバステトを入れる。流石に二回目だからか慣れたバステトは、中で<魔力増強薬>を飲んで気を失った。
俺は<物品作製装置>の部屋に行き、熊の牙の槍と、ウサギの牙のナイフを二本作製。装備した後は、魔法陣の部屋から集落へと戻る。バステトが寝ている間に集落の片付けをする為だ。
惑星に降り立った俺は、集落の中の死体をどんどんと収納していく。集落を見回りながら収納していくのだが、どうやら一部の壁が壊されているようだった。おそらく【黒の力】を持っていたゴブリンがやったのだろう、土壁が完全に破壊されている。
そこから集落の外に出ると、外にある死体も全てアイテムバッグに入れ、入らなくなったら<時空の狭間>に戻った。
<物品作製装置>の部屋に行き、箱の中にゴブリンだけを入れて惑星へと戻る。そしてまた死体を集めるのを繰り返し、掃除が終わったら<時空の狭間>へと帰還。ゴブリンの死体を全て<物品作製装置>の箱へと放り込む。
終わったら寝室に行き、バステトが起きるまで仮眠をとる事にした。実は今回の<生物修復装置>の設定は、最適化と言語の付与となる。
俺が使うのと同じ言語の付与なので、【念話】を使っているにも関わらず「ニャーニャー」しか言わないのは解消されるだろう。
それでも伝わるのだが、細かいニュアンスまでは不明だからな。同じ言語が使えた方が分かりやすい。たとえ発音できずに頭の中だけでも、それは大きく違う事だ。
さて、そろそろ寝るかな。
…
……
………
「起きて下さい、イシス。起きて下さい。バステトが起きましたよ」
「ん……バステトが起きたか。今行く」
微妙に眠たいが、スッキリ起きられなかったのは仕方ない。俺はベッドから起き上がり、<生物修復装置>へと移動。カプセルの蓋を開け、バステトを中から出す。
バステトは床に下ろされてすぐ、俺に対して魔力の紐を繋いできた。
『何故か言語? とやらが頭に出てくるんだけど、これってイシスの所為?』
『正しくは<生物修復装置>の御蔭だ。同じ言語で話し合わないと、細かいニュアンスが伝わらないだろう?』
『言いたい事は分かるけど、何だか不思議な感じ……』
そのうち慣れるだろうから、気にしなくてもいいんだが……。今までと違うと違和感があるんだろうなぁ。




