0025・黒の力
Side:バステト
あの<臭いヤツ>だけは殺す。何があろうと殺す。
私は今それだけを考えている。どう考えても二度死んでいた筈の私は、このイシスという者の御蔭で生き残った。その事自体は良い事なんだけど、生き残ったのは私だけだ。
確かにイシスの言う通り、戦士の者達は戦いに介入したら怒り狂ったろう。だから私しか生き残っていないのも仕方がないのだと思う。実際にイシスが何かした訳でもなければ、むしろ助けてくれただけだ。
私は警戒や斥候などをしていたので、そこまで強い訳じゃない。猫の里には私以上の者など幾らでもいた。ただし私以上の斥候は居なかった筈。その私が捕まった時点で、相当にマズいという状況だった。
誰か他の者が見つかったのか、それとも私が尾行されていたのかは分からない。しかし里は見つかって、皆は殺されてしまった。出来れば逃げていてほしいのだが、逃げられた者は居たのだろうか?。
仮に逃げられたとしても、その先で生きられるかは別だ。弱ければ食われて死ぬしかない。だからこそ里では多くの者が協力して生きていた。しかしその数が失われた以上、生きていたとしても厳しい事になる。
再び里を再建したとしても、数が居ない以上は狩猟班も揃えられない。そうなると食べる物も集められないので、結果として飢えるしかなくなる。私も里で助けてもらって長いが、まさか自分が生きている間に里が無くなるとは思わなかった。
もう10年以上も前、親と共に助けてもらったのが懐かしく感じる。あれから私も歳をとったものだが、最後の最後でゴブリンどもの集落を潰せるなら、それが皆への手向けとなるだろう。まだ寿命は来ていない以上、イシスの力があれば倒せる筈だ。
出来れば自分の力だけで倒したいが、あの<臭いヤツ>。イシスはゴブリンとか言っていたが、アイツはおそらく【黒の力】を手にしている。アレを手にしている以上は、生半可な攻撃では勝てない。
というより、唯の<臭いヤツ>に負けるほど、里の戦士達は弱くない。アイツに勝てなかったという事は、ほぼ間違いなく【黒の力】をヤツが持っているという事だ。何とかイシスと協力して倒さねば。
幸いなのはイシスもメチャクチャだという事だ。【黒の力】ではないが、代わりに幾ら死んでも復活するらしい。初めて聞いた時には意味が分からなかったが、本当の事だと言われて呆れたのを覚えている。
あのヌンというヤツがよく分からないが、それが事実なら確かに最後には必ず勝つだろう。死んでも復活し続けるなど反則に過ぎるし、幾らでも修行して強くなれるというのも……。やはり呆れるしか出来ない。
おっと、考え事をしていたらイシスが魔法陣に乗った。私も乗って、と。おお! なんかキラキラ輝くのがクルクル回って上に上がって……目の前が歪む!?。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
目の前が歪んだ後に見えたのは、あの<臭いヤツ>の醜悪な顔だった。こちらを見て嗤っているその顔を見た瞬間、私の全てが怒り狂うのが分かる。
「シャーーーッ!!!(貴っ様ーーーーーーっ!!!)」
私は弾かれたように飛び出し、一気に接近すると右手の爪で切り裂こうとする。しかしヤツは突然の攻撃にも関わらず、左腕で受け止めて後ろへ逃げた。確かな手応えがあった以上、確実に切り裂いた筈。
しかしヤツの左腕はすぐに黒いナニカに覆われて傷が塞がっていく。くそ! やはりこいつは【黒の力】を持っている。どうやって手に入れたのかは知らないがマズい。浅い傷では幾らつけても無駄に終わる。だから里の戦士達も勝てなかったのか。
私はすぐにイシスに向けて声を挙げ、協力を要請する。このままでは皆の仇をとる事も儘ならない。まずはヤツを倒して仇をとるのが先だ。
私はヤツから少し離れ、イシスに魔力の紐を付けて【念話】とやらで話す。
『ニャーニャニャニャ(ヤツは【黒の力】と呼ばれるものを持っている。あれは傷つけてもすぐに回復するので、生半可な攻撃では勝てない。)ニャニャッニャ(一気に攻めて確実に殺すしかない筈だ)』
『バステトの言う【黒の力】っていうのがよく分からないが、一気呵成に攻めて完全に殺し尽くす必要がある訳だな。分かった、なら先制攻撃と行くか!』
イシスは何を思ったか腰元のナイフを宙に浮かせ、ヤツに向かって飛ばした。いきなり飛んでくるナイフに驚いたのか、ヤツはそのナイフを避ける。と、イシスはそこに先回りして槍を突き出す。
それは正確に喉を穿ち、引き抜いたイシスは後ろへ跳ぶ。あれなら確実に致命傷……駄目か。ヤツの首元に黒いナニカが集まり、傷を回復させてしまった。ヤツも喉を穿たれたにも関わらず平然としている。
ただ切り裂いたりしただけでは勝てないという事か。ならば……。
再びイシスが攻めたので、今度は私も攻める。ヌンとかいうヤツから聞いた【身体強化】という技を用いて、一気に跳躍。やはり体の力が随分と強くなるな。
イシスが<生物修復装置>とやらで寝ていた時に教えられて練習したが、この力があれば里の戦士達ならば勝てただろう。ただし、それだけの魔力があればだが。私はイシスの御蔭で増えたが、里の戦士達ではな。
再びイシスが攻撃したが、ヤツは回避。しかし私が居る事を忘れているな? 私はヌンに教えられた、イシスも使うという【ヒートバレット】を右目に撃ち込んでやる。
すると直撃した【ヒートバレット】は右目を抉り、見事にダメージを与えた。ヤツは痛みに悶えているようだが、このまま……うん? イシスから魔力の紐?。
『見てみろ、バステト! 【ヒートバレット】を喰らったあのゴブリン。右目が治ってないぞ。もしかしたら治るのかもしれんが、火傷になった傷は癒えるのに時間が掛かる可能性が高い』
『ニャア(成る程)。ニャッ、ニャーニャニャニャウン!!(なら、どんどんと焼いてやるのが正しい倒し方なのだな!!)』
私は悶えているヤツの体に向かって、【ヒートバレット】をブチ込んでいく。腕や足、腹などに攻撃する事で、ヤツは更に悶え苦しみ始めた。里の皆の仇だ! 存分に苦しめ!!。
イシスは何かに集中しているのか何もしない。が、イシスの持っている槍の先が赤くなっている。もしかしてアレは真っ赤に焼けているのか? 十分に熱されたのか、イシスはそれをヤツの喉元に再びに突き込んだ。
ズドッ!! ジュゥゥゥゥゥゥゥ!!!
「ーーーーーーーッ!?!?!?!!」
ヤツが言葉にならない悲鳴を上げながら、地面をのた打ち回る。喉が潰されたのだから、当然悲鳴など上げられない。おそらく【黒の力】に驕って、今まで治るからと適当な戦い方をしていたのが原因だろう。
更に攻撃をと思ったが、槍は柄が燃えていてイシスは既に手放していた。アレでは使えないか。ならこれ以上はどうすれば……。そう思ったら、イシスは空中のナイフを赤くし始め、十分に赤くなったらヤツの頭に突き刺した。
それは凄い速さでヤツの頭に突き刺さり、見えなくなるまで頭の中に埋まっていった。
「!?!!?!!!?!!?」
あんな物が頭の中にメリ込んでいるにも関わらず、まだ息があるらしい。どれだけ【黒の力】が強いかよく分かる。かつての時代には多くの戦士達が散ったが、肉片になるまで切り刻む事でやっと倒せたらしいからな。
まさか今の時代に【黒の力】を持つ奴が居るなど……。ぬ?。
「グオォォォォォォォォッ!!!!!」
ヤツが叫ぶと、ヤツの体から黒いナニカが抜けて消えていく。そしてその後、ヤツは動く事は無かった。イシスはヤツの近くで背中の物を下ろし、ヤツの体を触ると、背中の物の中にヤツの体が吸いこまれていった。
どうやら【黒の力】が抜けた段階で、私達の勝利だったようだ。それにしても強かった、ハッキリ言って私は足手纏いだったし、イシスが居なければ殺されていただろう。三回目も勝てないままに終わりか。
何とか今よりも強くならないとな。




