0024・魔力の増強と準備
Side:イシス
訓練場で【魔術】の練習をしながら、消費した魔力を仮眠で回復する。そうしているとヌンに起こされた。理由はバステトが起きたからだ。
俺は訓練場から<生物修復装置>のある部屋へと移動し、バステトを出す為に透明の蓋を開く。中には少しフラつくバステトが見えるので、俺が外に出してやった。ちなみにバステトの大きさは一般的な普通の猫と変わらない。
出してやったバステトはフラフラしているが、それは体の不調というより増えすぎた魔力によるもののようだ。俺はバステトにゆっくりしておくように言い、<物品作製装置>のある部屋に行って<魔力増強薬>を作製して戻った。
今度は俺が<生物修復装置>に入り、コップの中の<魔力増強薬>を飲んで寝る。あれだけ熊を狩ったにも関わらず、今はこれ以上<魔力増強薬>が作れない。理由は魔力そのものが足りないからだ。
様々な物が持つ魔力を抽出して凝縮、それを<魔力増強薬>の素材の一つとしているのだが、その魔力を持つ素材が足りない為に、他の素材があっても魔力不足で作れない。もっと魔物を倒して薬の素材にするしかないな。
自分の心臓の鼓動が「ドクン!ドクン!」と五月蝿くなり、そして俺は意識を手放した。
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意識を取り戻した俺は、「開け」と言葉を発して蓋を開く。<生物修復装置>から出ると、近くの床にはバステトが居る。何をしているのかと聞くと、メチャクチャ怒られた。
『ニャニャニャ! ウニャーニャ!!』
『ああ。扉が自分で開けられないから、俺が居なきゃ出られなかった訳ね。それは、すまん。俺も魔力を増強しなきゃいけないから、飲んで休む必要があったんだよ』
『ニャオニャオニャ。ニャンニャー』
『うん? 魔法じゃなくて【魔術】が使えた? ……ヌン。バステトは魔術回路を持っていたのか?』
「いいえ。バステトの名を与えたので、私が魔術回路を付与しました。そもそも<時空の旅人>の仲間となれば、それに応じて能力は与えられます。猫の姿である以上、二足歩行でないと使い難い能力を付与しても仕方ありませんので魔術回路にしました。これなら自由ですからね」
「成る程な。確かに二足歩行でないと使い難い能力を与えられても困るだろう。それに【魔術】は自由だし、使える様になればあのゴブリンも倒しやすいだろう」
「既にイシスが使えるものは大凡使えるようになっていますよ?」
「早くない?」
「ニャ~!」
何かバステトがドヤ顔をしている気がするが、そろそろゴブリンの下へと戻ろうかと思う。その前にトイレに行き、もう一度<物品作製装置>の部屋へと行って、食事と槍の作り直しをしておいた。
強化しながら結構な数のゴブリンを倒したからな。ここは作り直しをしておかないと、戦闘中に壊れても困る。ちなみにバステトは<魚の塩焼き>を所望だった。猫が塩分を摂り過ぎると、健康を害する気がするんだが……。
「バステトは魔獣ですから多少の塩分ぐらい何の問題もありませんよ。それに猫に食べさせてはいけない物も問題ありません。旅先の惑星には人間的な生き物は居ないようですね。二足歩行はゴブリンを含めて極僅かみたいです」
「それはバステトから聞いたのか?」
「ハグッハグッ」
当の本人は美味しそうに魚の塩焼きを食ってるよ。俺はいつも通りに狼のステーキを作製し、テーブルで食べ始めたが、それと同時にヌンが話す。
「ええ。イシスが起きるまで4時間42分28秒ありましたので、その間に色々と聞いています。どうやら猪顔の二足歩行と、大きな赤い皮膚をした二足歩行の魔物が居るようです」
「それってほぼオークとオーガじゃんか。マジかー……なんかオーガが魔王っぽいなぁ。そんな感じがする」
「最初の惑星としたら、そのようなものではないですかね? 可も無く不可も無くというところですか」
「いやいや、そんな簡単に言えるほど弱い相手じゃないでしょうよ。あのオーガだぜ? 丸太みたいな棍棒で潰されるわ。しかも皮膚が鋼のように硬くて、簡単にはダメージが与えられない魔物だろ?」
「それは知りませんが、そこまで強いのかは分かりませんし、仮にそこまでの強さでも魔王一体だけなら倒せるでしょう」
「まあ、確かにそれはそうかも。一体だけならやりようはあるし、最悪は毒でも何でも使って倒せばいいだけか。それよりもオークの群れの方が厄介かもな。数が多いと大変だし」
「数の暴力というぐら「ニャー!」いですしね」
「ああ、おかわりか。まあ魚は沢山倒したから十分にある。どのみち夜になったら練習する相手だ。まだまだ獲れるだろ」
もう一つ作ってやったら、またバクバク食べてるよ。俺は食事を終えて、入念に準備をしておこう。バステトがメインで戦うとしても、危なくなったら俺が介入する。その為の準備だ。
とはいえカミナリグマと同じか、それより多少強い程度の力の筈。それなら問題なく勝てるだろう。
…
……
………
俺とバステトは今魔法陣の部屋に居る。後は魔法陣に乗って転移するだけなんだが、それ故に最後の確認中だ。
バステトにも時間が止まっている事は説明しているし、だからこそ向こうに行った途端にゴブリンとの戦闘になる事は分かっている。いきなりなので事前の準備が大切だ。
「バステト。もう一度説明しておくが、この魔法陣に乗って向こうに行くと、あのゴブリンの目の前に出る。時間というか、タイミングは集落での戦闘状況のままだ。つまりバステトがゴブリンの棍棒で吹き飛ばされた瞬間だな」
『ニャニャニャーニャ! ニャンニャー』
「それは分かってる、何度も言うなって? そうは言われても、俺がここ<時空の狭間>の<生物修復装置>に連れてこなかったら、また死んでたかもしれないんだぜ? 少しは気をつけてほしいんだがなぁ」
『ニャ!』
「本当に分かってるなら良いんだが……。それはともかくとして、あのゴブリンとの戦いで勝てそうになかったら介入するからな? 流石にまた<生物修復装置>のお世話になるのも問題だからさ」
『ニャッニャーン、ニャア!』
「そろそろ行かせろって? まあ、やる気になってるのは良い。でもそれが空回りしてもだな……ああ、分かった、分かった。そろそろ行くか」
俺は今まで使っていた魔法陣ではなく、その奥にある帰還した場所や死んだ場所に転移する為の魔法陣に乗る。バステトはやる気に満ちていて鼻息が荒いが、他の猫が勝てなかった事を考えるに何かありそうとも思っている。
俺の拙いっていうか何となくの感じでは、あのゴブリンはカミナリグマの強さしか感じない。ただ、その程度だったら猫の戦士達で勝てる筈なんだよな。にも関わらず集落は全滅に等しい。
もちろん大量のゴブリンが居たから数でやられたとも言えるんだが、それにしたってあそこまでの数の猫が攻めれば倒せた筈だ。その割には倒せてないんだよなぁ……。
何があるかは分からないから、用心するに越した事は無いし、既に他の下っ端ゴブリンは殺してある。残るはあのゴブリンだけなんだが、それが一番の難関になりそうだ。
それでも他の下っ端が居ないだけマシか。もし他のゴブリンまで居たら数の暴力も合わさって、逃げるしかないかもしれない。流石にその状況よりはマシだ。
猫の戦士達には悪いが、下っ端ゴブリンを先に殲滅しておいたのは正しい。見殺しみたいになったが、それは改めて思う。さて、バステトが「まだか?」って顔をしているので、そろそろ行こう。
俺とバステトが魔法陣の上に乗ると、景色が歪み始めた。あのゴブリン相手だ、いきなり攻撃するくらいで丁度良いだろう。




