0023・食事と情報収集と名付け
Side:イシス
『とにかくまずは落ち着け。この場所では時間が進む事は無い。いや、違うな。ここでも時間は進むが、ここは独立しているので向こうの時間が進む事は無い。なので俺達はゆっくりしていても大丈夫だ』
『ニャー。ニャニャッニャン』
『ああ、安心したら腹が減ったのか。それなら<物品作製装置>へ行って何か作るかな』
俺はそう言って、持ったままの猫を連れて<物品作製装置>のある部屋に行く。中に入ってパネルに触れると、中空にウィンドウが表示される。それを見た猫は驚いたが、俺の腕の中で身を捩っただけだった。
『さて、猫の食い物なんてサッパリ分からないが、適当に魚のフレークでいいか。この魚は確定であの魚だが、あいつの身って多分余ってるだろうしな。猫に食わせても問題ないだろう。俺はステーキにするか』
まずは<物品作製装置>の<魚のフレーク>を押し、木皿を指定して作製する。あっと言う間に出てきたそれを床に置くと、猫を下ろす。
猫は近付いてフンフン嗅いだ後、食べ物だと分かったのか一気に食べ始めた。そのあまりのガッツきっぷりに若干引くが、俺はそれを見ながら狼肉のステーキを選択。木皿を指定して作成。
あっさりと出てきたステーキを食べようと思うも、そういや面倒臭がってテーブルと椅子を作るのを忘れていた。あれだけ最初はテーブルと椅子があったのに、あれ全部<物品作製装置>の箱に突っ込んだんだよな。
そんな事を思い出しつつ、改めてテーブルと椅子を木で指定して作製。出てきたテーブルと椅子が木皿を飛ばし、俺のステーキは飛んでいった。そしてそれを食う猫。
………まあ、いいか。俺はテーブルと椅子を<物品作製装置>から少し離して置き、もう一度狼肉のステーキを押す。木皿を指定して作製したら、早速テーブルの上に置いて食べ始める。
硬めの肉ではあるものの、硬くて食えない訳ではないので食っていると、俺の狼肉を食い終わった猫がテーブルの上に乗ってきた。なので、魔力を繋いで話を聞く。
『どうかしたか? ちなみにこれは俺の分の肉だから手を出さないようにな。出したら怒るぞ』
『ニャー! ニャッナナナー、ニャニャ』
『うん? 【念話】の仕方を教えろってか。それ自体は別に良いんだが、お前さん魔力を扱う事は出来るのか?』
「フスン」
何だかバカにされたような気がするが、猫は目の前で俺の【ウィンドボール】のようなものを飛ばした。魔法陣が出現していたので、俺の【魔術】と同じではないらしい。ただ、魔力はきちんと使えている。
なので俺は魔力の紐の使い方を教えつつ、代わりに色々な事を聞いていく。あのゴブリンどもの事、何故襲われたのかという事、そして魔王を知っているかどうか。
『ニャー、ナナニャナ。ニャニャンナ、ナンナ』
『まず、あのゴブリンどもに名前は無し。っていうか、猫達は名前で呼んでなかったと。しかし<臭いヤツ>というネーミングも凄いな。それはともかくとして、あいつら何処にでも湧いてくるのか。文句無く害獣じゃねえか』
『ニャ! ウニャンニャ、ナナナ。ニャニャウニャン!』
『あいつらは食う物を求めて何でも襲う、か。そして食ったり食われたりを繰り返すだけ。犬の奴等も困ってるって言ってた? 犬の集落もあるのか。案外とそっちも襲われてたりして』
『ニャン!』
『確実か。となると、あの星ではワンニャンVSゴブリンという構図なんだな。後は魔王がどういうヤツかで変わるぞ』
『ニャオ?』
『あー、魔王っていうのは悪くて凄く強いヤツの事だ』
『ナー…………ウニャ! ニャニャンニャオ! ニャオニャオニャン!!』
『東の方にデッカくて強いゴブリンが居る? それは集落を襲ってたゴブリンよりもか?』
『ニャア!』
『あんなのじゃない、のか。という事はもっと大きくて凶暴って事だよな。まずはソイツをブッ殺しに行くしかないが、とりあえずゴブリンの集落をブッ潰してからだ。でないと安全が確保できん』
『ニャ!!』
『え? お前もついて来んの?』
『ニャア! カカカカカカッ!!』
『集落を潰したゴブリンどもを、駆逐したくてしょうがないのか。まあ、気持ちは分かるから連れてっても良いんだが……いつまでも猫とかお前さんじゃ不便だからなー。何か名前を考えた方が良いか』
『ニャン?』
『名前っていうのは、自分の事を指す言葉かな? んー、エジプト神話には有名な猫の神様が居た筈だ。何ていう名前だっけ? んー………あっ! 思い出した。天空の女神バステトだ』
「つまりお前さんの名はバステト。これからバステトと呼ぶ」
「太陽の神ラーの左眼であり、人を罰し大殺戮を行った女神ですね。後に天空の神となった女神であり、ライオンの頭部、もしくは猫の頭部を持つとされています。その猫の名前としては重すぎるのではないですか? 名前と存在が釣り合ってませんよ?」
「フシャーーーーッ!!!」
「バステトが怒ってるじゃないか、ヌン。流石にちょっと言い過ぎ………あれ? ヌンの言葉が分かってる?」
「気付いてなかったのですか? その猫は最初からイシスの言葉を理解していましたよ? 単に猫の言葉が分からないので【念話】を使う必要性があっただけです。予想以上に知能は高いと思われます」
「おいおいマジか、バステトさんよ。予想以上に知能が高いって事は、お前さん他の猫とは違うな? あの集落には黒と白と黄色と灰色の毛の猫しか居なかった。でもバステトは茶色の毛だもんな」
俺がそう言うと、バステトは自ら魔力の紐を俺に繋げてきた。言葉は分かるが、伝える事は出来ないらしい。猫の口じゃどうしたって無理だわな。
『ニャー、ニャ! ニャオニャア、ニャッニャオ』
『え? 自分は元々親と共に死に掛けていたところを、集落の猫達に助けられただけ? 何処から来たかは分からない? ……そっかー、それなら毛の色が違ってても当然かー』
『ニャニャッ! フニャニャ、ニャンニャン』
『何処から来たかとかはどうでもいい、あのゴブリンどもをブッ殺す、か。まあ、今はまだゆっくりしていて良いし、正直に言ってバステトだけじゃ勝てないだろ』
「ならば、そのバステトに<魔力増強薬>を飲ませればいいと思いますよ。その後に訓練をすれば勝てるようになるでしょう」
「ニャ!?」
「【念話】を使ってるのに聞こえてるのかよ!!」
思わずツッコんだが、バステトも顔を上下に振っているので同じ気持ちなのだろう。
「そもそも私は知性体ですよ? そんな事は貴方がたが呼吸をするかのように出来るのです。いえ、出来て当たり前の事でしかありません」
「………まあ、あれだ。理解出来ないのがヌンだと思えばいいよ」
「(コクコク)」
俺は<物品作製装置>に近付き、<魔力増強薬>を作製。木のコップを持って、<生物修復装置>のある部屋へと移動する。そして蓋を開けると中にバステトを入れ、木のコップも中に入れた。
「いいか、バステト。この蓋を閉めたら、急いでコップの中の<魔力増強薬>を飲み干すんだ。猫だから時間が掛かるかもしれないが、頑張れよ。それを飲みきって最適化されたら、爆発的に魔力が増える。それがあれば、あのゴブリンも倒せる筈だ」
「ニャ!」
俺は<生物修復装置>の透明の蓋を閉め、後はバステトに任せる事にした。飲み干すだけだし、そこまで苦労はしないだろう。
バステトが寝たら、俺は訓練場で【魔術】の練習でもするか。




