0017・山の強者
Side:イシス
他に思いついた様々な【魔術】を試してみた。例えば【ウィンドバレット】と小石の【スロー】を組み合わせたものとか、河原の水を【ウォーターバレット】として飛ばすとか、それを熱してお湯を発射するとか。
【ボイルドウォーターバレット】とでも言うべき【魔術】だったが、いちいち水を使う時点で使い勝手が悪かった。後、反対の【コールドバレット】も使い勝手は良くなかった。おそらくあんまり冷たくなかったからだろう。
それ以外にも【フロストバレット】や【フリージングバレット】など冷たさの段階を上げて使ってみたが、威力は確かにあった。とはいえ今の魔力では現実的ではなく、総合すると現時点では使えないという結論になる。
何といっても一番のネックは、温度を上げるよりも下げる方が魔力の消費が激しい事だ。コレの所為で低い温度の【魔術】は、軒並み魔力消費の激しい【魔術】になってしまう。何故なのかは分からないが、そう決まってるっぽいので諦めるしかない。
それでも使えなくはないので、【ヒートバレット】が効かない相手には使えると思う。実験は十分出来たものの、魔力が結構減ったので一旦<時空の狭間>に帰ろう。
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「お帰りなさい、イシス。新たに作った【魔術】はどうでしたか?」
「ただいま、ヌン。【ヒートバレット】以外は微妙だったと言わざるを得ないな。小石を使った【ウィンドバレット】は面倒であんまり威力が出ないし、【ウォーターバレット】はやっぱり使い勝手が悪い。【コールドバレット】は冷たさが足りないし、更に冷たくしたのは魔力消費が激しい」
「事前に考えていた通りの結果ですか」
「そうだな。試してみなきゃ分からないのは間違い無いが、概ね先に予想していた通りの結果だった。ただ、【ヒートバレット】は予想以上の結果だったよ。抉った部分が火傷になるからか、痛みでのた打ち回るのが多い。抉れる程度の相手なら高い効果があると思う」
「抉れる程度……。つまり皮膚、ないしは毛が頑丈な相手は難しいと?」
「ああ。抉ったところの肉が火傷しているから痛みにのた打ち回るのであって、表面で止まったら恐らくそこまで影響は無いだろう。そういう敵の場合は、今まで通りナイフを使って戦うよ。今までそれで勝ててるからな」
「そうですね」
俺は<物品作製装置>に獲物や草木を突っ込み、それが終わったら寝室で仮眠をとる。実験もあってそれなりに魔力を消費したので、少しでも寝て回復しておきたい。実験結果は無駄じゃなかったので良いのだが、魔力量が少ないのがどうしてもキツいな。
早めに<魔力増強薬>が欲しいが、無理な以上は少しずつでも増やしていくしかない。多少でも増えていけば、少しずつ変わっていくだろう。
…
……
………
目覚めた俺は魔法陣の部屋に行き、再び惑星へと下りる。全快状態の俺は何を思ったのか、「草木を集めるのなら上に登っても問題ないよな」と思ってしまった。いつもなら頭がおかしいのかと思うところだが、その時は何故かそう思ってしまったんだ。
そして順調に登っていきつつ草木をゲットしていると、魔力の放射に反応があり、そしてソイツは現れた。
「グルルルルルッ!!!」
それはツキノワグマぐらいの大きさの熊だった。ただし胸元には雷のマークみたいな形に白い毛が生えている。差し詰めカミナリグマというところだろうか? そんなヤツが河原に来て俺に対して唸る。
マジかと思うものの、そもそも森というか山なんだから熊ぐらい居るのが当たり前だろう。なのに俺は、あの大型犬ぐらいの狼が頂点だと勘違いしていた。あれだけの大きさの狼より、熊の方が絶対に強いに決まってる。
対峙していても明らかに狼よりも圧が上なんだよ、この熊。おそらく相当に強いんだろうが、今さら出会わなかった頃には戻れないし、俺の全力を駆使して戦うしかない。
俺と熊は対峙しつつ相手の隙を伺う。俺が槍の穂先を突きつけているからか、熊も迂闊には攻めてこない。不思議な緊張感の高まりを感じるが、俺は先手必勝とばかりに自分から攻める事にした。こいつ相手に待っても多分勝てない。
俺は【ヒートバレット】を準備し、カミナリグマの顔面に放つ。流石に熊とはいえ、この一撃を顔に受けるのは嫌がるだろう。そう思っていたのだが……。
「グルァッ!!!」
熊が咆哮を放つと、それだけで【ヒートバレット】は霧散した。何となくだが分かる。多分カミナリグマは声に魔力を乗せて放ったんだろう。その魔力で散らされたと考えるのが妥当だ。
カミナリグマが何をやったのか分かったのは良いが、それで戦闘が有利に運ぶ訳じゃない。むしろあっさりと【魔術】を潰された俺が不利なだけだ。身体能力じゃ絶対に勝てない以上、他の部分で何とかするしかない。
俺は再び【ヒートバレット】を準備し、そして片方を発射する。そう、発射したのは〝片方だけ〟だ。カミナリグマは再び咆哮で消したので、俺はその瞬間二つ目の【ヒートバレット】を目に向かって放つ。
「グルォッ!!」
カミナリグマが左手を振ると、二発目の【ヒートバレット】はあっさりと消された。
……冗談だろ? コイツに効く物なんか無いぞ。マズい、このままじゃ対抗策も無いままに殺されるしかない。
俺はゆっくりと後ずさりしつつも、必死になって考える。このまま対抗策も無しじゃ、どうにもならない。どうにかしなきゃ、殺される未来しかなくなる!。
そう考えていると、俺の右足が川に浸かってしまった。どうやら川岸まで下がってしまったらしい。しかしその時に気付く、アレなら対抗できるんじゃないかと。
俺は自分の体で隠しつつ背後に【ウォーターボール】を浮かべ、その水球を熱していく。ボコボコと沸き立ってきたら俺の頭より上に上げ、熊の顔面に目掛けて発射。
カミナリグマは先程と変わらず咆哮で吹き飛ばそうとするが、水そのものは物理的な物なので消し飛ばす事は出来ない。咆哮の威力で散らされたとはいえ、そこは水。当然のように熊の顔面に大量にヒットした。
「グルァァァァァッ!?!?!」
お湯を顔面に浴びたカミナリグマは悶えるように河原を転げ回る。沸き立っているお湯を顔面に浴びたんだ、目が火傷で潰れたかもしれないな。でも俺は容赦をする気は無い。
お前が俺を食おうとした以上、俺もお前を食う。それが自然界の掟であり、弱肉強食という事だ。
俺は目と腕に【身体強化】を使い、槍に薄く魔力を流したら一気に接近。熊の頭を全力で突き刺す。
ガキィッ!!!
「おい、マジかよ! 魔力で強化してるだろうが!!」
まさかのまさか。槍を強化しているにも関わらず、熊の頭蓋骨を貫く事は出来なかった。俺は一旦離れるものの、目が見えていないのか、熊は立ち上がってメチャクチャに腕を振り始めた。
おそらく俺が自分を殺しかけた事を理解したんだろう。最後まで諦めずに抵抗している。俺は再び目と腕に【身体強化】をし、今度は槍にかなりの魔力を流して強化。腕を振り回している熊の喉を突き刺す。
喉元だったからか、あっさりと突き刺さる槍。俺はその槍を抜き、熊に対して構える。喉元を突き刺された熊は四つん這いになって苦しみ始めるが、今度は下がった頭に対して槍で突く!。
ビキィッ!!
その穂先はかなりの抵抗があったものの、それでも熊の頭蓋骨を超えて脳に達した。俺が素早く槍を抜いて離れると、夥しい血を頭から噴出し始めるカミナリグマ。
どうやら勝ったようだな。




