0011・魔物素材の価値
Side:イシス
「お帰りなさい、イシス。何かありましたか? 表情がいつもと違いますが」
「ヌン、夜って恐いなー。ちょっとシャレにならねーわ、マジで。タヌキの魔物が出てくるのはまだいいんだが、まさか足がついてるピラニアみたいな魚が出てくるとは思わなかったわ」
「ピラニア、ですか……? イシスが恐いと言うぐらいですから、相当に獰猛な魚の事でしょうが、そもそも魚というのは恐ろしいものですよ。魔物なら尚更です」
「ああ、うん。魔物なんだよな……だからあんなに獰猛なのか分からないけど、長いヒゲというか触手みたいなのが鰭の下の方から生えててさ、それを使って陸上を移動するんだよ。遅いけど」
「成る程。陸上が安全だと思っていたら、安全では無かったという訳ですか」
「そうそう。たまたま偶然、避けられてタヌキの顔の下を突いてしまってさ、小石にぶつかって止まったんだよ。で、ヤベって思って慌てて振り上げたら、相手のタヌキも突っ込んで来るところで、ちょうど相手のジャンプもプラスされて後方に大きく飛んだんだよ」
「それで、川に落ちたと?」
「ああ。そのタヌキはすぐに陸に上がろうとしたんだけど、魚の群れに噛みつかれて最後は沈んで消えてった。マジで夜はシャレにならない。森も川も恐怖だわ。とにかく魚は一匹だけ捕まえたんで、とりあえず<物品作製装置>に入れてくる」
俺は魔法陣の部屋を出て、<物品作製装置>のある部屋へと移動する。そして<物品作製装置>の箱に杭を外した魚を放り込むと、<魔力増強薬>のレシピの一つが埋まった事が分かった。
それは<魔力脳髄浸透液>という物で、それが魚に含まれていたみたいだ。今まではレシピの中でもグレーアウトしていたんだが、あの魚には微量に含まれていたらしい。つまり<魔力増強薬>の為には、夜の川で魚をゲットしなければいけないってこった。
「マジかよ……。夜の川で魚を獲らなきゃいけないって正気か? 昼間は全く見なかったって事はだ、アイツ夜行性って事じゃねーかよ。夜中しか獲れない獲物を求めて彷徨う必要があるのかー……」
「<魔力増強薬>の為ですから仕方ありませんね。まだ足りない物がありますが、おいおい見つかるでしょう。まずはその魚を沢山手に入れる事を考えなければいけませんね。木を手に入れるのは昼間でも出来るのですし」
「まあ、そうだな。昼間に出来る事は昼間にするか。しかし同じ夜行性なのかタヌキが出てくるんだよなぁ……。アイツ、人様の獲物を奪おうとジッと待ってやがるし」
「先に倒してしまえばどうですか? 何なら石製のナイフでも使って戦えば良いと思いますよ。今はまだ動き回らないのですから、足下に何本か置いておけば良いでしょう」
「成る程。流石はヌン、頭良い。そっかそっか、先に設置しておけば持ち歩かなくても良いんだな。ついでに鉄のナイフは外して、石の短剣を身に着け……いや、牙の短剣の方が良いのか?」
「無機物よりも有機物。唯の有機物よりも魔物の素材の方が、魔力が流れやすい傾向にあります。ただし全てがそうではありませんので気をつけてください。後、魔物の素材の場合、魔力を流すと強化できる事もありますよ」
「そーゆーのは早く言おうぜ、ヌンさんさー」
「聞かれませんでしたので」
「あ、うん。そうだな……」
確かに聞かない俺が悪いわ。とにかく<物品作製装置>のパネルを起動して、さっさと作っていこう。それと鉄の槍は再度綺麗にしておいて、アイテムバッグに仕舞うか。魔物素材なら壊れても作ればいいだけだ。
まずは<物品作製装置>で石のナイフを作って床に置き、干渉して持ち上げる。川近くの小石より持ち上げやすいな? どういう事だ?。
「イシス。首を捻っていますが、どうかしましたか?」
「いや、川近くの小石より干渉しやすいんだよ。それで、何でだ? と思って」
「それは不純物が少ないからです。当然の事ですが、天然の石には石の成分以外の物も含まれていますので、それが魔力の干渉の邪魔をしているのでしょう。しかし<物品作製装置>で作った石は、ほぼ100%石の成分のみです」
「要するに、俺が干渉するのに邪魔な物が含まれてないって事か……。もしかして、代わりに干渉しやすい物が含まれていたら、天然の方が干渉しやすいって事になる?」
「ええ。当然そうなります」
「成る程なぁ。とりあえずナイフで調べた方がいいな。狼の牙とウサギの牙で作ろう。魚の素材じゃ武具は出来ないっぽい」
「おそらく耐久力に難があるのでしょう。ですので作れるのでしょうが、作る意味が無いとして、リストに出ていないのだと思われます」
「ま、役に立たないなら、表示しないでくれた方が助かるな」
俺は石製、狼の牙製、ウサギの牙製の3つを作り、魔力で干渉してみた。すると、3つの中で一番干渉しやすかったのはウサギの牙で、次が狼の牙という結果に。
ヌンが言った通り、無機物よりも有機物。唯の有機物よりも魔物の素材で間違い無い。もちろん例外があるようなので杓子定規には考えないが、今は魔物の素材と覚えておこう。
俺はウサギの牙のナイフを3本。狼の牙の槍を一本作り、<川魚の身の塩焼き>を作って食べた。特に可も無く不可も無く。淡白ながらも美味しいと感じる程度の旨味はあったようだ。十分に食料になるな。
俺は寝室に戻ってトイレに行き、その後はベッドに寝転んで一眠りする。ちょっと魔力の消費が多かったからな。寝て回復しておかなきゃ。
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一眠りして回復した俺は、魔法陣の部屋に移動して鉄の槍と鉄のナイフを置いて行く。左腰にウサギのナイフを差し、後の2本は小石の中に紛れさせる形で置いておくスタイルだ。
惑星に再び降り立った俺は、川近くの良さ気な場所にウサギの牙のナイフを置く。そして魚をどう獲るのかを思案する。
おそらくだけど、網とか使ったら大惨事になると思う。魚は【ウォーターボール】みたいな魔術っぽい何かを使ってくる。なので集団を一気に引き上げると、俺がボコボコにされて殺されるだろう。
そもそも相手を一網打尽にする魔法も無いしな。川といえば考え付くのは雷というか電気ショックなんだが……。俺の魔力量じゃ無理なんだよなー、流石に雷は桁違いに魔力が必要みたいなんだよ。
ま、出来ない事を考えても仕方ない。他の方法を見つけ……っと、後ろから何か来たな。【ライト】も使ってないっていうのに、どうやって俺を見つけたんだ? まさか魔力の放射を逆探知されたか?。
俺は後ろを振り返って【ライト】を使用。森から出てくる奴を警戒する。槍の穂先を森に向けていると、ソイツは現れた。
「フゴッ! フゴッ! ブルルルルルル……!!」
猪か! まさかコイツが夜行性だとは思わなかった。となると、俺の匂いか何かを辿ってここに来たんだな。
しかし困ったぞ。猪は突っ込んで来るが、それをどうにかするなんて今の俺には不可能だ。こうなったら早速使うか。
俺は置いていたウサギのナイフに干渉して持ち上げる。相変わらず2つ同時は大変だが、少しずつ慣れるしかないな。
それより猪は普通というか、うり坊レベルの大きさしかしていない。ただし不釣り合いな程に大きい牙を持っている。アレで串刺しにされるとかは嫌だなー。相手が小さいのが救いか。
うり坊は走ってこっちに突っ込んできたので、俺は当然ながら横にかわす。すると、うり坊も横に曲がってきた。
おいおい、冗談だろ!?。




