第7話:202X年 10月 18日(月曜日、たぶん)
第7話:202X年 10月 18日(月曜日、たぶん)
「告白」。店主が口にしたその言葉が、耳の奥でリフレインしていた。
家に戻ったぼくは、コートも脱がず、震える手で壁際の書棚にかじりついた。
地図にある「わが家」は無機質な箱に過ぎなかったが、この書棚だけは、何かがぼくを呼んでいる気がした。
杖を床に転がし、指先で背表紙を一つひとつなぞる。
文学、哲学、そしてリバプールの歴史……。
その多くが、ぼくという人間を形成していたはずの断片だ。
棚の最下段、埃を被った古い箱の中に、一束の分厚い原稿用紙を見つけた。
表紙には、今のぼくの震える文字とは違う、鋭く、自信に満ちた筆跡でタイトルが刻まれていた。
『マージー川の岸辺で、君を待つ』
その下には、作者名として「コーディー・トーマス・スチュアート」と記されている。
ページをめくると、そこには写真の彼女との出会い、共に歩いた石畳、そして、彼女が突然ぼくの前から姿を消した日のことが、血を吐くような言葉で綴られていた。
ぼくは作家だった。彼女を永遠に失わないために、文字を刻み続けていたんだ。
だが、原稿は最後の一節で途切れている。
まるで、結末を書く前にぼくの記憶が力尽きてしまったかのように。
ぼくは床に座り込み、原稿用紙の余白にこう書き込んだ。
『ぼくの病は、彼女を忘れるための罰なのか、それとも、もう一度恋をするための贈り物なのか』




