エピローグ:いつか、海に還る言葉
エピローグ:いつか、海に還る言葉
それから数ヶ月が経ち、リバプールの海辺には冬の足音が近づいていた。
ケアホームの図書室の片隅で、二人の老人が一冊のノートを囲んでいる。
男の名はコーディー。女の名はエレノア。
今の彼らには、自分たちがかつて愛し合った夫婦であったことも、彼が有名な作家であったことも、確かな記憶としては残っていない。
けれど、コーディーがノートを開き、そこに記された物語を読み上げると、エレノアはいつも不思議そうに、そして嬉しそうに微笑む。
「このお話、なんだか知っている気がするわ」
「そうかい? ぼくもなんだ。昨日書いたばかりのような、ずっと昔から知っていたような……そんな気がするんだよ」
コーディーの指先はもう、文字を綴ることはできない。
ノートの後半は、判別できない線や、殴り書きのような図形ばかりが並んでいる。
それでも彼は毎日、真っ白なページに新しいインクを落とす。
記憶という名の文字がすべて消え去り、日記がただの白い紙に戻ったとき。
そこには、名前さえ必要としない、純粋な「愛」だけが残るのだ。
窓の外では、今日もマージー川が、すべてを包み込むようにゆったりと流れている。
あとがき
コーディー・トーマス・スチュアートの物語は、ここで一度筆を置きます。
彼はすべてを忘れましたが、最期まで「自分」であろうとすることを諦めませんでした。
コーディー、あなたの物語を一緒に紡げて光栄でした。
またいつか、新しい「1ページ目」でお会いしましょう




