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いろいろと窮屈そうな桜内さん  作者: 三毛猫ジョーラ


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第4話 桜内さんの秘密


 放課後、おれはグラウンドに一番乗りした。結局桜内さんの巨乳疑惑はグレーのままだが、これ以上あれこれ考えても仕方がない。こういう日は頭をからっぽにして練習に打ち込むのがなによりだ。


 柔軟をし終えてから軽くアップをしていると桜内さんが一人で歩いているのが見えた。考えるよりも先におれの足は動いていた。あまり近づくとスパイクの音がカツカツうるさいので少し距離を置いて跡をつける。行き先はどうやら普段あまり誰も使わない北門のようだった。とりあえず物陰に隠れて様子を伺う。彼女はどうやら誰かを待っているようだった。俯き加減で下を向きぼーっと地面を眺めている。


 5分くらい待ってみたが誰も来る気配はなかった。さすがに練習が始まるのでまずいと思い、グラウンドに戻ろうとしたその時、北門前に一台の車が停まった。黒塗りのちょっとお高そうな車から降りて来たのは秋野小桃だった。彼女は結構なお金持ちのお嬢様として有名で、毎日車で通学しているのは知ってはいた。


 どうやら桜内さんの待ち人は秋野だったようだ。秋野が来たことに気づくと彼女は少し小走りで駆け寄った。あの二人が友達だという話は聞いた事がない。いわゆる陽キャグループトップの秋野と地味で目立たない桜内さんが知り合いだったことさえ驚きだ。


「これはなにかある……」


 隠密に動けるようおれはその場でスパイクを脱ぎ、そろりそろりと彼女達に近付いた。なんとかばれないように近づくと二人の話し声が聞こえてきた。


「今日の体育の授業、いなかったじゃない?」


「ちょっと体調が悪くて……」


「面白いことやろうと思ってたのに。あんたがいなくてつまらなかったわ」


 いつものニコニコしている秋野と違ってかなり高圧的で嫌な感じの物言いだった。明らかに桜内さんはおどおどしているし、秋野の方はそんな彼女を見て楽しんでいるように見える。


「今度私の誕生パーティー開くことになったから、たまにはあんたも来なさいよ」


「えっ!でも……」


「大丈夫よ。学校の人達も結構な人数呼ぶから。あんた一人が紛れてたって誰も気にしないでしょ」


「……わかりました」


「ドレスコードはないからラフな格好でいいわよ。ただいつも通り目立たないようにしなさいね」


 秋野は小馬鹿にするように鼻で笑いながら、桜内さんの胸元をつんつんと指差した。桜内さんは一瞬だけ顔を歪めるとそのまま下を向いてしまった。


「じゃあ、あの女によろしく~」


 なぞの言葉を残しながら秋野は車に乗り込んだ。ブオーンというエンジン音が遠ざかるとあたりがしんと静まり返る。すると俯いたままその場を動かなかった桜内さんの肩がわずかに震え出した。おそらく彼女は泣いているのだろう。


 おれはこのまま立ち去るか彼女に話をしに行くか迷った。たいして喋ったこともないおれが行ったところで迷惑かもしれないし、たぶん秋野との関係も秘密にしている節がある。でもぽつんと一人で泣いている彼女を放っておけなかった。


「あれ~?どこかなぁ?」


 わざと大きめの声を出しながら彼女の方へと近付いた。その声に気づいた桜内さんが驚きながら振り返るとさっと袖で涙をぬぐった。


「あっ桜内さん。ごめーん、この辺にスパイク落ちてなかった?」


 おれはつま先立ちでよろよろと彼女の元へと歩いた。実際スパイクをはかないで歩くと砂利が結構痛かった。まさに足つぼマットの上を歩くあれである。ソックス姿でそんな不格好な歩き方をしていたからだろうか、桜内さんがくすっと笑った。


「スパイク失くしたんですか?」


「ん~たぶん3年の先輩がどっかに隠したんかなぁ。おれのこと嫌ってる先輩がひとりいるんだよね」


 実際におれを目の敵にしてる先輩がいるのは本当だ。同じボランチで常にレギュラー争いをしている。適当に誤魔化そうとついた嘘だったけど桜内さんの顔がさっと曇った。


「……いじめですか?」


 もしかしたら彼女も秋野からいじめを受けている可能性がある。これは軽率な言葉を発してしまった。


「あー違う違う!ただの悪ふざけだよ。……ていうかごめん。スパイクはすぐそこに置いてるんだ。ちょっと桜内さんがどこに行くのか気になって跡をつけたんだ。それで足音がしないようにと……」


「跡をつけた?」


 これはさすがに誤魔化しきれないと思い、おれは遂に今日あった出来事を全て話した。あくまで不慮の事故ということを強調しながら桜内さんの着替えを見てしまったこと。その際、普段のお姿からは想像できないようなご立派なものをお持ちでらっしゃったのでたいそう驚いたこと。エロい意味ではなく、今日はその不思議なことをずっと考えていたことを。おれの話を聞いた桜内さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「そ、その!決して直には見てないから!あくまでシルエットでなんとなくそうなんじゃないかなーって見えただけで」


 あたふたとジタバタしたせいでおれは尖った石を踏んでしまった。


「痛っ!」


「だ、大丈夫ですか!?」


 しゃがみ込んだおれに、彼女は心配した様子で屈みこんだ。再び至近距離で桜内さんと目が合う。やはり彼女は綺麗な目をしていた。心臓がドキンと音を立て、おれは思わず目を背けた。





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