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いろいろと窮屈そうな桜内さん  作者: 三毛猫ジョーラ


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第1話 隠されていた真実(果実)


 そっと教室の扉を開けると甘い香りが漂っていた。いわゆる女子特有の()()()()()()()()()ってやつである。今は体育の授業中。2年1組の教室は女子専用の更衣室と化していた。ただ誤解しないで頂きたい。おれは決してよこしまな気持ちでここへ来たわけではない。体育館シューズをうっかり忘れてしまったからだ。それに勝手に忍び込んでる訳でもなく、クラス委員の木島さんに忘れ物をした旨を伝えてからちゃんと教室の鍵も借りてきた。


「まぁ鶴田くんなら大丈夫か。出る時ちゃんと鍵閉めてね」


 これも日頃の行いのお陰だろう。その信頼を失わないためにも、さっとシューズを取ってさっと教室を出ることにしよう。


 だが自分のロッカーを開けシューズを手にした瞬間、廊下からパタパタと誰かが走る音が聞こえた。その足音は明らかにこの教室へと向かって来ている。


「やばっ」


 何を思ったか、おれは咄嗟にロッカーの中に隠れた。それと同時に教室の扉がガラガラと音を立てた。思わず息を止めて目を閉じる。静かな教室には先程入ってきた女子の荒い息遣いが聞こえてきた。


「ハァハァハァ……早く着替えなきゃ」


 とてもか細い声。たぶん彼女は遅刻したのだろう。一限目から体育の授業という時間割はおれも物申したい。直立不動のまま出来る限り息を殺す。今後の学校生活のことを考えると勘違いされるような事態だけは絶対に避けたい。


「あれ? え? ブ、ブラがっ!」


 なにかのトラブルだろうか?彼女が慌てる様子がその物音から分かった。ほんの少しだけと自分に言い訳しながらおれは片目をうっすらと開けた。ロッカーのわずかな隙間から見える女子の後ろ姿。少しだけ見える横顔は同じクラスの桜内さんだった。体育は2クラスの合同授業だ。てっきり他のクラスの女子かと思っていたがまさか桜内さんだったとは。彼女は普段あまり喋らない方なので声だけでは分からなかった。


 すでに彼女は体操服の上だけは着ていた。だがどうやら下着の具合がおかしいらしい。両手を背中に回し必死にホックを止めようとしている。


「うぅ……きつい……はまらないぃ……」


 彼女とブラジャーの格闘はしばらく続いた。大きく息を吸って「ふんっ」とはめようとしたり、おでこに2本指を当ててなにか変な呪文を小声で唱えたり。いつしかおれは心の中で桜内さんを応援していた。


「がんばれ……もう少し……あとちょっと」


 その願いが通じたのか、彼女がほんの数秒間精神統一した後、ふんぬっと繰り出した一手がブラジャーに打ち勝った。おれにはまるで「カチリ」とホックがはまる音まで聞こえた気がした。


「やったー!」


 桜内さんが両手を挙げて喜びを爆発させた、その時だった。ブラジャーの前部分が「バチン!」という音を立てて弾け飛んだ、ように見えた。二つに分かれたブラは体操服の中ではらりと左右に落ちた。



 時がゆっくりと流れ始めた。


 窓から差し込む朝陽が桜内さんを照らし出す。


 その幻想的な光の中で、彼女の上半身のシルエットが体操服に浮かび上がった。


 うっすらと現れたその影ははちきれんばかりの勢いで体操服を押し上げている。


 それはまるで白き羽衣を身に纏った妖艶な天女の如き姿だった。



「はぁ~」という彼女の溜息でおれはハッと我に返った。がっくりと肩を落とした桜内さんは体操服の上から直接制服を着始めた。そしていつの間にか手していたブラをカバンに押し込むとそのまま教室を出て行った。



 再び教室には静寂が訪れた。おれはゆっくりとロッカーを出ると彼女がいた窓際の席をしばらく見つめていた。先程目にした光景が頭の中でループする。


 大変失礼ではあるが桜内さんはクラスの中では地味な存在だ。黒ぶち眼鏡をかけていて、長い黒髪も後ろで一つ結びとシンプルなもの。確か部活も茶道部とかだったような……。そんな彼女がまさかである。


「まさか彼女が隠れ巨乳だったとは……」


 よほど着痩せするタイプなのか。それとも普段はなにかしらで押さえ込んでいるのか。とにかく今年一、いや令和一の衝撃的な出来事だ。それくらい彼女、いや彼女の胸は目立たない存在だった。



「ちょっと鶴田くん! 何やってんの!」


 ガラッと扉を開けて入って来たのは木島さんだった。どうやらおれがあまりも遅いもんだから見に来たようだ。


「ごめん! すぐ行く!」


 おれはすばやくシューズを手に取ると教室を出て鍵を閉めた。そんなおれを木島さんが怪訝な表情で見ていた。


「なんか変な事してたんじゃないでしょうね?」


「違う違う! ちょっとロッカーの鍵が見つからなくて」


 苦しい言い訳だが仕方がない。多少信頼を失うかもしれないが、それはまた取り戻せばいい。まだ何か言いたそうな木島さんを促しながらおれは体育館へと走った。



 体育館へ着くと男女混合のバレーの試合が和気あいあいと行われていた。バレー部の木島さんは着いて早々コートの中に入って行った。一方おれはコートの横で応援しているみんなの後ろへしれっと座り込んだ。


 たまに交代で試合に参加しながらもおれは桜内さんのことが気になってしょうがなかった。ちらちらと何度も体育館の入り口に目が行ってしまう。



 しかし無情に鳴り響くチャイムの音。結局桜内さんは体育館には現れなかった。


 


第1話を読んで頂き誠にありがとうございます。

あまりひねらずストレートに書いていく予定です。

続きが気になる、桜内さんが気になる、という方は是非☆評価の方よろしくお願いします。

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