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アクスタくんと"信じる理由"

【お知らせ】

活動報告も不定期で更新しています。

お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!

 大学に入って間もない頃、私は人生で初めての失恋を経験した。

 高校時代からずっと片思いしていた人が、同じ大学に進学していた。ずっと伝えられずにいた想いを、思い切って伝えた。けれど——結果は、ダメだった。

 何をしていてもふと相手を思い出しては、一人で涙を流していた。気が付けば、失恋ソングばかり聞き漁る日々。アイドル、女性アーティスト、男性ボーカル、ボカロにアニソン……ジャンルなんてどうでも良くて、ただ自分の心を代弁してくれるような歌を探していた。


 けれど、自分の気持ちにぴったり寄り添ってくれるような曲には、なかなか出会えなかった。


——あの曲に出会うまでは。


『Priyaviyoga』——カルマが作詞作曲を手掛けた一曲だ。英語でもない、聞きなれない言葉のタイトルが気になって、私はすぐに意味を調べた。どうやら仏教用語で「愛別離苦」、愛する人との別れを意味するらしい。

 この曲は、終わった恋にしがみつく人間の未練や醜さを、痛いほど丁寧に描いていた。「愛する人との別れは、この世で最も辛い苦しみだ」というメッセージまでもが、私の弱さを肯定してくれるようで。惨めな自分を許してくれるようで。

——どうして、この人はそんなにわかってしまうの?

 まるで、私の中にある負の感情全てを、否定せずに受け止めてくれるみたいだった。


 それからの私は、MANDALAの曲を貪るように聴いた。SNSやインタビューを漁り、知らないことは全部調べた。

 だけど、そこで知ったのは、絶望だった。私がMANDALAを知った頃にはもう、解散が発表されていたのだ。そればかりか、ネットにはカルマに対する罵詈雑言が溢れていた。


 ——それでも私は、ラストライブに行った。最初で最後の、MANDALAのライブ。

 鳴り響くメロディー。心臓を打つようなビート。きらびやかな衣装のメンバーたちがステージを駆け抜ける。

 でも、そんな中でもカルマはひときわ輝いて見えた。音にも、演奏にも、言葉にも——全てに魂がこもっていた。「あの曲を書いたのはこの人なんだ」、そう思った瞬間、私は確信していた。

 ——この人は、ホンモノだ。


 ラストライブが終わった後、私はしばらく喪失感に呑まれた。

 それでも、カルマがソロでライブを続けていると知ってからは、また足を運ぶようになった。かつての煌びやかさはない。メンバーもいない。ギター一本の、小さなステージ。だけど、彼はそこで、まだ音を鳴らし続けていた。どこか影を纏いながらも、必死にステージに立ち続けていた。


 ある日から、終演後に特典会が始まった。チェキを5枚買うごとに、私物サインかツーショチェキが選べるらしい。私は迷わず、ツーショを選んだ。たった1枚分、なけなしのお金で。

 いざ本番。緊張で頭が真っ白になって、うまく話せなかった。カルマも少しぎこちなくて、二人して固まったまま写真を撮った。

 それでも最後に、彼は真っ直ぐな目で言った。


「今日は来てくれてありがとな。俺はまだ”伝えたいこと”がある限り、ずっと“ここ”にいるから——また来て欲しい」


 その言葉は今でも、心の中にはっきり残っている。


 この人は「落ちたバンドマン」なのかも知れない。だけど、音楽に懸ける想いは、まだそこにあった。誰に笑われても、誰に叩かれても、それでも音を鳴らし続ける——その姿が、私にはとても眩しく見えた。



 アクスタくんの前で、私はそこまで話してから、続けた。

「私だって、ネットで酷い言葉を見たら、何を信じればいいか分からなくなるよ。何が真実で、何が嘘かなんて……簡単に見極められるものじゃない。

 それでも私は、カルマの『才能』と『努力と結果』、そして『私自身』だけは、信じられると思ってる」

 ——『才能』。

 カルマには確かな才能がある。美しい音楽を、いつも届けてくれる。

 ——『努力と結果』。

 拘りが強い彼は、いつでも1曲1曲に魂を込めてる。そしてその”結果”として、生まれた音楽は”曲”という形で、永遠に残る。

 ——そして。

「……『お前自身』って何だよ」

アクスタくんが、不思議そうに私を見つめてきた。

 私は一呼吸置いて、そっと答えた。

「それは、”カルマを信じたいと思ってる私自身”のこと。ネットでいろんな噂を見て、何が本当か分からなくなった時は、一旦全部疑うようにしてる。

 でもね、それでも——『あの曲に救われた』っていう気持ちと、『今もカルマを信じたいと思ってる自分』だけは、どうしても嘘をつけないの」

そう言って、私は近くに置いていたスマホにそっと手を伸ばす。ケースの裏に、あの日のツーショチェキが挟まっていた。——これは、私がカルマを信じるためのお守り。私だけの、たったひとつの証。


「……お前にしては、クサいこと言うじゃねーか」

アクスタくんがふっと呟く。

 そっぽを向いた顔のまま、でも視線だけは確かに、スマホの中のチェキに向けられていた。

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