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アクスタくんと今の"俺"-2

 MANDALAは、かつて4人組のロックバンドだった。

 音だけではなく、派手な衣装や佇まいにも”世界観”を込める——そんなバンドだった。


 圧倒的な歌唱力を持つカリスマボーカル・リンネ。男らしい立ち姿でバンドを率いたギタリスト・カルマ。カルマの同級生で、どこか天然な雰囲気をまとったベーシスト・インガ。金髪ロングに女性ものの衣装を好む中性的な美貌のドラマー・セツナは、その見た目から想像できないほどパワフルな演奏で観客を圧倒した。

作詞作曲は主にリンネとカルマが担当していたが、ファンの大半はリンネのファンであった。


 彼らは決して”売れていた“バンドではなかった。けれど、地道に全国のライブハウスを巡り、少しずつ、けれど確実に動員を増やしていた。目指していたのは、武道館だった。


 そんな中、突然の発表があった。

 カルマが、ソロアーティストとして活動を始めるというのだ。


 理由は「表現の幅を広げたい」という前向きなものだった。

 ある時はギターインストの音源を出し、またある時はギターボーカルとして新曲を書き下ろす。バンドの活動として並行して行う予定だった。実際、本人もそう言っていた。


 だが、徐々にソロ活動の比重が大きくなっていった。

 いつしか「リンネとセツナはカルマのソロ活動に消極的らしい」という噂まで流れ始め、バンドのライブは減っていった。


 カルマは、とにかく音にうるさい人だった。曲作りも、歌詞も、細かい部分まで徹底的に拘っていた。

 それでも——リンネほどの”華”は無かった。

 ギター一本でも”形”にはなってるし、歌も決して下手ではない。だけど、どこか色味が薄いと評されることが、少なくなかった。


 それでもカルマは「始めたからには」と言って、ソロから引かなかった。

バンドとソロの両方を試みたが、バンドでのライブの本数は減り、他メンバーのファンの間では、不満が徐々に募っていった。やがて、“バンド内不仲説”が囁かれるようになった。


 そして昨年5月。「方向性の違い」という曖昧な言葉と共に、MANDALAは解散した。


 メンバーたちのその後は、様々だ。

 リンネはすぐに新しいバンドを立ち上げ、今やリーダーとして第一線を走っている。インガはそこそこ名の知れたバンドでサポートベーシストを務めながらも、独自の存在感を放っている。セツナはドラム教室を開き、たまにサポートとしてステージに立つこともあるが、今は表舞台よりも”育てる側”に軸足を置いているようだ。


 ——ただ一人、カルマだけは違った。


 解散が発表された直後、SNSには「リーダーのくせにバンドを壊した」という批判の声が溢れた。

 ラストライブでは、彼の動員が目に見えて減っていたという。

 それでも彼は、ステージに立ち続けていた。一度ソロデビューしてしまった以上、後戻りはできなかったのだろう。

 叩かれ、嘲られながらも、今もなお。小さなライブハウスで、静かに、音を鳴らしている。



 ——そこまで話して、私は口を閉じた。

 アクスタくんは黙って、私の顔をじっと見ていた。小さな身体を真っ直ぐにして、真剣な表情で。


 暫くの沈黙の後、彼がぽつりと呟く。


「……で、なんでお前はそれでも”俺”を信じてんの?」


私はアクスタくんの頭をそっと撫で、少しだけ笑った。


「それはね——」


 きっと、次に語る言葉の中に答えはある。

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