アクスタくんと今の"俺"-1
夕飯を済ませた後、私はベッドに寝転がって、今日買ってきたばかりの音楽雑誌をめくっていた。
そこまで有名な雑誌じゃないけど、最近よく読むようになった。特にお目当ての人が載ってない月でも、何となく手に取ってしまう。
「……あっ」
ページをめくっていた手が止まった。
「ん、どうした?」
横で座っていたアクスタくんがピクリと動く。
「見て!カルマが載ってる!」
そこには、今の彼の姿とインタビューが、見開きで大きく載っていた。
「マジかよ!俺にも見せろ!!」
アクスタくんは興奮した様子で雑誌を覗き込む。
「うお!これが今の俺か!!今でもこの髪型続けてるんだな」
目を輝かせて、自分の写真をじっと見つめるアクスタくん。
そうか、彼は10年前の姿をしている——つまり、記憶もその頃のままなんだ。
「やっぱ俺、かっこいいな!しかもどこか貫禄あるし」
ニヤニヤしながら記事を読み進めるその姿は、未来の自分を見てはしゃぐ子供のようで、ちょっと微笑ましい。
でも——。
「……なあ」
不意に、アクスタくんの声のトーンが下がった。
「今の俺の衣装、なんか……ちょっと安っぽくなってないか?」
「え?」
アクスタくんは「ほら」と言って、自分のじゃらじゃらした衣装を私に見せる。
言われてみれば確かに、今のカルマの衣装は少し地味だ。
刺繍も少なければ、光沢も控えめで、どこか落ち着きすぎている。アクスタくんの衣装が“かつての派手さ”を象徴しているとしたら、今のそれは、無理のない範囲で整えたような、節制を感じるシンプルさだった。
私が黙って誌面を見つめていると、アクスタくんの指先がある見出しの上で止まった。
《ソロギタリスト・カルマ徹底取材!―MANDALA解散の"その後"》
「……ソロ? バンドは……?」
部屋の空気が一瞬で冷たくなった。
「……解散って、なんだよ……」
声がかすれる。小さな手が、誌面の上で止まったまま動かない。
「MANDALAは……?リンネは?インガは?セツナは……」
一つひとつ名前を呟くたび、言葉が震えていく。
「なんで俺、一人なんだよ……」
ぽつりと落とされた言葉が、部屋の中に響いた。
「俺たち……本当に……解散したのか?」
そして、急に顔を上げる。
「俺たちに……何があったんだよ!!なあ、おいっ!!」
小さな体で、必死に問い詰めてくる。
見上げるその目が、痛いほど真っすぐで——壊れそうだった。
「なあ、教えてくれよ。……”今の俺”を」
「……もちろん」
私は雑誌をそっと閉じ、アクスタくんに向かい合う。
そして、彼に”今のカルマ”を——静かに語り始めた。
【次回予告】
「アクスタくんと今の"俺"-2」
沙百合の口から語られる、"今"の真実。
バンドの解散。ソロ活動の低迷。
沙百合の口から語られる"あの人の現実"は、10年前のままのアクスタくんに、どんな衝撃を与えるのか。
二人にとって、静かで重たい時間が流れ始める。
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