表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/30

アクスタくんは喋らない

【お知らせ】

活動報告も不定期で更新しています。

お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!

 今日もまた、何となく生き延びた。


 大学では誰とも喋らず、常にヘッドホンを装着して周りの雑音をシャットアウト。講義中は教室の端に座り、真面目にレジュメを読んでるフリをしながら、こっそりネットサーフィン。帰りは近所のスーパーで半額のお惣菜を買って、寮の自室に戻る。


 私の名前は出雲(いずも) 沙百合(さゆり)。都内で一人暮らしをしている大学生だ。サークルもバイトもせず漠然と生活しているせいで、友達も少ない。都会の喧騒に混ざっていても、孤独だけは手放せない。


 そんな私の唯一の癒しは、机の上にちょこんと置かれたアクリルスタンド。


 黒と紫を基調にしたド派手な衣装に、じゃらじゃらと装飾が揺れるロックな装い。だけどよく見ると、細かな刺繍や布地にはインドやチベットを思わせる模様が散りばめられていて、どこか神秘的で洗練されている。

 爪には深い紫のマニキュア、手首には数珠のようなブレスレット。

髪は逆立つようなシャギーウルフで、紺から紫にかけてのグラデーションがかかっている。毛先は棘のように跳ね、肩には細長い三つ編みのエクステが何本も垂れている。色はもちろん、美しい紫。

 キリッとしたツリ目からは、アクリル越しでも刺さるような視線を感じる。まるでこちらの感情を見透かすように、真っ直ぐ見つめてくる――


 ——そう、彼は私が大好きなギタリスト・カルマのアクスタだ。

 しかもこれは、十年前の若い頃のビジュアル。私がリアルタイムで知らなかった時代の彼。フリマアプリでたまたま見つけ、一目惚れして迷わず「購入」ボタンを押した。



「ただいま」


 私はアクスタを手に取り、そっと頭を撫でる。当然、返事はない。それでも”彼”は、いつも変わらぬ笑顔で、無言のまま私を見つめてくれる。


 この部屋には、誰もいない。でも、ここには”彼”がいる。そう思えば、孤独も少しだけ薄れる気がする。



「おやすみ」


 寝る前にも声をかけ、アクスタに触れる。それだけで心がほぐれていく。もちろん返事はない。けれど、本音を言えば……。

 もしもこのアクスタが喋ってくれたら。魂を宿して、私の言葉に答えてくれたなら。

 そんな想像をしてしまう自分がいる。まるで付喪神に縋るみたいに。


 ——くだらない。そんなこと考えてないで、早く寝なきゃ。明日は苦手な英語の授業だ。めんどくさい。


 そう思いながら布団に潜り込む。

 まさか翌朝、あんなことが起こるなんて——この時の私は想像すらしていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これからの展開がドキドキです。 応援してます!
面白かったです!ブクマ、星評価させていただきました!これからも応援してます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ