アクスタくんは喋らない
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今日もまた、何となく生き延びた。
大学では誰とも喋らず、常にヘッドホンを装着して周りの雑音をシャットアウト。講義中は教室の端に座り、真面目にレジュメを読んでるフリをしながら、こっそりネットサーフィン。帰りは近所のスーパーで半額のお惣菜を買って、寮の自室に戻る。
私の名前は出雲 沙百合。都内で一人暮らしをしている大学生だ。サークルもバイトもせず漠然と生活しているせいで、友達も少ない。都会の喧騒に混ざっていても、孤独だけは手放せない。
そんな私の唯一の癒しは、机の上にちょこんと置かれたアクリルスタンド。
黒と紫を基調にしたド派手な衣装に、じゃらじゃらと装飾が揺れるロックな装い。だけどよく見ると、細かな刺繍や布地にはインドやチベットを思わせる模様が散りばめられていて、どこか神秘的で洗練されている。
爪には深い紫のマニキュア、手首には数珠のようなブレスレット。
髪は逆立つようなシャギーウルフで、紺から紫にかけてのグラデーションがかかっている。毛先は棘のように跳ね、肩には細長い三つ編みのエクステが何本も垂れている。色はもちろん、美しい紫。
キリッとしたツリ目からは、アクリル越しでも刺さるような視線を感じる。まるでこちらの感情を見透かすように、真っ直ぐ見つめてくる――
——そう、彼は私が大好きなギタリスト・カルマのアクスタだ。
しかもこれは、十年前の若い頃のビジュアル。私がリアルタイムで知らなかった時代の彼。フリマアプリでたまたま見つけ、一目惚れして迷わず「購入」ボタンを押した。
「ただいま」
私はアクスタを手に取り、そっと頭を撫でる。当然、返事はない。それでも”彼”は、いつも変わらぬ笑顔で、無言のまま私を見つめてくれる。
この部屋には、誰もいない。でも、ここには”彼”がいる。そう思えば、孤独も少しだけ薄れる気がする。
「おやすみ」
寝る前にも声をかけ、アクスタに触れる。それだけで心がほぐれていく。もちろん返事はない。けれど、本音を言えば……。
もしもこのアクスタが喋ってくれたら。魂を宿して、私の言葉に答えてくれたなら。
そんな想像をしてしまう自分がいる。まるで付喪神に縋るみたいに。
——くだらない。そんなこと考えてないで、早く寝なきゃ。明日は苦手な英語の授業だ。めんどくさい。
そう思いながら布団に潜り込む。
まさか翌朝、あんなことが起こるなんて——この時の私は想像すらしていなかった。




