アクスタくんとイメチェン
【お知らせ】
活動報告も不定期で更新しています。
小説の解説も行っているので、お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!
☆12/26 活動報告更新しました!
最近、髪が伸びた。
朝、洗面所で顔を上げたとき、毛先が視界に入る。邪魔というほどでもないのに、いつもの位置より少し下にあるだけで、妙に気になる。何かがずれたみたいで、落ち着かない。
大学に行くと、髪を染めている人ばかりだ。明るい茶髪に、金髪に……ピンクも居たっけ。入学したての頃は暗い髪の子が多かったのに、いつの間にかそれが“少数派”になっていた。
……私は相変わらず黒髪のまま、質素なポニーテール。
小学生の頃から、ずっとこの髪型だ。結び癖のついた毛先も、鏡に映るシルエットも、全部見慣れている。
「……芋だな」
思わず口に出た。
「確かに芋だな」
アクスタくんが言う。……アクスタくんもそう思ってたんだ。
「別に悪くはねーけどさ」
「……」
別に、悪くはない。けれど、良くもない。
何でみんな、大学に入った瞬間、髪を染めるんだろう。まるで、都会に染まるかのように、何であんな軽々と見た目を変えられるのだろう。
私は、染めたい気持ちが無い訳ではない。でも、染めるにはお金がかかる。染めた後も、手入れが必要になるから、出費が痛くなる。みんな、どこからそんなお金が出ているんだろう。
それに——。
「伸ばせば良いじゃん」
アクスタくんは簡単に言う。
「お前、いつもその髪型ばっかだし。切らなきゃ良いだけだろ」
「……それが出来たら苦労しない」
私は椅子に座って、髪を指に絡めた。
子供の頃、髪が伸びると、家族が勝手に美容院を予約した。
「長いのはだらしないから」、「短い方が可愛いから」——そう言われて、私は従うだけだった。
学校から帰ってきたら、いきなり「明日、美容院予約しといたから」と告げられる。2か月に1度、必ず「2センチ切ってください」と言わなければいけない。短くて、扱いやすくて、家族が”納得する形”にしないといけない。少しでも長いと、「もう少し切れば良かったのに」と言われる。
それが、高校生まで当たり前だった。
だから、一人暮らしを始めて“自由”になった今でも、なぜか髪が少しでも伸びるとそわそわする。誰にも、何も言われていないのに、なぜか美容院を予約してしまう。
気が付けば“家族の感覚”が、“私の基準”として植え付けられていた。
「……馬鹿みたい」
「馬鹿って言うか、癖だな」
アクスタくんは肩をすくめた。
自分の姿を見る度に、ライブのことを思い出す。会場には、お洒落なファンがたくさん居る。垢抜けた服に、凝った髪型。自分より可愛くて、自分より堂々としている人たち。
その中で、いつも同じ髪型で地味な見た目の自分が、酷く取り残されたみたいに感じる。
「あーあ。髪、伸ばしたいな」
気付いたら、そう零していた。
「……へえ?」
アクスタくんが、ピクリと反応する。
「じゃあ、どうすんだ」
私は少し考えてから、スマホで三つ編みのやり方を検索した。
手つきはぎこちないけど、見よう見真似で編んで、なんとか形にした。左右で太さが違って、綺麗とは言えない。それでも、“いつもの髪型”とは全然違った。
鏡の中の私は、少しだけ別人に見えた。
「おい、その髪型って……」
そう、カルマのエクステと同じ三つ編み。彼を真似して三つ編みにするファンはたくさん居るため、私も前から少しだけ憧れていた。
「……いるよな、こういう奴。推しに影響されるタイプ」
「別に良いじゃん」
いざ、三つ編みにしてみると、彼に少しだけ近付けたような気がした。でも、今日はそれだけじゃない。
“切らない”という選択。伸ばすと言うより、“今は何もしない”という選択。それを、自分で決めた。
「変じゃない?」
「別に」
アクスタくんは即答した。
「少なくとも、前よりはマシだな」
私はもう一度鏡を見た。左右で歪な三つ編み。完璧じゃないし、可愛くもない。でもさっきよりは、ちゃんと”自分で選んだ”髪型だった。
それだけで、今日は十分だと思った。
【次回予告】
沙百合が鞠の推しのライブに同行します。




