アクスタくんと弾いてみた動画-2
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小説の解説も行っているので、お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!
動画を開いた瞬間、安っぽいスタジオの白い壁が映った。そこに、カルマはギターを抱えて椅子に腰掛けていた。
ステージ衣装ではなく、地味な普段着。メイクもしていなくて、ほんの少し寝不足のような顔。いつも自宅から配信する時と同じ姿だった。
それは、ステージで見る“キラキラした姿”とは一転した、“生活している人間の姿”だった。
カルマは何も喋らず、じっとギターを見つめて構える。
次の瞬間、音が溢れた。——彼のインスト曲だ。
アクスタくんも、音に釣られてスマホを覗き込んで来た。
疾走感のあるテンポで、メタルチックなフレーズ。いつも通り、めちゃくちゃ上手い。超絶技巧もさらっとこなしていて、目にも止まらない手の動きまでもが、どこか芸術的に見える。
そして何より——
「音質、良いなぁ」
思わずそう零した。
スマホとは思えないほど、音がクリアだった。まるで、目の前でカルマが演奏しているように感じるぐらい、立体感のある音だった。
「当たり前だろ」
アクスタくんは、少し得意気に言う。
「“俺”がどんだけ音にうるさいか、お前も知ってるだろ?」
そして、ふっと視線をカルマの手元に向けた。
「それとな。——指、よく見ろ」
「……指?」
私は言われるままカルマの指を凝視する。
「皮膚、固くなってるだろ。マニキュアも剥げてる。……何回も弾いた痕だ」
確かに、カルマの指はところどころ白くなっている。それがギターの弦で擦れて生まれた痕だと、言われて初めて分かった。
——これが、“努力の痕”なのか。
動画が終わると、私はそのままカルマのチャンネルを開いた。他にも、弾いてみた動画が幾つも並んでいる。
彼のソロ曲。MANDALA時代の曲。たまに、一昔前の、私の知らないロックバンドの曲もある。
そして何より気になったのが——彼のギターだった。いつも使っている紫のギターに、黒いギターに、青いギター。カルマは、曲ごとにちゃんと持ち替えていた。
「……ギター多っ」
思わず呟くと、アクスタくんが鼻で笑った。
「買いすぎだよな。金ねえのに」
「でも、ちゃんと使い分けてるんだね」
「そりゃそうだ。音が違うんだよ。……“俺”は拘りの塊だからな」
私は、今度はMANDALA時代の曲のカバーを再生した。
画面の中のカルマは、相変わらず真剣な表情で弾いている。でも、間奏で手が止まるほんの一瞬だけ、ふっと表情が緩んだ。音の切れ目の、その一瞬。そこにだけ、“素”が滲む。
——私は、その瞬間が好きだった。
曲の最後、カルマは少しだけこちらを見てから音を切った。編集が素人なのか、動画はぶつ切りで終わった。けれど不思議と、その雑さも彼らしい気がした。
「……ん?」
スクロールして概要欄を見ると、こんな文章が書かれていた。
《MANDALA時代の曲は全部、俺の大事な思い出。
全ての曲に“思い”を込めて作ったから、その“思い”を少しでも汲み取って貰えたら嬉しい。》
短いけれど、思いの籠ったメッセージ。そして、その下には丁寧に歌詞まで載せてある。
何万人に向けた文章じゃない。多分、数百人が読むかどうかの文章。それでも、手を抜かずに書いている。
コメント欄は少なくて、高評価も多くない。でも、それも含めて——カルマらしいと思った。
「……ねえアクスタくん」
「何だ」
「カルマって、ずっとこうやって生きてるの?」
少し間を置いて、アクスタくんは答えた。
「……ああ。そうだよ」
その一言が、妙に腑に落ちた。
派手なステージの裏で、誰に褒められなくても、黙々と音を磨き続ける人。音を、決して手放さない人。
——やっぱり、凄い人なんだな。
私は小さく息を吸って、そっと高評価ボタンを押した。




