アクスタくんと弾いてみた動画-1
【お知らせ】
活動報告も不定期で更新しています。
小説の解説も行っているので、お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!
——「……こういう奴は、大事にしろよ」
弥生との通話が終わった直後にアクスタくんが放った一言が、妙に私の頭から離れなかった。
私は「……うん」と答えたけれど、それでも胸のどこかがざわついている気がした。
ベッドに倒れ込むと、ぽつぽつと3人の顔が浮かんだ。
まずは、対馬くん。
一度は失恋したけど、今でも友達で居てくれる。毎週授業で会っても、あの頃と変わらない声で話しかけてくれる。
それなのに、彼を見る度——“好き”の残骸みたいなものが胸の奥でまだ軋む。
あの時の痛みは、きっと一生抱えて生きていくのだと思う。
次に、鞠。
鞠は他人を振り回すし、空気が読めないし、遅刻も多い。それでもいつも明るくて、私をご飯に誘ってくれるし、彼女との推し語りの楽しさはホンモノ。
……だけど、ふとした瞬間に疑ってしまう自分がいる。あの「ふふ」という笑いに、自分の黒さが照らされる気がして苦しくなる。
でも、“矛盾”を抱えたまま生きていくのが人間なのかも知れない。
そして、弥生。
弥生は私の一番の“親友”。彼女も彼女なりの生き辛さを抱えているけれど、それでも“得意なもの”を武器に生きようとしている。私はそんな弥生が大好きで、アクスタくんの言う通り、絶対に大事にしたいと思っている。
だけど——。
私が“普通に大学へ行って、普通に生きている”ことが、彼女を苦しめていないか。家族に反対されるたびに、彼女の弱さごと抱えていく覚悟が揺らぎそうになる。
それでも私は弥生を信じたい。だからこそ、弥生を大事にしたい“私自身”を、ちゃんと持っていなければいけない。
——3人とも、大切な“友達”だ。けれど、全員が完璧なわけじゃない。全員が、私を完璧に満たしてくれるわけでもない。
だから私は、それぞれの痛みごと抱えて、生きていくしかない。……そう分かってるのに、胸のどこかがぽっかり空いている気がする。
「……欲張り、なのかな」
声に出してみると、思っていた以上にしっくり来た。
布団の上でごろんと仰向けになり、天井をぼんやりと見上げる。久しぶりに、何もしない時間が流れた。
……そういえば最近、曲聴いてないな。
授業に、課題にバイトに——毎日の騒がしさに押されて、気付けば“あの人”の音から遠のいていた。
「カルマ、今どうしてんだろ」
スマホを手に取り、SNSを開く。更新は相変わらず少ない。でも、それがまた“彼らしい”気がして、妙に安心する。
カルマは——叩かれても、笑われても、それでもステージに立ち続ける。いつでも、私たちに夢を見せようとしてくれる。その姿だけで、日常がほんの少し明るくなる。
“推し”は、身近な人と違って、綺麗なところだけを見せてくれる存在だ。だからこそ、好きになったら中々抜け出せない。
……アクスタくんは「”推し”を誰かの代わりにするな」と言うけれど、こう思ってしまうあたり、私はやっぱり、カルマに依存しているのかもしれない。
「……ん?」
画面をスクロールした時、カルマの新しい投稿が目に入った。
《動画上げました。良かったら見て欲しい。》
あまりにも素っ気ない文章なのに、心臓が跳ねた。
載せられたリンクには、「弾いてみた」と書かれている。
「弾いてみた……?」
私は迷わず画面をタップした。
【次回予告】
「アクスタくんと弾いてみた動画-2」
ふとした夜、久しぶりに触れた“あの人”の音。
ステージとは違う場所で鳴る、ギターの音色。
言葉はなくても、確かに伝わってくるものがあった。
——その音は、画面越しでもずっと近くに感じた。




