アクスタくんと親友-2
【お知らせ】
活動報告も不定期で更新しています。
小説の解説も行っているので、お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!
「ねえ、沙百合。今日ね、漫画のプロット考えてたんだ」
「プロット?」
「うん。あの吸血鬼のキャラが主人公なの。なんか、あの子は……ちょっと切ない話が似合いそうだなって思って」
弥生は生き生きと漫画の話を続ける。
弥生は、昔からこうだ。自分の事はあまり語らないのに、創作の話になると妙に饒舌になる。
「楽しそうだね」
そう返すと、弥生は照れ臭そうに「えへへ」と笑った。
「楽しいよ。描いてる時間が一番好き。嫌な事があっても、絵だけはね……いつでも描きたくなるんだ。不思議だよね」
その言葉を聞いた瞬間——ふと、記憶の片隅から刺すような声が蘇った。
——「弥生ちゃんとは、もう距離置きなさい」
——「学校も行ってない子と仲良くしてどうするの」
弥生が高校を辞めてから、親が繰り返すようになった言葉。私が大学に進学してからも、実家に帰る度に言われる。“沙百合の為を思って”というくだらない名目で、平気で弥生を切り捨てようとする。
……何も知らないくせに。弥生がどれだけ頑張ってるかも、どれだけ踏ん張ってるかも、何も知らないくせに。
しかし、私は一度も反論できなかった。親に反論するのが怖くて。もし反論したら、弥生の“弱さ”を肯定してしまう気がして。
でも黙っていると、弥生を見捨てるみたいで——どうしたら良かったのか、今でも分からない。
「もしもし、沙百合?」
弥生の呼ぶ声がして、はっとした。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してただけ」
「ふふ、やっぱり沙百合らしいね。その感じ、全然変わらないなあ」
そんな風に笑う弥生の声は、やはり昔と同じで優しかった。
「……なあ」
突然、アクスタくんがぼそりと言った。
「お前さ、弥生のこと……“可哀想だから”気にしてるんじゃねえよな」
「……え?」
「お前が弥生を信じてる理由ってのは……弥生が弱いからとか、そういうのじゃねえ。——お前が、“弥生を信じたい”って思ってるからだよ」
私は言葉を失った。
「信じるってのはよ」
アクスタくんは淡々と続ける。
「相手がどうとかじゃなくて、“自分がどうありたいか”の問題だろ?“俺”の時と同じで、“弥生の事を信じたいお前”で居たいんだろ?」
……そうだ。
私は惰性で弥生と繋がっている訳ではない。可哀想だから大事にしている訳でもない。まして、罪悪感からでもない。
ただ私は——弥生を信じたい。それだけなんだ。
ずっと……ずっと、それだけだった。
「ねえ沙百合」
「また絵描いたら送るね。次はね、この吸血鬼のお話を描くから」
「……楽しみにしてる」
「沙百合の話も、また聞かせてね。私、沙百合と話すの大好きだよ。……だって、私の友達は、沙百合しか居ないから」
弥生の声は静かであったが、その言葉は強く耳の奥に響いた。
——ああ、そうか。
私が弥生を信じたいように、弥生もまた私を必要としてくれているのかも知れない。
その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
*
通話が終わって、静かな部屋に戻った。スマホの画面を消した瞬間、アクスタくんがぽつりと言った。
「……こういう奴は、大事にしろよ」
「……うん」
アクスタくんの眼差しは、いつになく優しかった。
【次回予告(仮)】
「アクスタくんと弾いてみた動画-1」
最近沙百合の身の回りの話ばかりでカルマの存在感が薄くなってしまったので、そろそろ彼を登場させようと思います。




