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アクスタくんと親友-1

【お知らせ】

活動報告も不定期で更新しています。

小説の解説も行っているので、お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!

 夜、私は課題を終えてベッドに腰をかけたところで、突然スマホが震えた。

 画面を開くと、一件のメッセージが届いていた。


《新しいキャラ描けた!見て!》


 ——弥生(やよい)だ。


 添付された画像を開いた瞬間、息を呑んだ。

 細い筆で描かれたような繊細なタッチなのに、刃物のように鋭い牙がキラリと光る、吸血鬼の青年。青白い肌には淡い傷跡があり、訝しげな表情をしている。狂気じみた瞳にはなぜか哀愁が漂っていて——見ていると、こっちも引き込まれそうになる佇まいだ。


「……上手いな……」

思わず声を漏らすと、アクスタくんが肩の上からひょいと覗き込む。

「これ、誰が描いたんだ?お前よりよっぽど上手いじゃねえか」

「地元に住んでる友達。弥生って子なんだけど、ずっと絵描いててさ」


 弥生の絵は、昔からどこか“生き物”みたいだった。

 最近はSNSで漫画を投稿していて、フォロワーも少しずつ増えている。——多分、本気でその道を目指してる。


 弥生の絵を見たら、急に彼女の声が聞きたくなった。

 私が、通話ボタンを押すと、すぐに声が聞こえた。ワンコールで繋がるのは、相変わらずだ。


「——もしもし、沙百合?どうしたの?」

少し息が漏れるような、優しい声。中学の頃から変わらない。

「絵、見たよ。めっちゃ綺麗だった」

「ほんと?ありがとう……!今回かなり自信あったんだ」

電話越しでも分かる、嬉しそうな声。地元から離れて1年以上経つのに、彼女の声だけは距離を感じさせない。


「今日さ、畑の手伝いしてたんだけど、トマトいっぱい取れちゃって。箱、持とうとしたけど……重くて。結局お父さんに任せちゃった」

「大丈夫?無理しないでね」

「大丈夫。できるとこだけやってるよ」

弥生の家は農家だ。彼女は今、実家の手伝いをしている。でも、弥生は昔から体が強い方ではなかった。……だから、無理しているのではいかと心配になる時がある。



 彼女と他愛のない話をしていると、ふと、中学の景色を思い出した。


 休み時間、いつもノートいっぱいに絵を描いていた弥生。私が覗き込むと、彼女は丁寧に描き方を教えてくれた。気が付けば、私も弥生と一緒に絵を描く日が増えていた。

——今、私がバイト先でPOP作りができているのは、あの時弥生が絵を描く事の楽しさを教えてくれたからだ。


 でも、高校に進学してクラスが分かれてから、弥生の様子は少しずつ変わった。廊下ですれ違う度、彼女の姿は細く、静かになっていった。

 朝、学校に来れない日が増えた。弥生は真面目な性格だけど、「授業の進度がきつい」と零す声がかすれていった。彼女の教室を訪ねた時、周りの喧騒から取り残されたように一人でぽつんと俯いていた姿を、私は忘れられない。

 話しかければ笑ってくれたけど——その笑顔の奥は、どこか無理をしていた。


 そして、ある日突然、弥生は高校を辞めた。理由は聞けなかった。……今も聞く勇気がない。

 それでも、学校を辞めた後も何度も会ってくれたし、今もこうして連絡をくれる。その事実に、いつも救われる。


 ……そんなことを思い出していると、ふと弥生が言った。

「最近ね、漫画のいいねが増えたの」

「あ、それ私もいいね押といた」

「ありがとう!嬉しいな」

「描いてる時間がほんとに楽しくてさ。読者が増える度に、もっと描きたくなるんだ」


 ——その声は、本当に幸せそうで。胸をぎゅっと掴まれたように、痛いくらいだった。


 弥生は弥生なりに、ちゃんと“生きよう”としている。体が弱くても、学校を辞めても、好きなものにしがみついて、前に進もうとしている。自分の強みを、確かに掴んでいる。


 ……それに比べて私は、“普通”に生きてきただけだ。


高校を無難に卒業して、大学に入って、課題をこなして、バイトして、一人暮らしして。誰かが辿った“普通”を、ただ歩いてきただけ。その“普通”は無難だけれど、どこか物足りない。

だからこそ、弥生の“好き”に向かっていく姿勢が、眩しくて仕方ない。


 その反面、ふと怖くなる。

 ——この“普通”が、弥生を傷つける日は来ないだろうか、と。

 弥生だって、本当は高校にも大学にも行きたかったはずだ。私が無自覚のうちに、その道の“当たり前”を見せつけていないか。弥生にとって、私は“嫌な奴”になっていないだろうか……。

 ……誰かの明るさが刺さることなんて、私がいちばんよく知っているくせに。



「沙百合?聞いてる?」

「あ、ごめん。聞いてるよ」

 弥生がくすっと笑った。

「相変わらずだね。たまにぼーっとするとこ、沙百合らしい」

「まあね」

私も弥生につられて、思わずふふっと笑った。


「……なあ」

アクスタくんが、肩でぽつりと呟く。

「お前、弥生(こいつ)と話す時だけ、顔が柔らかくなるな」

「……え?」

驚く私に、アクスタくんは横目で続ける。

「他の奴らと話してる時はさ、どっか力入ってんだよ。でも弥生(こいつ)相手だと……なんか“素”になんだな」

その言葉に、胸が緩く揺れた。


 確かに弥生と話すときだけ、私は少し息がしやすい。不安なことがあっても、弥生の声を聞けば、どこか安心できる。


 ……本当に、不思議だ。

【次回予告】

「アクスタくんと親友-2」

電話の向こうで語られる、弥生の小さな日常と言葉たち。

彼女のほんのささいな強さと、生き辛さが胸の奥をそっと揺らす。

親の言葉と、自分の迷いの間で揺れる沙百合に、

ひとつだけ確かな“思い”が静かに灯りは始める——。


※最近少し立て込んでおり、更新頻度が少し下がるかも知れません。それでも物語はまだまだ続きますので、最後まで見届けて頂けると嬉しいです!

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