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13/30

アクスタくんと初恋-2

大変お待たせいたしました!前回の更新から日が空いてしまい、申し訳ありませんでした。


【お知らせ】

活動報告も不定期で更新しています。

お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!


☆11/14 活動報告更新しました!

 昼休みのチャイムが鳴ると、教室の空気が一気に緩んだ。窓の外からはどこかの運動部の掛け声。廊下を走る足音。他愛のない話題で盛り上がる声。

——ここは、栃木の田舎にある、ごく普通の県立高校。長閑な自然に囲まれた、のびのびとした学校だ。窓から差し込む陽の光が眩しくて、やけに温かい。


 私はブレザーを脱ぎ、机の上にお弁当を置いた。

 ヘッドホンを付け、好きなアニメの主題歌を再生する。心地よい音が耳に満ちて、少しずつ教室のざわめきが遠のいていく。

 昼休みは、一日の中で一番”自分の世界”に居られる時間。そう思っていた。


 ——その時だった。


「出雲さん、ちょっといい?」

突然話しけられ、思わずヘッドホンを外す。顔を上げると、隣の席の対馬くんが立っていた。クラスでも明るい方で、男女問わずいつも友達に囲まれている。けれど、どこか真面目そうな雰囲気もあって、他の男子とは少し違っていた。

「ん?」

ずっと教室の隅でヘッドホンをしている私にも、躊躇い無く話しかけて来るあたり——人懐っこさが滲み出ていた。

「明日の単語テストって、範囲どこだっけ?」

「253ページから264ページだけど……でも今頃それ聞くの?」

「いやあ、最近部活が忙しくてさ。一夜漬けするつもり」

「運動部だもんね。お疲れ様」

はは、と笑う声が思ったより優しくて、耳に残った。男子と話す機会なんて滅多に無いのに、不思議と自然に言葉が出てくる。

「出雲さんって、こういうのちゃんとコツコツやるタイプでしょ?」

「……まあ、それしか取り柄が無いから」

「それ、強みじゃん」


 一瞬、息が止まった気がした。向こうは軽く言っただけなのに、嘘のない言葉だった。

なんでだろう。ほんの数秒の会話なのに、胸の奥がじんわり温かい。”ちゃんと見られた”感じがして、照れ臭いけど、ちょっと嬉しかった。



 それから少しずつ、話す機会が増えていった。授業の合間に「この問題分かる?」と聞かれたり、授業終わりに「ノート見せて」なんて言われたり。誰にでも優しい彼だけど、その”誰にでも”の中に自分が含まれているのが、嬉しかった。



 そして、ある日の数学の授業。定期試験の答案が返ってきた。私は用紙をめくり、点数を確認する。

 ——79点、か……。あと1点で80点だったのに。

 悔しさを噛みしめた瞬間、右側から視線を感じた。

「ちょ、対馬くん!?見たの!?」

「出雲さん、79点なんだ」

まさかの覗き見。

「俺87」

「聞いてない」

そう言いながらも、ちょっと悔しかった。彼の口角が上がる。目尻のあたりが、ほんの少し柔らかくなって。

「……やっぱ対馬くんには敵わないな」

「だな。でも、俺も出雲さんに勝てて嬉しい」

冗談めかした言い方なのに、からかう響きは一つも無い。真っ直ぐで、素直で。

 ——ずるい。そう思った。


「次も点数、教えてくれよ」

「いやそっちが先に見たんじゃん」

「俺が負けたら何か奢るからさ」

そう言って、ニヤリと笑って軽く拳を突き出してくる。その瞬間——胸がきゅっと掴まれた。何かを返そうとしても、言葉が出てこない。ただ、頬が熱くなるのをどうにもできなかった。


 彼には敵わない。でも、ちゃんと“同じ場所”で向き合ってくれている。それが、たまらなく嬉しかった。

 真面目で、努力家で、負けず嫌い。それでいて笑うと子供みたいに素直で、人懐っこい。——そんなところが、やっぱりずるい。



 その夜。

「ふぅ……疲れた」

制服のままベッドに倒れ込み、天井を見上げる。


——「次も点数、教えてくれよ」


あの声が、何度も何度も響く。笑い方も、目の形も……全部鮮明に浮かぶ。どうして、こんなにも頭の中で彼がいっぱいになるんだろう。


 その瞬間——胸の奥で、雫が一つ落ちた。

 ぽちゃん、と静かに弾けて、透明なミルククラウンが広がる。音にならない音。誰にも聞こえないけれど、私だけには確かに聞こえたような気がした。


 心臓がどくんと跳ね、鼓動が速くなる。苦しくて、息が詰まる。体は熱くて、動かない。布団の上で反芻すればすればするほど、ますます抜け出せなくなっていく……。


 ——これが、恋?


 ……あんな短い会話で好きになるなんて、馬鹿みたい。それでも、あの笑顔と声が、脳裏に焼き付いて離れなかった。多分、もう元には戻れない。


 その夜から、「対馬くん」は——”ただのクラスメイト”ではなくなった。

【次回予告】


「アクスタくんと初恋-3」


対馬を好きになったあの日から、沙百合は気が付けば目で追うようになっていた。

少しでも心を近づけたくて、彼女はとある"決心"をする。

そして迎えた春――止まっていた恋は、実を結ばずに終わりを告げる。



※沙百合編Part1が終了次第、いずれカルマ編が始まる予定です。

今のところ沙百合目線でしか描かれなかった彼が、ついに“本人”として動き出す日も、そう遠くはない……かもしれません。

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