アクスタくんと初恋-1
【お知らせ】
活動報告も不定期で更新しています。
お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!
☆11/11、11/14 活動報告更新しました!
金曜日の朝。いつもより少し早く目が覚めた私は、机で化粧をしていた。
コンシーラー、良し。眉毛、良し。まつ毛はしっかりとビューラーで上げて——。
「……おい」
低めの声がして、手が止まった。鏡の横を見ると、アクスタくんが腕を組んでジト目でこちらを見上げていた。
「前から思ってたけどさ。お前、金曜日だけやたらと気合入れて化粧してないか?
いつも”マスクすればいっか”ってテキトーなのに」
「え……べ、別に?気のせいじゃない?」
……アクスタくんにはうまく誤魔化せない。だって、今日はフランス語の授業がある日だし。
「ま、好きにしろよ」
アクスタくんは素っ気なくそう言いながらも、その目はどこか探るようだった。私は視線を逸らし、そそくさと化粧を仕上げて荷物をまとめた。
授業開始5分前。私は席について教科書を出していると——
「お、出雲さん。おはよ」
声がしてふと横を見た。そこには、対馬 春樹が立っていた。大学に入って少しチャラめの明るい茶髪になったけど、優しげな目元はあの頃のまま。都会に染まったようで、どこか田舎の空気を残している。
「あ……対馬くん、おはよう」
返事をしながら、少しぎこちなく笑ってしまう。
「俺さ、今日の課題全然やってねーわ」
「また夜更かししてたんでしょ?」
「そう。気付いたら3時でさ。死ぬかと思った」
「ちゃんと寝なさいって……」
他愛のない会話でさえ、胸がざわつく。——このざわつきの理由に、私は自分で気づかないフリをしていた。
授業が始まった。私は背筋を伸ばして、先生の話を聞いている——つもりだった。
なのに。気づけば視線が横へ吸い寄せられる。
対馬くんはペンを握ったまま、あくびをしていた。眠そうに目をこすり、板書をしたかと思えば、またこくりと船を漕ぎそうになる。ここまで眠くなるまで夜更かしするとか、馬鹿みたい。……こんな姿、見なくていいのに。でも、こんなところも、ちょっと愛おしいと思ってしまう自分が悔しい。
「……おい、どこ見てんだよ」
肩の上からアクスタくんがボソッと言った。
「み、見てない!見てないってば!」
慌ててアクスタくんに囁くと、アクスタくんは「ふうん?」と疑わしげに目を細めた。……絶対、バレてる。
授業はあっという間に終わり、気づけば私は自然と対馬くんと一緒に教室を出ていた。
「てかさ、来週の小テスト範囲広くね?」
「ホントにそれな。私も絶対無理」
普通の会話なのに、なぜか胸が脈打つ。何気ないやりとりなのに、どうしてこんなに楽しいんだろう。
「じゃ、また次のフラ語で」
「うん、またね」
軽く手を振って去っていく対馬くん。私はその背中が見えなくなるまで目で追ってしまい、溜息が零れた。
「……なあ、お前」
肩の上で黙って私たちの会話を聞いていたアクスタくんが、じとっとした目でこちらを見上げてきた。
「今日、お前ずっとおかしかったよな。授業中もあいつのことチラチラ見てたし、顔も赤かったし」
「……」
「図星か。あいつが”特別”だったってのは、見りゃ分かる」
胸の奥がきゅっと掴まれ、私はうつむいた。するとアクスタくんは小さく息を吐き、静かに続けた。
「お前、前に言ってたよな。”大学入ってすぐ、失恋した”って」
私は立ち止まったまま、何も言えなかった。それでもアクスタくんはそんな私を見透かしたように、ぽつりと言った。
「……あいつ、だろ?」
返事をしなくても、アクスタくんには分かっていた。私は胸に手を当て、視線を落とす。するとアクスタくんは首を傾げて言った。
「……なあ、お前らに何があったんだよ。聞かせろよ」
その声音は、いつものように茶化す声ではなく——優しかった。
「……アクスタくんには、何も隠せないね」
私は顔を上げて、アクスタくんの小さな瞳を見つめた。
「——話すよ。……私と対馬くんのこと。全部話すよ」
【次回予告】
「アクスタくんと初恋-2」
未だに過去の未練を引き摺る沙百合。
彼女はなぜ、対馬に恋をしたのか。
そして、二人の間に何があったのか——。
あの頃の甘くて痛い記憶が、今、静かに蘇る。
※沙百合編Part1が終了次第、いずれカルマ編が始まる予定です。
今のところ沙百合目線でしか描かれなかった彼が、ついに“本人”として動き出す日も、そう遠くはない……かもしれません。
※最近少し忙しく、更新頻度が少し下がるかも知れません。それでも物語はまだまだ続きますので、最後まで見届けて頂けると嬉しいです!




