アクスタくんとライブに行こう-2
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帰り道。私とアクスタくんは電車の中で、互いに黙ったまま窓の外を見ていた。外は真っ暗で、どこを走っているのかも分からない。電車の揺れ心地だけが、変に胸の奥をざわつかせる。今日のライブの余韻に浸れるはずもなく、胸に刺さる”違和感”ばかりが残っていた。
私はスマホを取り出し、SNSを開く。……見なきゃいいって分かってるのに、勝手に指が動く。
《今日のカルマ、つまらなかったよね》
《見せ場あった?》
《カルマいらなかった》
——ああ、まただ。直接私に向けられた言葉じゃないのに、胸にぐさぐさと刺さる。どうして私は、こんなに苦しまなきゃいけないんだろう。私はただ……カルマが好きで、信じていたいだけなのに。
「今日のカルマ……なんか違ったよね」
私は小さく呟いた。アクスタくんは、私の肩の上でちょこんと座り、黙って電車の揺れに身を任せている。その横顔に向かって、私はぽつりと続けた。
「カルマ、本当は今日のライブ出たくなかったんじゃないかな……。アンチ多いし、今日の客層も絶対苦手だったよね」
言葉にすると、胸が刺されるように痛む。
いつものライブなら、カルマだけしか出ない。来てるのはみんな彼の音を待ってる人ばかりだから、彼も安心して演奏できる。でも今日は——敵か味方か分からない。他の出演者のファンが多くて、自分を嫌っている人間がどこにいるのかも分からない。そんな空間は、きっと怖かったはずだ。
「でも……今日の演奏、好きだった。ちゃんと本気だったよね」
「ねえ、アクスタくん……”信じる”ってどういうことだろう?」
私がそう言っても、アクスタくんは、暫く黙っていた。
電車が次の駅に着く直前、彼はぽつりと口を開いた。
「……なあ」
「ん?」
「お前、前に言ったよな。俺の『才能』と『努力と結果』と、『お前自身』を信じるって。あれ、お前の矜持なんだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、肩がピクリと動いた。分かってる。忘れた訳じゃない。でも今日は——その言葉さえ遠くに感じていた。
「……でも今日のカルマを見て、揺れたんだよ。好きなのに……どうやって信じ続ければいいんだろうって」
「……お前ってホント、めんどくせーな」
アクスタくんは溜息をつき、肩をすくめた。
「今日の”俺”見て、不安になったんだろ?”これが本当に『カルマ』なのか”って」
図星過ぎて、私は目を伏せた。
「でもさ。今日の”俺”を見た自分まで疑う必要はねーだろ」
「……え?」
「最初に”俺”の音聴いた時、お前震えてたじゃねーか。あれ、嘘じゃねえよな?」
「今日の演奏だって、本気だった。確かに気持ちは揺れてるかも知んねーけど、ちゃんと”届けてた”。お前、それ分かってるじゃねーか」
アクスタくんは少し照れたように顔を逸らす。
「信じたいなら……”信じたいって思ってる自分”を信じりゃいい。前にお前、自分で言ってたんだぜ?」
"信じたいって思ってる自分"――その言葉が、胸の奥の奥まで静かに沁みた。
「『自分自身』ってそういうことだろ。“この人を信じよう”って決めた自分が正しいって信じる。それってそいつを信じることに繋がってくんじゃないか?」
私はゆっくりとスマホケースを裏返す。そこには、今日もちゃんとあの日のツーショチェキが挟まっている。
初めて彼の目をちゃんと見た日。あの日の気持ちを、私は嘘だなんて言えない。
「……そうだね。私はカルマが好きで、カルマを信じたい。それだけで、もう十分なのかもね」
私はそう呟いて、電車を降りた。ホームの外は、見慣れた看板が光って見えた。
アクスタくんはふっと笑って、こう言った。
「……お前、いつもは引っ込み思案のクセに、”俺”のことになると強くなるよな」
その言葉に、思わず笑ってしまった。不思議と、さっきまでの不安が薄れていく。
「”信じる”って、もっと気楽で良いんじゃねーか?理屈ばっか並べなくてもさ」
「それに……」
アクスタくんは私のTシャツを指差した。
「お前、俺のTシャツ着てったろ。いいか、Tシャツを着るってことはな……”お前のファンはここにいるぞ”って示すことなんだよ。自分のファンがどこに居るか分かんなくても、たった一人でも——お前みたいなのがいれば、十分なんだよ」
不意に胸が熱くなった。思わず、私はTシャツの裾をぎゅっと握りしめる。
その時、スマホが震えた。SNSを開くと、カルマ本人が投稿していた。
「今日は滅多に出ないイベントだったけど、来てくれた人ありがとう」
たった一文。いつもと変わらない、淡々とした言葉。
どこにでもある言葉なのに——今日だけは、胸にずしりと落ちた。
【次回予告(仮)】
遂に沙百合の失恋について触れる予定です。
沙百合の初恋の相手が登場するかも知れません。
※沙百合編Part1が終了次第、いずれカルマ編が始まる予定です。
今のところ沙百合目線でしか描かれなかった彼が、ついに“本人”として動き出す日も、そう遠くはない……かもしれません。
※最近少し忙しく、更新頻度が少し下がるかも知れません。それでも物語はまだまだ続きますので、最後まで見届けて頂けると嬉しいです!




