アクスタくんとライブに行こう-1
【お知らせ】
活動報告も不定期で更新しています。
お時間があれば是非見て頂けると嬉しいです!
「うーん……これ、ちょっと地味かな……でも、こっちは暑すぎるし……」
私はクローゼットの前で腕を組み、服選びに困っていた。
「どうした?いつも服なんかテキトーなのに」
声の主は、ベッドの上から私を見ているアクスタくん。今日も相変わらず私を茶化してくる。
「今日はライブなの」
私はちょっと得意げに言った。
「いつもと違って、今日は他の人も出るの。色んなソロアーティストが出演するんだ。カルマの出番は短いけど……それでも、行きたくて」
「……ふうん?」
アクスタくんは少し興味を持ったのか、ひょこっと立ち上がってこう言った。
「着てけよ、俺のTシャツ」
「……え?」
「お前、いつも俺のTシャツ部屋着にしたり、体育の時に着てんじゃん。そのくせライブで着てるとこ、あんま見ねーし。ビビってんのか?」
図星だった。今日の客層は少し特殊で、他の人は私服が多いと聞いている。ライブTシャツなんか着ていたら浮いてしまいそうで、正直怖かった。
「ま、どっちでも良いけどさ。でもたまには着てやんねーと、Tシャツも泣くぞ」
私はTシャツを手に取った。背中に大きく「Karma」と書かれていて、ちょっと恥ずかしい。けれど、アクスタくんにそう言われると、不思議と着ていきたくなった。
寮を出る前、私は鏡の前でもう一度髪を整えた。
久々のライブ、久しぶりに”あの人”に会える日——それだけで、今日は少しだけ特別だった。
電車を乗り継ぎ、会場に着いた。繁華街の外れにぽつんとある小さなライブハウス。思った以上に人は多かったけど、私は何とか見やすい位置に辿り着いた。
ふと周囲を見渡すと、やはり私服の人が多かった。グッズをつけてる人もTシャツを着ている人もまばらで——やっぱり他の出演者のファンが多いようだった。……思い切ってTシャツ着てきちゃったけど、私、浮いてないかな……。
後ろの方から、ひそひそと話し声が聞こえてくる。
「てかカルマって人、なんでサポート居ないの?他の人はみんなサポートつけてるのに」
「動員少なくて雇える金無いんじゃない?」
「え~、それ本当だったら可哀想~」
「でもバンド壊した人だし、自業自得でしょ」
ギャハハと笑い声。その一言一言が、背中に突き刺さる。まるで、カルマを”場違いな出演者”として嘲笑っているようだった。
私は血の気が引いた。思わず耳を塞ぎたくなる。「アクスタくん……」と口を開きかけて、横を見た。けれど彼は、何も言わずにステージを見つめていた。
やがて会場が暗転し、照明がステージに当たった。トップバッターは——カルマだった。
いつもの黒と紫のジャケットに、細身のパンツ。髪型もメイクも完璧で、立ち姿はやっぱり”プロ”のそれだった。凛としていて、思わず釘付けになってしまう。
1曲目が始まった。静かなバラード。ギターの音は正確で、繊細で、息を呑むほど綺麗だった。一音一音に心がこもっていて、それだけで胸が熱くなる。集中して真剣にギターを見つめる目元までが美しく、まるで演奏だけではなく彼そのものも芸術の一部であるようだった。ああ、やっぱり”彼らしい”。
——けれど。フロアの空気はなかなか温まらなかった。バラードのせいかもしれない。でも、それだけじゃない。彼のせいではないけれど、どこかが嚙み合っていない。
2曲目、3曲目……と続いたが、演奏される曲はどれも静かで、じっくり聴かせるようなものばかり。激しい曲、ノリのいい曲が一つもない。なぜだろう——いつもの“ギラつき”が、今日は感じられなかった。
「落ち着いたセトリだな」
アクスタくんがぽつりと呟く。私は何も言えなかった。胸の奥に、その言葉が静かに沈んでいく。
MCもあっさりしていた。
「今日はお集まりいただき、ありがとうございます。他にも色々な方が出るので、是非最後まで楽しんでいってください」
それだけ言って、カルマは軽く一礼し、静かにステージから退いていった。
——私は知っている。カルマは決して手を抜く人ではない。いつでも音楽に真摯で、ちゃんと私たちに”届けてくれる”。今日の演奏も、間違いなく本気だった。目の前の音に向き合って、確かに”届いていた”。それでも、気付いてしまった。彼の心が、ほんの少し遠くにあることに——。
いつもの彼なら、もっと攻める。もっと自分をぶつけてくる。MCだって、いつもは言葉を探るように喋る。その不器用なところも、垣間見える笑顔も——全部含めて”カルマ”なのに。
今日は、違った。静かで、寡黙で、影を含んでいた。まるで——何かを恐れているように見えた。
「カルマ……今日はちょっと違う」
そう口にした瞬間、胸の奥に針を刺すような痛みがチクリと走った。
【次回予告】
「アクスタくんとライブに行こう-2」
カルマの姿が、心に引っかかったまま消えていく。
——「どうして今日は、あんな顔だったの?」
言葉にできないモヤが、胸の奥で騒めく。
心に残った違和感は、まだ言葉にできずにいた。
※沙百合編Part1が終了次第、いずれカルマ編が始まる予定です。
今のところ沙百合目線でしか描かれることのなかった彼が、ついに“本人”として動き出す日も、そう遠くはない……かも知れません。
※それともう一つ。最近少し忙しくて、更新頻度が少し下がるかも知れません。それでも物語はまだまだ続きますので、最後まで見届けて頂けると嬉しいです!




