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第三話 死にたいのに死ねない!?

「はあああぁぁー……」


 神殿長はもの凄く長い長いため息を吐いた。

 エレノアが神殿に来て以来の最長記録かもしれない。いや、確実にそうだ。


「つまり、恋しちゃったから死んで会いに行きたい、と」


「そうです!」


 満面の笑みで堂々と答えるエレノアに、神殿長は目眩がした。


「それで城でのあの騒動ですか……陛下の心労は如何程か想像もつきません」


「神殿長、私またすぐにでも冥王様に会いに行きたいんです!」


 エレノアが言う「会いに行く」とは、すなわち「ちょっと死んできます」と同義。

 飛び出して行ってしまいそうなエレノアの首根っこを、神殿長がすかさず捕まえた。


「待ちなさい!さっき自分で言いましたよね!?忘れたんですか!?」


「あぁ……『まだ死ぬ時ではない』って言われたことですか?」


「そうです。冥王様がそう仰ったなら、あなたの魂には、全ての神を統べる創造神様のご加護が刻まれているということ」


 この世界を作ったと言われている創造神エクトゥワ。


 彼には兄妹がいて、太古の昔、世界を3つに分けた。


 創造神エクトゥワは再生の世界を司り、死後の世界と人間界を結び、命を生み出す神。

 妹神は気まぐれな豊穣神で、人間界を司り、様々な実りを助ける神。

 兄神は死後の世界──冥界を司る冥王で、魂を計り道を分け、再生の世界へと送る審判の神。


「エクトゥワ様のご加護があるということは、あなたはエクトゥワ様の持ち物ということです。エクトゥワ様は自身も、その持ち物も、100年毎に再生を繰り返します。つまり──」


「つまり?」


「あなたは、100歳の寿命まで死ねない、ということです」


「えぇぇぇぇぇーーーー!?」


 神殿長の言葉に、エレノアは目を剥いた。


「ちょちょちょ、待って下さい!困ります!死なないと会えないんですよ!?」


「一瞬死ぬことはできますよ?先程のように。ですが、冥王様もそれをわかっているので、魂がこちらに返されているのです。生き返った時に無傷なのは、再生のご加護のおかげでしょう」


「え……じゃあ私、100歳になるまで冥界に永住はできないんですか?」


「……そもそも、冥界に永住はできないと思いますよ」


「そんなぁーーーー!!」


 エレノアは膝から崩れ落ちた。

 ぽろりと涙を流す彼女の背に、困り顔の神殿長が優しく手を添える。


「さあ、もう死ぬなんていうのはやめて、平和のために──」


「わかりました!私、聞いてきます!」


「エレノア!?」


 エレノアはガバリと立ち上がると、一気に駆け出した。


(ゼルフィウス様に直接お聞きすれば、何か方法があるかもしれない!!!)


 神殿の最奥、祈りの間に到着すると、エレノアは一気に神聖力を解放した。


(国全体を覆う程の守りの結界を作れば、国の平和のためにもなるし、一瞬で死ねるはず!)


「待ちなさい!!エレノア!!」


 神殿長の静止の言葉も虚しく、エレノアは一瞬で国全体を眩く照らした後、不安そうな表情でその場に倒れた。







「──と、いうことなんです!」


 またもや訪れることに成功したあの部屋で、エレノアはゼルフィウスに大慌てで説明した。

 美しい眉根を寄せ、冥王はお馴染みのポーズでこめかみを抑えている。


「寿命と加護の話は、最初に説明した」


「え?」


 目を丸くしてゼルフィウスを見ると、彼はため息をついた。


「まさか、聞いていなかったのか?」


「そ、そんなことは──そうですね。聞いていませんでした。申し訳ありません」


 初めてゼルフィウスに会った時、確かに彼は長いこと何かを説明していた。

 だが彼の美貌に見惚れていたエレノアは、それを全く聞いていなかったことに思い当たった。


「何か……何か方法はないのでしょうか?」


 悲壮感たっぷりで問うと、ゼルフィウスがぴくりと眉を上げた。


「何のだ」


「私がここで暮らすための方法です」


「何故?」


 すっと細められた麗しい瞳に見つめられ、エレノアは言葉に詰まる。

 何とか絞り出した声は、緊張で裏返ってしまった。


「それは……その、ここが気に入ったからです!」


「……言いたいことはそれだけか?」


「う……その──」


 言い淀むエレノアから視線を外し、ゼルフィウスは窓の外を見た。

 薔薇の庭園は美しいままだが、空には暗雲が広がり、今にも雨が降り出しそうだった。


 ゼルフィウスは一度ゆっくりと瞬きをすると、エレノアに言った。


「もう帰れ。お前の寿命は100年。それまでここには二度と来るな」


「え?そんな、私──」


「命を粗末にするな。──送還」





パチン。





 目を開けると、そこにあったのは見慣れた自分の部屋の天井だった。


 生き返ることを見越して、神殿長が運んでくれていたのだろう。


 エレノアは呆然とし、寝台の上で身動き一つ取れないまま天井を見つめる。

 息を吸おうとしているのに、うまく吸えない。

 最初に死んだ時の痛みなんて比べものにならない程、エレノアの胸は軋んだ。


「う……」


 一度生まれた小さな嗚咽は、濁流となってもう止めることはできなかった。


「うわああああああぁぁぁぁーーーーん!!!ふっ……ううぅ!!うわあぁぁーん!!」


 ゼルフィウスの言葉が、何度も何度もエレノアの心を突き刺した。




── お前の寿命は100年。それまでここには二度と来るな。




 死ぬことが許されない。

 だが死ななければ会えない。


 エレノアの涙は、止めど無く溢れ続けた。



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